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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
誰だって失敗はする、そこからが勝負なんだ!
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何事も思い通りにはいかないもんで

「それと、これはサラからの提案なんだが……」


 と、前置きをして公衆浴場開設の提案をする。


「体を清潔に保つのは流行はやりやまいを防ぐのに役に立つと妻……厚生大臣も常々申しております」


「オレも宿場で湯につかるのは好きだ。石鹸で体を洗うとさっぱりして気持ちよく寝られるからな」


 ラビティアも好意的だ。


「パロ村で水浴びの習慣がついて以来、ワタシも体を拭いた後のさっぱりした感じは好きです。石鹸で汚れを洗い流した後に湯にひたるのは確かに気持ちいいですし、それだけのことで病が減るのであれば積極的に推進するのもやぶさかではないのですが……」


「問題があるのか? イラード」


「水の確保が」


 ああ、それは大問題だ。

 農業用水の確保のためにため池を作っているハンジー町はおそらく大丈夫だろう。

 けれど、まだため池作りの計画段階でしかないゼニナル町で公衆浴場を作ると、ハンジー川水系の流域である旧村集落はいいとしてゼニナルからの用水路下流の旧オグマリー市域で水不足が起きかねないな。

 銭湯を作ったせいで農業用水や飲み水が確保できなくなるとか本末転倒だ。

 井戸を掘って井戸水を組み上げるのもいいけど、ゼニナル町は水脈に乏しくて難儀していると報告が上がっていた記憶があった。


「宿場が三つ、風呂で賑わっているでしょう?」


「ああ」


「最近、昨年から夏場に流れてくる水量が減る傾向にあるのです」


 使いすぎか。

 意外と深刻な問題じゃないか。


「公衆浴場はため池整備に目処がついてからとしよう」


「あと話し合うのは外交のことですね?」


「外交?」


 イラードの言葉をとらえてオクサが鼻白む。

 イラードは文官に指図してテーブルにどデカい地図を拡げさせる。

 王国全図だ。

 勢力図がずいぶん詳細に書かれてるな。


「王国は現在、王権が失墜していて群雄が割拠している状態です」


 イラードの説明によると、そもそもははくしゃくちゅうしゃくしゅくしゃくしゃくだんしゃくの五爵位をもつ上流貴族が封建領主とされていて、その数約二百。

 江戸時代は封建領主である大名を俗に三百諸侯とか呼んでいたことを考えれば、広い領土を思っていたよりずっと少ない領主で支配していたんだなと言う印象だ。

 それが現在、僕みたいに独立宣言をする勢力が台頭して五百以上の実効支配者が覇をとなえているという。

 サラの父のように暗殺された貴族なども少なくないだろう。

 歴史オタクとしてはお家騒動に豪族の叛旗、部下による下剋上とか、当事者じゃなければ血湧き肉躍るワクワクの展開なんだけどな。


「ちなみにこの情報は飛行エア手紙メールでオギンによってもたらされた最新情報です」


 と、地図に色々と書き加えながらイラードは立て板に水が流れるが如く説明していく。

 あんちょこ(資料)なしってことは頭に入っているってことだろ?

 いやいや、イラードすご過ぎない?


「チローからは、お館様の命を受けてズラカルト男爵領の向こうに隣接するドゥナガールちゅうしゃくと同盟を結ぶべく近々政商のジョーサン・スヴァートと出立する旨、報告を受けています」


「その通りだ」


 僕がうなずくと、ラビティアが不思議そうな顔をする。


「そこまでお膳立てできていて、会議の議題にする必要はなんだ?」


「同盟外交を取るということは、近々男爵とことを構える予定だということですかな?」


 オクサが僕に話を振ってきた。


「三年」


 僕は指を三本立てる。


「三年で戦の準備に目処をつけ、ズラカルト領に攻め込みたい」


 「おお」とどよめきが起こる。


「ズラカルト領全域を支配下に収めることができれば、オグマリー区は安全な生産地にできる」


「領民も安心できますな」


 と、ルビンスは言ったけど、どうだろう?

 僕はズラカルト領の先も見ている。

 つまり、この先も領土拡大を志しているわけで、領民皆兵である限りは戦に駆り出されて死ぬ可能性を否定できない。

 安全な生産地というのは、戦のための生産力を安定確保するという戦略の一環であって、決して領民のためじゃないというのが現実だ。

 僕の使命は生きること。

 神様に与えられた生きるという使命のために人を死地に送ろうってんだから、業が深い。


「交渉はチロー達に全権を委ねるとげんを与えている。イラードを中心に引き出して欲しい条件を煮詰めてくれ。各大臣の要望を聞くのを忘れるなよ」


「かしこまりました」


「各代官は、領民の慰撫いぶと支配地の開発、生産力の向上に尽力してもらいたい」


「お安い御用と安請け合いはできませんが、お館様のため、全力を持って当たりましょう」


 と、オクサが言えばサイも


「ハンジー町はその三年でルダー殿の計画通りの町にいたしましょう」


 と、自信たっぷりに宣言する。


「ワタシは父の代理としてここに居合わせた者ゆえ、お二方のようには言えませんが、父であればお館様のお望み通りの町にできることでしょう。ワタシも微力ながら父とともに尽力いたします」


「うむ、よろしく頼む」


「ははっ」


 と、居合わせた全員が僕に頭を下げて会議はお開きになった。

 細かい詰めは僕を交えるより、それぞれの分野の実務家の文官達とやった方がいいに違いない。


 翌日、僕らはイラード達に見送られ、最後の帰路に立つ。

 三の宿、二の宿と二泊してバロ村の我が家に戻ってきた。

 ひと月ぶりの我が家だ。

 久しぶりにサラと水入らずで過ごせるな。

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