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事業の見直しはにっちもさっちもいかなくなる前にした方がダメージは少ない

 翌日の午前中は質疑応答で始まった。

 村長以外に三名が立ち会っている。

 おじさん二人とおばあさんだ。

 メリットデメリットの話である。

 僕はにこやかに笑っている担当。

 基本的にはルビンスが答えてオギンが補足する。

 質問は多岐にわたっていた。

 ルビンスは丁寧に説明責任を果たしている。

 兵役のこと、税制のこと、村の改革などびっくりするくらい誠実に過ぎて、笑顔が引きつることもある。

 純朴な村との交渉だからいいものの、ルビンスは交渉ごとに向いてないのがまる判りだ。

 ルビレルの方が年の功というかもう少し老練だろうけど、これじゃ貴族の中で世渡りするのは大変だったろうなと思うよ。

 ひと通り疑問を解消し、村側の質問が出尽くしたのを見計らって僕が昨日同様に締めくくる。


「どうやら質問は出尽くしたようですね。こちらは誠実に答えさせていただきました。できれば色よいお返事をいただきたいものです」


「ぜ、善処します」


 うん、手応えは悪くないようだ。


「村を視察させてもらっていいですか?」


「え? あ、あぁ……なにもない、いたって平凡な村ですけど」


 ホント、純朴だねぇ。

 もし、敵対したら攻められることになるんだけど。

 ま、この調子だと、十中八九今回の交渉は成功だろうな。

 僕らは村長の家を出て村を散策する。

 村の大きさは奥の村と同程度、ここも二百人くらいにはできる村だ。

 各家庭でクッカーやジップが飼われていて、家の周りは自家栽培の野菜などが育てられている。

 ざっと家の数から現在の人口を推察するに五、六十人といったところだろうか?

 子供の数が少ないなぁ。

 昨日通ってきた耕作地は広いけれど、ルダーの管理する畑と違って成りが悪い。

 今年は奥の村の代官やってもらっているから無理だけど、ここも農業改革してもらわなきゃならないよなぁ……。

 それにしたって町にこもっていた時はたくさんの人材がいるつもりだったけど、他の村を管理しようとしたら途端に人材不足が露呈した。

 これでもう一箇所村を支配しようって?

 無理くない?

 僕は村人に混じって畑の草むしりを手伝いながら中長期計画を練り直して短期計画を見直すことにする。


(リリム)


(考え事?)


 よくお判りで。

 っていうか、まぁ人の行動はある程度パターン化するよね。


(僕の使命は生きること)


(そうね)


(今この国は乱世で、生き残れる確率を上げるために独立領主として下克上を計画している)


(田舎村の農民じゃ生き残れない?)


(厳しいだろうね。そもそも僕の生まれた村は一度全滅しているくらいだから、それなりに武装しなきゃいつ襲われるか判ったもんじゃないし、武装すると今度は領主に目をつけられる)


(実際、二度も戦闘になったもんね)


(そ。で、町一つじゃあいつまで撃退し続けられるか判らない)


(だから今、領地を増やしているのよね)


(そこで問題が発生した)


(どんな?)


(人材不足)


 まだまだ他にもたくさんあるさ、でもそれは置いておく。

 一つずつ考えていかなきゃとっ散らかるだけで思考がまとまらない。


(今、領有しているのは二ヶ村で、ここが受諾すれば三ヶ村になる。当初の予定ではもう一ヶ村(くだ)す予定だったけど、支配下に置くには人材が足りないんだ)


(人はいっぱいいるのに?)


()()()()()()()()人材がいない)


(じゃあ、どうするの?)


(そこを今考えていてさ、とりあえず今年はこの村だけで諦める。この村も来年までは直接支配下には置かない)


(あら、じゃあ無駄足?)


(いや、この旅は無駄じゃないよ。課題が明確になった。あとは課題をクリアしていくことにリソースを割く)


(人材育成だ)


(うん。それと……三つの村を見て判ったことがある。村のままじゃあ防衛ができない)


(町みたいに柵を作るの?)


(どうするかは僕一人じゃ決められないかな。ジョーが戻ってきたら戦略会議を開くことにする)


(あら、課題山積っぽいのにずいぶん楽しそうね)


 知らないうちに笑っていたようだ。

 僕はその後も日が暮れるまで農作業を手伝って村長の家に戻る。


「農作業をちゃんと見たのは初めてだったのですが、大変な作業ですね」


 帰りがけにルビンスがそう感想を述べてきた。


「初めて?」


「ええ、視察などで村々を回ることは何度かありましたが、通り過ぎるばかりで見ていたとは言えません。お館様の下に降った後も町中にいるばかりで畑仕事がどういうものかは見ておりませんでした」


 そういえば、事務仕事や僕の稽古に付き合わせるばかりだったかもしれない。


「村に戻ったら、時々農作業を手伝うといい。どれほど大変か判るから」


「……そうですね」


 なんだ、その間は。

 騎士のプライドかなにか?

 人の心の内はよく判んねぇんだよなぁ……特に生まれ育ちが違うとさ。

 僕は何不自由なく過ごした幼少期、バブルを謳歌した高校時代から不況が直撃した社会人時代という前世と、田舎の不便極まりない農村で過ごした少年時代を持っていて、他の人よりは生まれ育ちに理解があるつもりだけど、この世界の街の暮らしは知らないからね。


「騎士として戦場に出れば仲間意識が芽生えるのと同じで、一緒に農作業をすれば少しは町の人たちと打ちとけられると思うんだ」


「なるほど、なるほど……」


 家に着くと、村長の奥さんが汚れを落とすための洗い桶を用意してくれていた。

 オギンが知らないうちに連絡を入れていたようだ。


「男爵様に楯突こうなんて人が農作業ですか? もっとふんぞり返った嫌なやつだと思ってたのに案外働き者ですね」


「元々農家の長男だからね」


 このエピソードが村の判断に影響を与えたかどうかは定かじゃないけど、翌日、村長が村の総意として僕の傘下に入ると宣言した。

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