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作戦はこうだ!

 その日の夜、ルビレル、ダイモンド、オクサの三大将を僕の陣幕に呼び寄せての軍議が開かれた。


「明日の作戦を指示する」


「というと、攻勢に出るのですね」


「ルビレルの言う通り、明日は我が軍から攻勢に出る」


「ようやくですか。腕が鳴りますな」


 ダイモンドが二度、右腕を回す。


「いまだ戦力は向こうの方が多勢、勝算はおありなのですか?」


「オクサの心配ももっともだ。ザイーダ」


 目配せをして関門周辺地図を拡げさせる。


「勝利のために打った布石で伝えていないものがある。遊軍三隊に魔法部隊と本陣の一部、計三百の部隊を敵陣の後ろに回してある。先程、到着の報告が来た」


「そういえば、彼らを戦場で見ていませんでしたな。遊軍だったため、気にもとめておりませんでした」


「敵も同様の作戦を立てていたらしいが、これは我らが索敵に引っ掛かっている。数四百四十」


 説明に合わせてコマを配置していく。


「ほぅ、やりますな」


 ルビレルが褒めたのは僕の指揮かコチョウの索敵能力か、はたまた敵の軍略か?


「敵奇襲部隊は明日早朝、本陣からサビー、ガーブラを出し逆奇襲をかける。これでこううれいはなくなる」


「サビーとガーブラを出すとはいえ、四百以上の敵軍に二百足らずで勝てると踏んでおるのですか?」


 実際は百四十しか繰り出さないのだからちょっと厳しい。

 しかし、


「深い森の中での早朝の奇襲だ。軍のていをなさせなければ負けはしない」


 はず。


(「はず」は言葉にしないんだ)


(当たり前だろ)


 リリムのツッコミは華麗に流し、作戦の説明を続ける。


「敵はいまだに情報密度の高い長距離通信手段を持っていない」


 僕らはラバナルに飛行エア手紙メール糸電話テレフォン移動用モバイル電話テレフォンという通信用魔道具を開発してもらっているけど、敵軍にそんな文明の利器は存在していない。

 ……はず。


(また「はず」なんだ)


 こういうことは断言できないから。

 僕らが必死に魔道具を開発したように、どこかで同じようなものを開発していてもおかしくない。

 「必要は発明の母」という諺が僕の前世にはありまして、特に乱世は「必要」が次々と生まれる時代だ。

 また、前世世界では「文明は戦争によって発達した」とも言われていた。

 事実、僕がこの世界でラバナルやチカマックと開発した魔法や魔道具などは、そのほとんどが軍事関係の発明だ。

 クレタが開発に躍起になっている石鹸や、ルダーが農業分野で次々に作っている道具や肥料など平和目的の発明もないわけじゃないけど、やっぱり軍事関係の開発が圧倒的多数である。


 閑話休題。


 敵軍で最速の通信手段はおと狼煙のろし

 これはルビレルたち元ズラカルト男爵麾下の部隊にいた騎士たちの証言に基づいた情報だ。

 この方法では伝えられる情報量が多くない。

 特に奇襲作戦において伝えられる情報は、戦術の性格上「成功」か「失敗」の二つに限られる。


「なるほど、ここ数日の敵軍の様子見的な軍事行動は、その奇襲を前提に立てられた作戦によって行われていたのですな。だから無理に攻めてこないのか」


「奇襲成功後の大攻勢のために犠牲を抑えていたということか」


「それにしたってやり方があろう。ああもあからさまだと『なにか企んでいる』と、こちらに知らせているようなものだ」


 三人とも敵の動きになにかあるとは考えていたわけだ。

 なにかを待っている……と。


「さて、敵の奇襲を潰した後はこちらの番だ。逆奇襲を成功させたら、今度はこちらから門を開いて全軍で打って出る」


「正面からぶつかり合うとなれば、先ほど申した通り敵方多勢。別働隊に四百以上割いているし戦死者も少なくはないでしょうが、それでも二千近くはいるはずです。対してこちらは八百余り。二倍半の兵力差は城壁に頼らず受け止めるには荷が勝つのではと愚考いたします。時期を見て背後からの奇襲を行うとして、判断を間違うと一気に押し切られてしまいますぞ」


「そこで、其方そなたたちの出番というわけだ」


 日常生活で「其方」なんて使ったことないぞ。

 自分で言ってて背中がむず痒い。


「と、言うと?」


能力向上ドーピング……と言う魔法がある」


 加速アクセルなど運動能力や反射速度の向上に作用する魔法や、精神に作用する魔法などを複雑に組み込んだ悪魔の魔法能力向上。


「一般兵を十人力にも百人力にもするという魔法ですな」


「名だたる武将である其方たちなら千人力にもなろう?」


 ニヤリと笑ってみせるとダイモンドがガハハと笑い出した。


「これは愉快だ。オクサ、お館様は我らに指揮官ではなく一介の武者として無双せよとおっしゃられる」


「力試しは騎士の本懐。確かに血が滾る」


「お館様」


「なんだ? ルビレル」


「能力向上の魔法には確か副作用あったかと?」


 僕が使った時は開発したばかりで微調整がなされておらず、一時間ほどいつもより二割り増しで強くなれるかわりに効果が切れた時に全身の筋肉痛や肉体的、精神的疲労が一気に押し寄せまったく動けなくなる諸刃の剣だった。

 その後研究が進み、持続時間が一時間半、効果が通常の一割り増しでその後の疲労が日常生活ならなんとかなる程度まで軽減された能力向上改と、持続時間一時間を維持しつつ向上率を三割り増しに底上げした能力向上(きわ)みが完成している。

 極みは悪魔だ。

 僕は使用後の負荷軽減を指示したんだから改だけでよかったのに、ラバナルが極みを生み出してしまった。


「では、ワタシは極みで」


「オレも極みで戦わせてもらう」


 前世のコンピュータゲーム並みの無双をしそうだな……同士フレンドリー討ち(ファイア)だけは避けて欲しいものだ。


「何人揃えるおつもりでしょうか」


 ルビレルに訊ねられ、僕は魔法使いの人数と一人当たりの使用回数、味方有力武将などを勘案して十人と答える。


「なら、正面と左右の大将と副将二人で九人。あとは……」


「私だ」


 そう、僕だ。

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