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願ったり叶ったり

 種まきが終わり、家の建築作業が始まった。

 畑仕事が一段落いちだんらくつけば、同時進行でいろいろなことを行えるようになる。

 クレタとカルホは引き続きルンカー作りを続けている。

 焼成ルンカーは手間がかかって大量生産が思うようにできないので半分は日干しルンカーにすることになった。

 内壁なら日干しでもいいだろうっていう妥協だ。

 さすがに窯焼きの時はジャリが手伝っているけれど、それ以外の工程はすべて二人でやっている。

 泥遊びみたいなもんなのか、とても楽しそうだ。

 ヘレンは午前中アニーと一緒に食物採集。

 安全のためジャリとジャスが毎日交代でついていく。

 時々ラバトをとってくるあたり二人ともそれなりに目端が利くようだ。

 ルダーは午前中を畑仕事に費やす。

 「雑草取りや水やりのタイミングを見るくらいは一人で出来るから」とか言ってるし、実際種まきが終わってしまえば忙しくなるほどの作業はない。

 僕はといえば、午前中は猟に出る。

 と言っても罠を仕掛け、罠にかかっていないか見て回る簡単なお仕事だ。

 この間久しぶりに大物のデヤールがかかっていた。

 ラバト一匹程度じゃ全員の腹は満たせないけど、デヤールなら腹一杯食べてもまだ余る。

 その日は新鮮なデヤールで焼肉パーティをして残りは部位ごとにハムだったりベーコンだったり干し肉だったりを作り、皮はジャリと一緒になめす。

 職人志望と言っていただけあって手際も良くいい革が出来上がった。


 …………。


 あれ? 転生の際ちょっと優秀にしてもらったんじゃなかったっけ、僕。

 ま、それ以来ラバトの革など黙っていてもジャリが鞣すようになった。

 午後は建築だ。

 まずは中央広場を囲むように四軒の家を建てることにした。

 一軒目はヘレンとアニーの家。

 クレタとカルホも一緒に面倒見てくれるということで、リビングと寝室ふた部屋という平屋の家を最初に建てることにした。

 僕が縄張りをして男たちで柱を立てる。

 ルンカー積みはルダーの指示で始まった。

 ルンカーで作るのは壁と暖炉、屋根はルンカーをタイルにしたもので葺いた。

 窓はガラスなんかあるわけもなく単なる開口部で、ジャスがのこぎりで頑張って板にしたものをはめ込む。

 ドアも同様木製で、内側からかんぬきで閉めるようにルダーが作ってくれた。

 最初の一軒が出来上がるのにおよそ一ヶ月。

 二軒目も同じ構造の家をジャリとジャスのために作ることになった。

 慣れると早いもので最初の一件よりハイペースで作り上げているところにキャラバンがやってきた。

 それはこの村に来る三隊のキャラバンのうち不定期にやってくる一隊だ。

 若い商隊長は開口一番こう言った。


「なんにもなくなっちゃってるなぁ。家が建ってなかったら引き返してたぜ」


「ジョーさん!」


「久しぶり。どうなってるんだ?」


 「かくかくしかじか」と、僕は作業をルダーたちに任せてこれまでの経緯を説明する。


「なるほどな。災難だったな」


 ジョーは心底哀悼の意を表してくれる。


「何か手伝えることはあるか?」


「相談に乗ってくれると嬉しいな」


「お安い御用だ。しばらく滞在してうちの奴らを手伝わせよう」


 なんてことも言ってくれる。

 ありがたいじゃあないか。

 キャラバンは旅支度を一度解き、まだ陽の高いうちから炊き出しを始めだす。

 その中からジョーが三人呼び出して、僕に引き合わせてくれた。


「右からザビー・タン、ガーブラ・ウォウウォウ、オギン・エンだ」


 これまたどっかで聞き覚えるある名前だぞ。


「お前たち今日からこの村の住人な」


「え!? ちょ、待てくださいよいきなり」


 と、抗議の声をあげたのは紅一点のオギンだ。

 判る、判るよ。

 いきなりはやっぱダメだよね、心の準備くらいさせて欲しいよね。


「──っていうか、こっちも事の成り行きに戸惑ってるんですけど」


「ああ、そうだな。こっちの事情も説明しなきゃいけないよな」


 と、前置きして話してくれたのはおおよそこんな経緯だ。

 放浪のキャラバンとはいえ、拠点というのは存在していたんだけど、僕らと同じで運悪く拠点にしていた街が襲われて壊滅してしまったという事だ。

 僕らと違うのは野盗に襲われたんじゃなく、軍による略奪だったらしい。

 ひどいことする軍隊だなぁ。


「で、俺たちも新しい拠点が必要になっているわけだ。できれば内乱で無法化し始めている国内で、比較的安全な拠点が欲しい」


「ここは去年野盗に襲われた村ですよ。安全ですか?」


「比較の問題だよ。そりゃあ街場の方が利便がいい。けれど富が集まっていることが判っている場所は略奪しやすい場所ってことでもあるからな、敵対勢力の支配地への攻撃ってのは少しずつ増えてて安全とは言いにくい」


 そんな状況になってるんですか?

 この国は。


「でも、この村だって僻地とはいえズラカルト男爵領なわけで、隠れ里ってわけにも行きませんし……」


「じゃあ隠れ里にしちゃえばいいんだよ」


 簡単に言ってくれるよ。


「正式に棄村・廃村手続きをとってしまえばいいんだろう?」


 え?


「できるんですか!?」


「たぶんね」


「願ってもない!」


「お? なにか考えがあるんだな?」


「なんというか……独立自治を考えていまして」


 僕が頭を掻きながら照れ臭そうに言うと、ジョーはマジで口に含んでいた飲み物を吹き出した。


「たった八人の集落で独立自治ぃ!?」


 ニタニタ笑いながらそう言うジョーは、けれども楽しそうに呵呵大笑する。


「気に入った! 俺にもその野望に加担させろ」


 じゃん は あたらしい なかま を て に いれた。

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