深夜の二人風呂
ちゃぽ〜ん。
なんて言ってみる。
食事を済ませ腹もこなれた夜更けの宿で、やってきましたお風呂の時間。
灯りはまだまだ贅沢品。
サービス業の宿とはいえ、無料提供できるようなものじゃないので一般客は早々に夜具に入って白川夜船。
そんな廊下を地球由来の携帯灯火「手燭」を持って僕とサラとキャラがしずしずと風呂を目指して歩いている。
残念ながらキャラは護衛だ。
ちなみに手燭と呼んでいるけど光源は蝋燭じゃなくて、水に溶け込んだ魔力を魔法陣を刻んだ宝石で吸い出し発光する生活魔道具照明だ。
じゃなんで懐中電灯的な形にしなかったかっていえば……雰囲気作り?
脱衣所に着くと僕はさっさと服を脱いで風呂に入っていく。
ここら辺は男のたしなみでしょう。
サラは僕の妻だけど、服を脱ぐところをジロジロ見るのはやっぱダメでしょ。
薄暗がりの室内に風呂の湯気が充満している洗い場には手桶とたらいが積まれている。
洗い場は四、五人並んで洗えるくらいのスペースで、湯船は膝を抱えれば三人くらい入れる大きさだ。
僕の知る限り領内の宿場の宿では一般的な作りである。
石鹸と手拭いは基本、自分で用意することになっているけど宿でも売っている。
ちなみに石鹸はクレタがセザン村で医者をやっていたときに色々と試作をしていたこともあってセザン村の特産品だが、三ヶ村の住民は宿で石鹸を買って家に持って帰ることが多く、宿場の人気お土産ランキングで常に一位らしい。
手桶で湯船からお湯をくんでたらいに入れる。
そのお湯で濡らした手拭いに石鹸を擦り付けて泡立てていると、サラが入ってきた。
宝石の種類によるものか、電球色の薄暗がりなのではっきりとその姿を見ることはできないけれど、むしろそれがサラを必要以上に色っぽく見せている。
「お背中流しましょう」
「頼む」
僕から手拭いを受け取るともしゃもしゃと石鹸を泡立てて背中を洗い始める。
「村を出るのは久しぶりだろ?」
「はい」
「どうだ? 久しぶりに村を出た感想は」
「村の中ではずいぶんと自由にさせていただいているので、むしろ窮屈に感じます」
たしかに村の中は治安もよく、サラは供も連れずにふらりと店に立ち寄って食料品や日用品などを自分で買っていたりする。
それに引き替え道中はホルス車の中、村についても前後を護衛に守られて歩くのだから気苦労も多いのだろう。
…………。
脇はくすぐったいな。
「しばらくは窮屈な思いが続くかもしれないけど、領主の妻の勤めだと思って我慢してくれ」
「心得ております。なにせわたしは王位継承権者ですから」
と、耳元でささやく。
おふぅ!?
「そこは自分で洗う」
と、手拭いを取り上げて自分の残りの部位を手早く洗い、お返しとばかり
「今度は僕が洗ってあげよう」
と、言うと
「背中だけで充分ですからね」
と、いたずらっぽく笑って背中を向ける。
かわいいかよ。
……いや、かわいいんだけど。
(ごちそうさまー)
互いに体の洗いっこをしたあとは同じ石鹸で髪も洗う。
クレタは躍起になってシャンプーとトリートメントの開発をしているけど進捗状況はどんな感じなんだろうか?
石鹸で髪を洗うとしばらくの間ぎっしぎしになるんだよね。
シャンプーも欲しいけど、この肌の脂を根こそぎ持っていっちまう石鹸の改良も頑張ってもらいたいもんだ。
石鹸を洗い流したあとは二人で湯船に浸かる。
膝を抱えれば三人くらい入れる風呂ではあるけど、やっぱ風呂は足を伸ばして入りたいじゃない?
でもそうすると、必然的に体勢が決まってしまうわけで……。
どんな体勢かっていうと、膝を伸ばしている僕の上にサラが乗るというか、お膝に抱っこというか……。
そうすると、あれだ。
後ろから抱き抱える風になって、な?
脱衣所から出てきた僕に向かってキャラが放った最初の一言が
「お館様もずいぶんと長風呂ですね」
である。
うん、ごめん。
後から出てくるサラの上気した顔が色っぽい。
「湯当たりでもしたんじゃないかと心配し始めていたところです」
乗り込まれなくてよかった……。
だってホラ、R18じゃないし。