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御隠居さんは結局厄介ごとに首突っ込む事になる

 翌日、町場を離れる僕たちは解体作業中の城壁を見る。

 城壁解体は僕の指示によるものだ。

 城塞都市は閉鎖的で不衛生に陥りやすいからというクレタの助言もあるけれど、周辺の農村域を一つの行政区域として編入したから、人の意識を閉鎖的差別的にしないようにという思惑あっての政策だ。

 この世界にも当然のように差別と偏見はある。

 就職氷河期世代として、オタク第二世代として世間の差別と偏見に晒されてきた身としては、身につまされるんだよ。

 もちろん、封建世界に身分階級は厳然と存在しているし、僕は領主なので「おまいう」で偽善と言われても言い返せないところはあるんだけどね。

 あともう一つ、解体した建材をため池工事などに再利用する目論見もある。

 SDGsだよ。


(なにカッコつけてんのよ。単なる資源節約、期間短縮のリサイクルでしょ)


 そうともいう。

 産業革命前の文明水準じゃ石積みにしろルンカー積みにしろ大量生産が難しいから、今ある資源を人海戦術で確保しようという苦肉の策だ。

 なんにせよ戦国乱世はスピード命である。

 それにしても、現場責任者がひどい。

 やたら怒鳴り散らしているだけで指揮を執っているつもりでいるようだ。

 文官採用試験の合格発表がまだだから、あれが使えない貴族文官その1ってところだろうな。

 そいつの下で僕には理解不能の指示を理解してテキパキと人夫に仕事を割り振っている男、ありゃすげーな。

 なんてぼーっとみていたら、こちらにボンクラ文官その1が気づいたらしく、例の男を呼びつけてこっちを指差しながら怒鳴り散らしている。


(…………)


 別にさっさとこの場所から退散してもよかったんだけど、優秀そうな男に興味が湧いたんでしれっとその場に居続けてみる。

 案の定、男は申し訳なさそうな顔をしてこっちにやってくる。


「旅のお方、一方的で悪いが我が主の気が散るというのでここに用がなければ立ち退いてもらえまいか」


 「気が散る」って……。

 いやいや、そんな理由で追い散らされるのかよ。

 安全に配慮した場所で見学してるだろうに。

 ……まぁ、いいや。


「それはすまなかった。ところで、あなたの名は?」


「ワタシですか? ……コンドー・ノレマソです」


 うん、胡散臭そうな顔されたが当然だし仕方ないな。

 もののついでだ、ぶしつけついでにもう一つ質問してみよう。


「あなたも文官採用試験を受けたのでしょうね?」


「…………」


 ん?


「受けてないのですか?」


「受ける資格がないと我が主に言われまして……」


 おい!

 思わずボンクラを睨んでしまう。

 今回の試験は成人領民すべてを対象にした試験だぞ。

 試験を受けさせない権限なんて誰にも与えてない。

 あいつ、何様のつもりだ?

 しかし、これはまずい。

 実質実務にあたっていた、使えない貴族連中の使用人たちが相当数試験を受けさせてもらっていない可能性が浮上したぞ。

 いくら新体制に合わせて優秀な人材を登用したって、その新体制は一から作ったものじゃない。

 実務経験0の人間ばかりじゃ行政まわんないだろ。

 やばいよ、やばいよ。

 僕はチラリとオギンを振り返る。

 彼女は小さく頷くとスッとどこかへ消えていった。

 さすがだぞ、オギン。

 とにかく、目の前の男だ。

 こんな見るからに(見た目(ルックス)じゃなく、仕事ぶりの)優秀な人材をみすみす取りこぼすわけにはいかない。


「それは問題だ」


「なにが問題なのでしょう?」


「今回の試験は領内の成人で希望する者すべてに等しく試験を受けさせるようにと言うのが()()()のご意向であるはず」


「そうなのですか?」


「ええ」


「……しかし、すでに試験は終わっているので……」


 と、しょんぼりと肩を落とす。

 僕は懐から取り出した飛行手紙にサラサラと手紙を書き、おうしたためる。

 この花押、僕の自筆であることを証明するために日本の風習を取り入れたものだ。

 今の所花押の存在自体を知っているのは前世持ちと各町村の長など役職を持った十数人に限られている。

 しかも、飛行手紙に描いているのだから偽文を疑いようもないだろう。


「これを代官のサイ・カークに渡すといい。便宜を図ってもらえるはずだ」


「あなた様は一体……」


「なに、ちょっとお節介がすぎるただの旅の隠居ですよ」


「隠居……? その若さでですか?」


 ケホケホ……。


「お貴族様が怒鳴っている。僕らもそろそろ退散致しましょう」


 ボケがボケにならなかった恥ずかしさも手伝って、僕らはそそくさとその場を離れることにした。

 城壁の外に出ると、オギンがキキョウとコチョウを伴って待っていた。


「オギンから話は聞いているか?」


 キキョウが片膝ついて答える。


「貴族連中が自分たちの使用人たちに文官採用試験を受けさせていない可能性があるとか」


「ことは急を要する。大至急オグマリー、ゼニナルへ赴き代官と協力の上調査にあたり、然るべき処置を取らせろ」


「貴族への処罰と再試験ですね?」


 確認は大事だね。

 僕はうむと頷く。


「かしこまりました」


 言うが早いか、二人はスッといなくなる。

 あれ?

 こんな芸当、オギンとキャラ以外にもできたのか?

 できるようになった……のか?


「諜報人員が足りていないのではないか?」


「はい、できれば彼女たちの配下に四、五人。せめて今の倍の人数が欲しいです」


 オギンにキャラ、今の二人とホタルの五人で三町三ヶ村はそりゃさすがに厳しいか。


「この旅が終わったら、人材の発掘育成を頼む」


「善処します」


 領内一斉体力測定でもするか……。

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