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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
誰だって失敗はする、そこからが勝負なんだ!
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測量法自体はこの世界にだって元々あったよ

 町の視察を終えた僕は十名の護衛を引き連れ、二人の狩人を先頭に森へ分け入っていた。

 護衛隊長にはルビンス。

 バロ村から付き従っているキャラとガーブラ、それにドブル、ホーク、セイも加えると総勢十八名の大所帯だ。

 ホークにガーブラとドブル、セイをつけて南門を基準点に三角測量を行ってもらう。

 僕らは周囲を警戒しながら計測された数字を三角関数に代入して計算しては地図に書き起こしていく。

 しかし、計算って大変だ。

 前世じゃ計算機でパパパだったけど、今はこっちのそろばん弾いても結構な時間がかかる。

 sinサインcosコサインtanタンジェント……前世じゃ試験でずいぶん苦しめられたけど、今世でも付き合わされるとは思わなかった。

 しかもメートル法じゃないから単位が複雑でそれがまた計算をややこしくする。

 こっちの最小単位はスンブ。

 領内では領主である僕の親指の第一関節までの長さで統一されている。

 手首から肘までの長さが次の単位でシャッケン。

 十スンブで一シャッケンと一般に言われているけれど、実際には九・三七五スンブで一シャッケンだ。

 この誤差は測量には致命的なので、今回はスンブを無視してシャッケンを基準にそれより短い距離はシャッケンを百分率で表すことにしている。

 シャッケンの上の単位はシャル。

 三シャッケンで一シャルだ。

 そして、この国で一番大きな長さの単位はカル。

 一カルは千シャッケンと突然数字が大きくなる。

 まったく使い勝手が悪いことこの上ない。

 いかにメートル法がありがたい存在だったのかを思い知る。

 あー、この際だからシャッケンを十等分してこれを十スンブということにしよう。

 今描いてる地図の裏に注釈として書き込む。

 一日中森の中で過ごして日が暮れる頃、そろそろ測量ができなくなるというので初日の活動を終える。

 この日の食事は二人の狩人が獲ったラバトを野草などと煮込んだスープ。

 野趣あふれる味わいだ。


「お館様」


「なんだ? ルビンス」


「父からこの調査、周囲十カルから四十カルくらいの範囲で行うと聞いておりますが」


「ああ、そのつもりだが?」


「お館様が陣頭指揮を執らねばならないものなのですか?」


「ああ、測量自体は別に誰が行ってもいいんだが……」


「別の目的があるのですか?」


「城をな」


「城?」


「ああ、居城を築くのに良い場所を探しているんだ」


 それも趣味全開の日本のお城をね。


「オグマリー町の南側にということですね?」


 南門から始めたんだからまぁ、そうあたりをつけるよね。

 僕が頷くと、


「では、今回のお館様自らの調査は南側だけ

、四半周範囲といたしましょう」


 九十度の範囲で帰ろうということか。


「残りは文官を動員して一気に行わせます」


「山で過ごすのは嫌か?」


「まさか。私も武人の端くれ。この程度で音を上げるようなことはございません。ただ、お館様が長いこと山中に籠られていると領内で不測の事態が起きた時に対応が後手後手になる懸念がございます」


「飛行手紙があるじゃないか」


「飛行手紙では限界があります。そもそもお館様は今回どれほどの飛行手紙をお持ちになりましたか?」


 言われて荷物をまさぐると十二枚だった。

 うん、確かに少々心許ない。


「……仕方ない。ルビンスの言に従おう」


「ありがとうございます」


 その後六日ほど森の中を分け入って測量を続け、予定していた範囲は見て回っただろうということになり、町に戻ることにする。

 測量はガンガン進んだけれど、それを元にした地図作りは計算が思った以上に進まなくて生の数字だけが溜まった状態に。

 これは持ち帰って文官たちに引き継がなきゃダメだった。

 護衛隊の隊長であるルビンスがあてにできなくてほとんどの計算を僕がしなきゃならなかったからだ。

 腕っ節の強さを買われての護衛隊とはいえ、一般武官がここまで数学ができないとは思わなかった。

 こんなことなら文官も何人か連れてくるべきだったよ。

 この六日の間に起きた主な出来事といえば、日に何度かの野生動物との出会い。

 主にラバトやデヤールだったので狩人が仕留めていた。

 一度だけ頼んで僕もデヤールを狙って矢を射掛けてみたけれど、うまく急所に当たらず撃ち漏らしてしまった。

 自分の弓ではなかったからと言い訳しておこう。

 一度だけといえばボワールにも出くわした。

 草食のラバトやデヤールと違って雑食のボワールは気性が荒く人に向かって突進してくることもある。

 今回は出会い頭で驚いたボワールが一番近くにいたガーブラめがけて突進したものの、すれ違いざまに首を抱えられてそのまま柔道の技をかけられるように一回転、首を折られて絶命した。


「ボワールとしてはやや小型とはいえ、素手で倒しちまうとは、やっぱりお館様の護衛様はお強いですね」


 などと案内の狩人に感心されていた。

 いや、ガーブラはかなり特別だと思うぞ。

 帰路について三日。

 僕らはまだ森の中にいた。


「まずいですね」


 と、眉根を寄せて狩人の一人が呟く。


「ああ、掴まっちまったようだ」


「どうしたんだ?」


 と、訊ねると


「聞こえませんか? カンカンと木を叩くような音が」


 というので耳を澄ますとなるほどそんな音が聞こえてくる。


 あれ? てことは……。


「ええ、トゥラウラの拍子に掴まっちまったみたいです」


「脱出するためには元凶になっているトゥラウラを倒すか音の範囲を抜け出すしかありません」


「しかし、音の方向がまったく判らんぞ」


 ドブルの言う通りだ。

 どうやらある種の魔法なのだろう。


「トゥラウラ自体は人に害をなすことはない。モンスターに分類されているのはひとえにこの厄介な能力ゆえだ。自己防衛だとデミタが言っていた」


 ルビンスが僕のお抱え植物学者の名を出して解説してくれたが、さて、この窮地をどう切り抜けたらいいものか。


「お館様、お気をつけを」


 と、キャラに耳元で囁かれた直後、全身が総毛立つほどの気配を感じた。

 別のシチュエーションで囁かれたかった。

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