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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
一人(と一匹?)暮らし
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さゔぁいぶ

第一人称ってお話が進みませんね。

 僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。

 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。

 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。

 あまりにも切ない。

 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。

 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。

 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。

 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。

 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し、自分が生まれ育った家があったはずの場所へふらふらと歩いていく。

 そこは当然のように焼け落ちていた。

 決して立派だったわけじゃない。

 けど、家族三人平凡に暮らしていた場所だった。

 僕は、焼け跡をかき分けてむろをほじくり出す。

 どこの家庭にもある保存食が置かれている場所だ。

 僕は念の為走るのに邪魔にならない程度に両手に干物などを持ち、室を消し炭で隠し直して雑木林に戻ると、別の昨日とは違う木に登ってそれをかじる。

 丸一日以上何も食べていなかった僕は、保存食のやたらしょっぱい味に難渋しながらも飲み下した。

 するとどうだろう、喉が乾いてきた。

 ま。当然だな。

 前世の知識が不思議現象を解説する。

 水……どうしようかな?

 村の井戸は使えない。

 近くに農業用に引いている用水路はあるけど、まだ盗賊団がいるような気がして怖くていけない。

 あれこれ考えてふと思いついたのが、今は秋だということだった。

 この世界も秋は収穫の季節だ。

 雑木林は煮炊きの薪に使ったり、家や道具の材料にしたりするため、集落のために人の手が入った林だ。

 林の中には果樹もあったはず。

 まず、現世の記憶を辿る。

 あそこにピサーメの木がある。

 収穫前に失敬して三軒先のじいちゃんに怒られた。

 あたりの気配に注意しながら木を降り、ピサーメの木を探す。

 記憶の通りにピサーメの木はあった。

 あ、いや、この木は渋い木だ。

 記憶を再び手繰り寄せて甘いピサーメがなる木を探す。

 見つけた。

 スルスルと登って熟したのを探す。鳥についばまれたのを見つけてそれを食べる。

 だって、それが一番うまいんだ。

 二個食べた後、再び場所を移動して木に登る。

 そんな猿のような生活をその後二日続けた僕はようやく村に戻ることにした。

 一つには持ち出した食べ物がなくなったから、もう一つはもう、盗賊団もいなくなっているだろうと思ったからだ。

 この間に僕はピサーメの葉で簡易な背負い袋を編んでいる。

 母ちゃんがやっていたのを見よう見まねで作ったものだからいびつだし出来たばかりでもうボロボロ風味だけど、僕の初めての工芸品だ。

 村に戻った僕は村人の埋葬をする。

 人の死には慣れている。

 現世の僕が、だけど。

 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。

 当然医療水準も高くない。

 田舎だからってのはあるかもしれない。

 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。

 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。

 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。

 だからこの村はよく人が死んだ。

 子供は特によく死んだ。

 僕にも姉と妹がいたらしい。

 妹の方はかすかに覚えている。

 姉は怪我がもとで、妹は流行病で亡くなったそうだ。

 村人は誰が誰だかほとんどわからないから、申し訳ないけど、まとめて村の墓地に埋める。

 そんな僕のことを見ていた奴がいた。

 気づかなかったのも無理はない。

 四日も気の休まらない樹上生活で疲弊していたのと、作業に集中していたからってのもあるけど、相手が妖精だったからってのが一番の要因だ。


「大変だったね」


 と、そいつは埋葬が終わって埋葬のまじないを唱え終わった僕に声をかけた。


「!?」


 当然ビビるわな。

 前世の僕は当然として、現世の僕も妖精を見るのは初めてだった。

 妖精は十二スンブくらいの女の子で、髪は長くて栗色で、背中に透明なトンボのような羽が生えている。


 うん、フェアリーだね。


「案外冷静ね」


 驚いてるよ。


「さてと……」


 妖精はヒラリと飛ぶと、僕の肩あたりにやってくる。


「最初のクエスト『生き残り』クリアおめでとう!」


 なんですと?


「頭にハテナが浮かんじゃってる? 無理もないか。前世の記憶は戻ってるよね?」


 僕は、ゆっくり頷く。


「早い話が君はなろうテンプレ的に転生したわけ」


 あ、やっぱり。


「ま、神様が誤って殺しちゃったとか悲劇的な死をかわいそうとか思ったわけじゃないんだけどね」


「じゃあ、どうして転生を?」


「ん? それは知らない。とにかく、最初のクエストをクリアしたら私がこの世界のナビゲーションとしてあなたのサポートをするようにって神様から仰せつかったわけよ」


 てことは、神の眷属とか天使の類か? この妖精は。


「うむ、我輩は天使(見習い)である。名前はまだない」


 漱石さんちの猫ですか? あなたは。


「てことで、第二クエストは私に名前をつけること」


 …………。


「早くして?」


「真っ先に浮かんだのはチャムかリリスかなんだけど、権利凸が怖いから間をとってリリムってことにしよう」


「異世界にまで凸できたらすごいよね?」


 あー、それもそうだね……。

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