新たなる人事と新しき土地
「おかえりなさいませ」
サラ以下、妃たちの出迎えを受けて館に戻ると、僕はすぐに溜まっていた政務の消化を始める。
まずは配置転換だ。
帰りの道中オッカメー領にいたオクサたちは拾って帰ってきたので城下には五千余もの兵が集まったことになる。
ここには魔法兵、魔銃兵が入っていないにも関わらずだ。
おお、戦国時代ならもう一端の大名だな。
もう数年はサイオウからの新徴発兵が千人規模で送られてくるし、一段落した頃にはオウチ領の団塊組が千人規模で徴発可能になる。
んーん……そんな兵力、抱え続けられるんだろうか?
たしかに最下級ながら貴族階級である騎士と違って兵役義務期間は五年、本人の意思次第で最長十年と決めている。
だから無限に兵数が膨らむってわけじゃあないんだけど、彼らに支払う恩給だって馬鹿にならないからなぁ。
ま、それは喫緊の課題なわけじゃないし、先送りだな。
「コンドー、大臣級会議を召集する」
「誰を呼ぶのですか?」
まずは大臣。
厚生大臣クレタ、農林大臣ルダー、内務大臣イラード、通称大臣チロー、外務大臣ケイロ、教育大臣アンミリーヤ、魔法科学大臣チカマック、軍務大臣オクサに大蔵大臣のコンドーだろ?
ラバナルも呼びたいところだけど、こういうのは興味ないだろうからチャールズな。
市井の経済事情に詳しい政商のジョーも欠かせない。
そして忍者部隊の棟梁オギン。
あとは誰がいる?
「セイソク領の代表者も呼ぶべきではないでしょうか?」
ああ、そうだな。
多くが旧ズラカルト領攻略時からの古参ばかりだ。
ズラカルト男爵の次男アンデラス、アシックサル季爵の家臣だったアゲール、ムクジャラ男爵領からはホーンとジョージーを呼ぼう。
「かしこまりました」
会議は五日後に開かれた。
会議では現状報告から始まって課題の洗い出し、各大臣の要望を訊きつつ文官の人事異動について話し合う。
その後、周辺各領の情勢を睨みつつ軍の再編を考え、その上で一年後、三年後、五年後の展望と戦略を踏まえた予算編成に着手する。
そんな会議を十日余り続けた。
特に予算の割り振りは、一つ決めるごとに整合性が取れなくなったりして議題を行ったり来たりしたのが大変だった。
あー、これはあれだ。
転生者が多いから領民に対する福祉の充実に予算が多く使われていて、どんぶり勘定では済まなくなってるのが原因だ。
次からは各省庁で事前に概算要求してもらわなきゃ立ち行かないな。
とはいえ、自然経済が色濃く残っている地域も多く貨幣経済的考え方がまだまだ浸透していない文化水準の中でゴリゴリの貨幣価値を元にした予算審議ができるのかははなはだ疑問だなぁ。
「最後に対タイクバラ戦に参戦する都合で支配下に収めた領地の件ですが」
と、ダイモンドが言う。
ああ、忘れていた。
取り上げられたオッカメー領内の実効支配地の代わりに新たにドゥナガールから下された旧ベヤサン領とは別にそんな土地もあったなぁ、すっかり失念していたよ。
「いかがいたしましょうや?」
「兵が駐留しているのか?」
「はい。セイソク領は旧ベヤサン領とは隣接しておりませんでしたし、オッカメー領に堂々と侵入するのも憚られましたので万が一の退路確保と糧道確保の意味を込めて守備隊を置いております」
あれ? そういえばその辺ってたしか
「燃える石を採れるところではないか?」
「ああ、そういえば……ダイモンド殿、具体的な支配領域をお示しいただけませんか?」
ルダーがずいと身を乗り出す。
オギンが拡げた詳細な地図と、ダイモンドが今回の進軍で使った地図が見比べられる。
「残念です、もう一つ隣の領のようです」
と、本当に残念そうにチカマックがため息をつく。
「いや、この際だ。その空白地まで支配地域にしてしまおう。ちょうど新兵も追加されたところだ。彼らの実戦訓練もかねて屯田させようじゃないか」
彼らはまだ成人したばかりの農民の次男三男が多い。
半農半士の生活もそれなりに受け入れやすかろう。
もちろん彼ら新兵だけでは心許ないので歴戦の古参兵に率いてもらうことにする。
さしあたってどれほどの兵を送り込めばいいだろう?
石炭を掘るためにはやはりグリフ族やドゥワルフ族に協力を仰いだ方がいい。
採掘した石炭の輸送コストを考えると、近代化のための研究機関は採掘現場近くに置いた方が効率がよかろうな。
さて、誰を行政官として派遣しよう?
あー、人事のやり直しか。
なんて感じでまた一日、人事のやり直しで費やしてしまったのであった。
会議から十日、空白地占領軍が組織されて出発することになった。
総大将はダイモンド。
サビーとガーブラが志願して従軍している。
チカマックとルダーが最長三年の期限を設けて家族と共に石炭事業開発に出向する。
どちらも要職である大臣を務めていたので、一時的に副大臣が大臣代行として城下で職務にあたることになっている。
他にも各省庁から優秀な人材が出向くことになっていた。
さらに今回は一気に町を興すことを念頭にジャス・オン組の建築集団と、サイコップを親方とする鍛治師の集団が従軍する。
おそらく石炭採掘事業が軌道に乗り、町が発展すれば産業革命の進化がゴリゴリと進むことになる。
周辺領主の知るところになれば当然、その技術を我が物にしようと試みるだろうから町の防備に城壁造りは急務だし、武器鍛治は軍事力維持のためにも現地に根を下ろしてもらうに限るのだ。
それと時を同じくして新たな領地の代官としてアンデラスを任命した。
一部にはズラカルト男爵の次男という出自の彼を危険視する意見もなくはなかったが、いつまでもそんな了見の狭いことを言っていても仕方ないと一蹴した。
この人事は彼を信頼しているからというのはもちろんのこと、今後も有能な人材はたとえ寝返ったり敗戦後に臣下に降ったものであっても取り立て、然るべき地位につけるぞというアピールの側面もある。
戦国領主は考えているんだよ。
もちろんアンデラスの執事ベンソンや近衛隊長ボニー・デイル以下、元々ズラカルト家に仕えていた連中だけじゃなく目付役に文武官数名をつけている。
出陣式に立ち会って訓示をたれ彼らを見送ると、ようやく日常が戻ってきたなぁという気になった。




