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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
誰だって失敗はする、そこからが勝負なんだ!
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春の政策決定会議 2

「さて、グリフ族との件は後日改めて確認するとして、他に報告事項はないか?」


「報告があるとすれば」


 と、声を上げたのはダイモンド。


「この冬の間に四度、ズラカルト男爵軍が攻めてきまして」


 そういえばそんな報告受けてたな。


「一度目の進攻の際はオグマリー城壁から矢と手榴弾でこちらの損害なく追い返したのですが、関所建設が始まってからの二度目以降は主に建設中の関の破壊が目的となっていたようで、予定通りの建設ができていないのではないかと思われます」


 僕はチラリとイラードを見る。


「破壊工作は織り込み済みでしたが、度重なる攻撃にさらされたことで労働者が現場を嫌って思ったより集められず、予定が押しているのは確かです」


「なるほど。では、まずはその対策から話し始めよう」


 冬の間に四度も出兵してきたことを考慮すると、兵糧事情から夏場の出兵は十中八九ないだろうというのが大方の見方だった。

 ここいらへんは元傭兵や騎士たちの意見だからまず間違いないだろう。

 それを前提に夏場のうちに建設を進める案を採用する。

 問題はどれだけの労働者を動員するかだった。

 春の農作業が一段落すれば人手は多少すく。

 しかし、冬の間ずっと出稼ぎ労働に従事していた人たちが、夏場にもきてくれるのだろうか?

 もちろん領主命令で無理に集めることは簡単だ。

 徴集に応じれば年貢の免除率が上がるし、日銭も稼げる。

 とはいえ、家族持ちなら家族とできるだけ一緒にいたいと思うだろうし、農民として農作物の育成も気にかかるに違いない。

 いまやジャスから独立した大工集団は五つを数えているが、すべてを集めたって人数的には高が知れている。

 秋までに形だけでも関所にしようと思えばそれなりの人数動員しないとどうにもならないだろう。

 それにジャスにはオグマリー町とハンジー町の間に六の宿建設を依頼しているほか、各大工集団もそれぞれの町や村で建設に忙しいに違いない。

 実際、ゼニナル町では商人たちを抑えるために代官所の移設建て替え願いが出ていて僕は許可を出している。

 着工はイラード次第だ。


「やはり、領内全域から労働力を徴集するのは難しいでしょうね」


 チローがしたり顔でいう。


「全域からでなければ可能だと?」


「ええ、街道は関所予定地まで整備していたと思いますが」


「建設資材などの搬送のためもあって、関までの道は冬の間に整備した」


 返答したのはルビレルだ。


「ではオグマリー町から徒歩で一日ほどの距離かと愚見いたします」


「ふむ。したり」


 したり!?

 大河ドラマくらいでしか聞いたことがない単語が出てきた。

 チラリとルダーを見るとルダーもこちらを盗み見てニヤッとして見せる。

 同志よ。


「ホルス車で輸送すれば朝に出て昼には着くな」


 ジョーがそろばんを弾き始めたようだ。


「なるほど、オグマリーからだけ人を集めようというのだな」


 イラードもそろばんを弾いているようだ。

 こっちは予算執行の計算だけどな。


「それなら定期的に家に戻れるから不満も抑えられるかもしれない」


「自宅で休養を取れるなら精神的にも体力的にもかなり健康を維持できるわね」


 クレタもアシストするようならこの案は通ったようなもんだな。


「ルビレル、どれほど動員できる?」


「旧町域のものを男女隔てなく動員したとすれば一度に五十人は送り出せるでしょうか? それを三組作って交代で建設にあてることができると思います」


「オグマリー町全域から集めるのは難しいか?」


「旧第三先の村から旧町域まで徒歩で一日の距離ですが」


「そこは賃金に色をつけることで対処しましょう」


「イラード殿がそういうならそうですね、一組八十人くらいにできるでしょうか?」


「専従の兵士どもも送り込めばよい。そもそも関所は軍事施設だ。兵どもが勝手を判らないではなにかと困るからな」


「ダイモンド殿のいうことももっともだ。土木作業をしていれば体が(なま)ることもないだろうし、兵が詰めていないとズラカルト軍が攻めてきた時にまた関を壊されてしまうだろう」


 と、カイジョーも賛同した。


「常備兵は現在総数百六十四人。町の治安維持にも必要ですが、二、三十人くらいずつなら送り出せると思われます」


「え? それしかいないの?」


 あ、やべ。

 素が出ちゃった。


「オルバックたちと領内から出て行った騎士、過日の謀反首謀者たちの粛清がありましたからね。もちろんいざというときは領内には傭兵が結構いますから倍くらいの軍勢にはすぐなりますよ」


 と、カイジョーが言えば


「我が領は皆兵ですから動員をかければ一千人の動員も可能です」


 とイラードが補足する。

 すげー、桁が上がった!


「では、その方向でいこう。異論のあるものは?」


「異議なし」


 元気よく返事をしたのはチロー。


 …………。


 調子のいい。


「次の議題はアンミリーヤが先ほど要望していた文房具の件といこうか」


 僕がそういうと、彼女の顔がパァと明るくなった。

 相変わらず栄養が足りていない容姿だけれどな。

 それでもいくらかマシになったか?

 血色がよくなったんで元々の整った顔立ちが人の目を引くようになったらしく、求婚者がちょいちょい現れているとクレタが言っていたっけ。

 ちなみに現在の子供たちの文房具は卓上黒板とチョーク。

 地球では十九世紀当時世界中の学校で石板と石筆が使われていたようだけど、さすがにジョーも使ったことはないそうだ。

 かくいう僕も某アメリカドラマや名作劇場アニメで見たくらいの知識しかない。

 公文書は今やすっかり皮紙から植物紙にとって代わり、筆記具につけペンやなんちゃって鉛筆が使われているけれど、どれも転生者の要求水準に届いていない。

 さて、どうしたもんかね。

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