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僕だってチートがあれば苦労なんてしていない  作者: 結城慎二
地歩を築け 地力を養え 生き抜くために
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天下に旅する 剛毅の武士

 僕の元に残ったのはノーシ、ブロー、ヤッチシ、カレン、ブンターとラバナル。

 いずれも一騎当千の強者揃いだ。

 この中じゃ僕が一番戦闘力で劣っているんじゃなかろうか。


「暴れたりぬ」


 いうと思った。

 けどねラバナル、僕から見たら十分暴れてるからね。

 相手側の死者の八割はラバナルが殺したんでしょーよ。

 それくらいは報告を受けるまでもなく明らかに魔法による致命傷なのが判ってんだからね。


「で、お試し魔法はどうだったのさ」


「ふむ、見ての通り殺傷力は問題ないが、命中精度がイマイチでの。今回は大規模戦闘ではなかったからいいものの、乱戦では使い勝手が悪いことが判ったわ」


「どんな魔法だったんだ?」


鉄の(スチール)弾丸バレットは鉄の玉を弾き飛ばす魔法じゃろ? 距離が離れると狙いが定まらんし、もっと殺傷力を上げられないものかとチャールズと話し合っての。矢尻のようにしてはどうかと作ってみたのじゃが……鉄球より命中精度が低くてかなわん」


 と、見せてくれたのは確かに鉄の矢尻だった。

 なるほど、この形状じゃ狙った通りに飛んでくれないだろう。

 しかしなぁ……教えていいものだろうか?

 いずれは到達する進化の先なわけだし、命中精度が低くて友軍誤射フレンドリーファイヤが増えても困るしなぁ……。

 けど、弾丸の歴史でいえば一気に三百年は進めることになるぞ。

 ある意味オーバーテクノロジーだろ、それって。

 悩むなぁ……。

 なんて考えが顔に出てしまったらしい。


「なにか解決策でも閃いたか?」


 なんて訊かれてしまったらもう答えるしかなくなることは、何年も交流してきた経験上不可避だった。

 僕はしかたなく落ちていた木の実の中でももっともイメージにあった一つ拾い上げ、掌の上でラバナルに見せる。


「なんじゃ?」


 日本では椎の実弾なんて呼ばれていた。

 これを施条ライフリングで旋回させるとジャイロ効果が生まれ、真っ直ぐ飛びやすくなる。

 ということをこの世界の常識と言語に落とし込んでざっと説明する。


「回転させるだけなら鉄球でもよくないか?」


 むーん……銃身の施条を通すための形状とも言えるし、魔法で射出するならそれでもいいのか?

 いやいや、やっぱり空気抵抗がウンタラカンタラで……空気抵抗の原理は理解できるのだろうか?


(悩む前にとりあえず説明したら?)


 リリムのアドバイスに従って説明することにしたら、ラバナルはあっさりその原理を受け入れた。


「なるほどな。確かに矢も放たれた後は旋回しておるわ。その空気を分け入り進むというのも音のことわりから空気が抵抗するというのも理解ができる。空気というのは意外と重たく固いものだということもな」


 魔法使いっていうのは案外科学とも親和性が高いのかも知れない。


「しかし、前に飛ばす力と旋回する力を一つの魔法陣に組み込むのはなかなか複雑じゃの。なにかいい解決策はないものかの……」


 おっと、こんなところで思索にふけられても困る。

 もう日も暮れかかって……というか、残照がかすかに残っているって状況だ。


「ラバナル。考えるのは帰ってからにしよう。今日は森の中で野宿になるからできるだけ急いで野営の準備をしなくちゃ」


「おお、そうじゃの」


 ラバナルの作り出す明かりの魔法を頼りに森の中に分け入って、一度ナルフの群れを追い払い、みんなが寝られる適地を見つけて火を焚く。

 飯が出来上がる頃にはルビレル達が合流し、軽く飯を腹に詰め込んだ後は寝袋にくるまって就寝だ。

 僕は今まで使う機会がなかった結界の寝袋スリーピングバッグオブザバリアに潜り込む。

 これのおかげで全員が見張につかずに寝られるはずなんだけど、信用度が低いからかヤッチシ、ブンター、ノーシ、ブローが交代で見張に立つそうだ。

 初日は何事もなく朝になった。

 気分爽快とはいいがたい。

 森の中は湿度が高く、寝袋で寝ていたとは言っても決して平らな場所で寝たわけでもないから疲れが取れていない感が拭えない。

 それでも木の上で過ごしたあの日に比べればまだマシだ。

 干し肉を煮たスープで腹を満たして、昼なお暗き杉の並木……違う、ここは箱根の山じゃない……森の中をセザン村までまっすぐに北上する。

 地図上では行程三日ほどの距離だけど、それは街道を進むような速度で進めばの話だ。

 それでもハンジー町を通る街道を進む道程が五日なのに比べればむしろ早く着くだろう。

 それ以上に捕虜たちを送り込んだ町へは行けないという都合がこの森林縦断にはある。

 さすがに前人未到だろう森の中、騎乗の人となれるわけもなく時折現れるナルフを追い払ったり、ラバトを狩ったりで二日目が暮れた。

 二日目の夜は僕の寝袋がけたたましい音を立てた。

 ざざっと、鳥が飛び立つ。

 たぶん、警戒音に驚いてのことだろう。

 僕も心臓がびっくりだよ。

 とりあえず剣だけ握って起き上がる。

 辺りが薄暗いということは少し夜が明けかけているということだろうか?


「なにかいるのか?」


 僕を守るように立って剣を構えているルビンスに声をかけると、答えを返したのはブローだった。


「逃げたようです」


「ん?」


「きっとバヤルだったんじゃないでしょうか?」


 ノーシが補足でバヤルについて説明してくれたことによると、人より大きななりの割に臆病な性格で、滅多なことで人に近づくことはないそうだ。

 それにしたってこの寝袋、攻撃意思・敵意を持った相手が十五シャル以内に入ると知らせてくれるって話だったけど、今回のバヤルは僕らを襲おうとしたってことになるんだろ?

 生態と矛盾してないか?


「ふむ、確かにの」


 と、ラバナルが眉間にシワを寄せる。


「もしかすると……」


「心当たりがあるのか? ブロー」


「バヤルによく似たグラーズラというモンスターがいて、こっちは怪物分類らしく好戦的です」


「そっちだな」


 ルビレルが呟く。


「だとすれば厄介だ。グラーズラは執拗に追ってくると言われている。今回は音に驚いていったん距離を取ったのだとしても、また襲われないとも限らない。いや、おそらくまた襲ってくるに違いない」


 そいつは厄介だ。


「ならば返り討ちにしよう」


 おいおい、なに言っちゃってんのさ、僕。

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