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実は結構八方塞がりだったりする?

 僕とルダーには前世の記憶がある。

 それもここよりずっと文明レベルの高いと思われる世界の記憶だ。

 しかも、リリムによれば転生する際の()()によって余すところなく思い出せると言う恩恵を受けている。

 その前世知識で持って、この世界を生き抜くと言う神様から与えられた使命をまっとうしなきゃならないわけだ。

 確かに進んだ文明の知識はこの世界を生き抜くためのアドバンテージにはなるだろう。

 だけど、知識だけでは意味がない。

 実用化できなければ知識だって宝の持ち腐れってやつだ。


「俺たち前世記憶を持った転生者の使命はこの世界で生き抜くこと……だったな?」


 その質問にはリリムが答える。


「そうよ。世界のバランスが神様の思惑から外れかけているから、異世界から転生者を呼んでバランス調整をしようって話」


「生きてるだけでバランスが調整できるってのはどう言う仕組みなんだ?」


「さぁ」


「さぁ……って」


「それについては僕にちょっとした推察があるよ」


「ほぅ。聞かせてもらおうか」


 これまでの情報からざっと考察したところ、転生者を呼び込むことそれ自体バランスを崩す要因になる。

 これはリリムが最初に話してくれたことだ。

 崩れかけたバランスを戻すのにそれまでの秩序、法理法則は役に立たないことがある。

 それまでの常識が通用しないわけだから全く新しいアプローチを試みるのは前世では問題解決の割とよくある手段だった。

 とはいえまったく新しいアプローチってのはそれまでの常識の中にいたものにとってはなかなか出来ることじゃない。

 そこでよくあるのが外部の人間を入れると言うやり方だ。

 物事を当事者としてみていない第三者視点というのは時に見落とされている問題点を指摘したり、およそ考えもつかない解決方法を提示できたりする。


「つまり、神様の思惑で行くと俺たちはただ生きているってだけじゃない状況になるってことか?」


「もうなってるし」


「……ああ、そうだな」


「で、この先考えられるのがまず、ここに王国の干渉が必ずあるってこと」


「どうして?」


 不思議そうな顔をしてリリムが僕の目の前を飛ぶ。


「だって元々ここは王国内だし」


「なるほど、秋になれば徴税に役人が派遣されるだろうな」


「たぶん、事情に関係なく去年並みの税を要求されると思うんだ」


「ああ、予想がつく」


 商隊長の話を考慮に入れると戦争のための増税だって考えられる。

 そうなるとせっかく村を復興しようって言うのにそれどころじゃなくなっちゃう。


「そうなると好むと好まざるとに関わらず王国の動乱に巻き込まれることになるだろ?」


「ジャンはその時どうする心算こころづもりなんだ?」


「そこだよ。どうしよう?」


「選択肢は考えてるんだろう?」


「まぁ、確かに腹案はいくつか考えている」


「言ってみろよ」


「まず、おとなしく従う」


「そんな気ねぇだろ」


「確かにね。この村の状態でそんなことできるはずがない」


「次は?」


「村を放棄して逃げる」


「村の再興を始めた段階でその選択肢もないな」


 だよね。


「こっからが本題で、大前提は独立自治ってことなんだけど……」


 どう言う手段で独立自治を勝ち取るかってことが問題なんだ。

 A案は野盗に襲われて村がなくなったって情報を秋までに領主のところに届けるもの。

 村そのものを放棄、ないものとして扱ってもらい隠れ里的に暮らしていく案だ。

 本当はキャラバンにお願いできてればよかったんだけど、これ考えたのは村の復興を始めてからだからまぁ後の祭りってやつだ。

 B案は武装蜂起。

 こっちはこっちで現在総人口八人の村で可能なのかどうかって言うそもそも論になる。

 どっちも今の所現実的な解決策がない。


「そりゃあ、悩むな」


 だろ?


「ルダーはどうしたい?」


 聞かれてルダーは腕を組んで低く低く唸るだけ。


「あー……そろそろ寝ようか」


 ラチがあかないのでそう提案すると、


「む? ああ、そうだな」


 そういってルダーは自分のテントに入っていく。

 僕は月明かりを頼りに自分の小屋へと戻る。

 小屋のそばには窯があって今はルンカーを焼いている。

 火の番はジャリがやっているようだ。

 軽く挨拶をして小屋に入ると、寝床にはクレタとカルホが寝ている。


 …………。


 仕方ないけど。

 仕方ないんだけど、今この小屋は一時的にってことで炭がうず高く積まれていていつもの寝床以外にスペースがない。

 そのスペースに気持ちよく寝ている姉妹を起こして自分が寝るわけにもいかないし、ましてや姉妹と一緒に寝るなんて(前世倫理的に)論外だ。

 小屋を出た僕は寝支度持って水車小屋へと移動する。

 籾殻もすっかりなくなった小屋に毛皮の敷物などを敷いてそこに横になる。

 はてさて、やることが多いなぁ……。

 畑仕事に家造り、食料の確保も備蓄量見ながらしなきゃいけないし、村の外交戦略も練らなきゃならない。


「……リリム?」


「何?」


「これで本当に人生ノーマルモードなんか?」


「言ったでしょ。大半の人間の人生はこんなもんよ。前世の生活を基準に考えないで」


「まったく……前世の人生がイージーモードに感じるよ」

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