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天使か悪魔か

 村長生活一週間。

 伐採した木は百本を超えた。

 僕が冬の間に切ってきた木と合わせて百二十本はある。

 何本かはすでに炭と炭焼きの燃料に使っている。

 日本では成長の止まる冬の間に木を切るのを良しとしたとか。

 芽吹き始めたこの春に切ったのはまぁ仕方ないとはいえ残念だ。

 本来なら最低でも一年は寝かせるべきなんだろうけど、そんなことも言ってられないのでこれをこのまま使う。


 …………。


 そういえば、僕は日本家屋をイメージしていたし、実際暮らしていた村は木造家屋ばかりだったけど、レンガの家の方がいい気がしてきたぞ?


「リリム」


「何?」


「野盗とか、また襲ってくると思うか?」


「どうかしらね? 村の規模によるんじゃない?」


 なるほど、襲っておいしい思いができなきゃ意味ないもんな。

 しばらくは来ないか……。


 僕は、日課になっている朝会で、今日からの仕事の役割分担を発表する。

 朝会を開くあたり、前世のサラリーマン時代にだいぶ引きずられてるよなぁ……。

 炭焼き第一弾は窯を冷ましている段階で今日からルダーもみんなと活動できる。


「今日から畑の作業をします」


「それりゃいい」


「遅いくらいだからな」


「だろうね」


「家はどうするんだ?」


「モノには手順ってのがあるからさ、ジャリ」


 ジャリって、なんでこう反抗的なんだ?

 まるっきり不良高校生みたいだぞ。


「クレタとカルホとアニーにはレンガを作ってもらう」


「レンガ?」


 ん?

 レンガ知らないのか?


「ルンカーのこと?」


 ああ、名詞が違ってたな。

 最近思考の時は前世記憶を元に考えてるから前世の単語で考えてることが多かった。


「そうそう、ルンカー。作り方知ってる?」


「日干しルンカーなら作れる」


「日干しか……」


 この辺は割とよく雨が降る。


「作り方だけ教えてやるよ。一回で覚えろよ」


 と言ったのはジャリ。

 お? 意外と面倒見いいの?


「実はジャリ、職人志望だったんだ」


 とジャスが教えくれた。


「そうなの? じゃあ、ジャリに任せるよ。子供たちを手伝わせるから」


「何に使うんだ?」


「家をルンカー作りにするんだ」


「え?」


 ん?

 なにか?


「すごーい!」


 え?

 アニーちゃん何に感動してるの?


「リ、リリム?」


「この国では金持ちにしか使えないことになってるの知らないの?」


 詳しく説明を求めると、ルンカーで家を作れるのは法律で決められた一定額の税を納めた者だけということになっているらしい。

 まじか……。

 いや、そんなもん無視だ無視。

 そもそも、ここはすでに棄てられた廃村だから王国の法律なんて知るか。

 戦国時代に突入した世界で自衛の手段を手放すなんて自殺行為だ。


「ま・オレも畑仕事よりモノ作ってる方がいいからそれで行こう」


 いいんかい。

 いや、こっちもありがたいんだけど。


「どれだけ作ればいいんだ?」


「とりあえず十日間で作れるだけ」


「つまり十日間は畑仕事とルンカー作りで過ごすってことだな?」


「そういうこと。じゃ、始めようか」


「鋤鍬は揃ってるのか?」


「うーん……あるっちゃある」


 ちゃんと使えるかどうかは疑わしいけどね。


「使ってみなきゃ使えるかどうか判らないもんなのかい?」


「ええ、まぁ……」


「まぁ、ないよりマシさね」


 ヘレンさんはなんのかんのでたくましい。


「では、今日もよろしくお願いします」


「しまーす」


 畑仕事に向かう道々、ルダーが僕と並んで歩く。

 何か相談したいことがあるのか? 聞きたいことがあるのか?


「何か考えていることがあるのか?」


「え?」


「いや、炭だレンガだってこの世界で馴染みのないものを矢継ぎ早に作るなんて、考えがあってのことかと思ってな」


「うーん……リリムが言うには、勇者以外の転生者ってのは崩れた世界のバランスを調整するために招き入れられているんだってさ。で、その崩れたバランスってのは僕たちの境遇や商隊長さんの話などからみて王国の継承問題で内戦状態になってることだと思うんだ」


「だろうな」


「ところでリリス。転生者はみんな君の声も聞こえるの?」


「どうかな?」


「聞こえるな」


「あら、そうなのね」


「リリムによると転生者の使命は生き残ることなんだってさ」


「なるほど……生き残りの確率を上げようってことか」


「吉と出るか凶と出るかは判んないけどね。そもそも転生者って前世で運のなかったやつっぽいじゃない?」


 言いながらリリムを見ると、天使妖精のくせに小悪魔みたいな笑顔でこう言った。


「っぽい、じゃなくてまさに不運にも命を落とした人ね。勇者は選ばれて呼ばれるんだけどさ」


 ルダーがそれを聞いて呆れとショックを混ぜたような顔をする。


「生き残り《サバイバル》のために出来る限りの事をしようって考えて当然だと思わない?」


「…………だな」

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