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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
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11月28日

辺境地方国首都カツレツ市内のルーシ連邦大使館でのニネリに対する『真実ジャーナル』の記者アナスタシアによるインタビュー


インタビュアー(アナスタシア)

「それでは『辺境地方国のルーシ人を守る会』の会長である、ニネリさんへのインタビューを始めたいと思います。

ニネリさん、この度はインタビューにご協力いただきありがとうございます。

早速ですが、解放広場でデモが行われていることはご存じですよね?」


ニネリ

「はい、もちろん知っています。」


解任広場から程近いルーシ連邦大使館のこの一室からでも、解放広場で行われているデモ参加者の演説や歌声が聞こえる。


インタビュアー

「デモの内容もご存じですか?」


ニネリ

「当然です。西部経済連合への編入準備条約への加盟を求めたデモが毎日行われているのです。知らないほうがおかしいですよ。」


インタビュアー

「あなた方、在辺境地方国ルーシ人はこれに対してどのような感想を抱いていますか?」


ニネリ

「会長としての立場からはお答えすることができませんが、私の個人的な意見としては西部経済連合編入準備条約への加盟は反対です。

ルーシ連邦と辺境地方国は、昔は議会連邦の構成国として同じ国でした。そして議会連邦時代に多くのルーシ人が辺境地方国に移住し働いていました。ルーシ連邦と辺境地方国は議会連邦時代から国家として、そして人として深い関係にあったのです。

そして、議会連邦崩壊後は別々の国になってしまいましたが、それでもルーシ連邦と辺境地方国の関係は言わば兄弟のように特別なものでした。お互いに協力し、助け合いながら今までやってきたのです。この関係を断ち切り、西部経済連合と新たな関係を築こうとするなど辺境地方国による裏切りとも言える行為でしょう。もし西部経済連合に入ったらシーラ大統領が怒り狂うのは目に見えています。」


インタビュアー

「では、辺境地方国のルーシ人を守る会としては今後どのような行動を行っていきますか?」


ニネリ

「私たちはメタルリヤ大統領の政策に賛成であるという意見を発信し続けるつもりです。辺境地方国の国民はもっと私たちの声に耳を傾けるべきなのです。

私たちは純粋な辺境地方国民に比べて感情的でない冷静な目で現状を見ています。のの冷静な意見は必ずや全ての辺境地方国民のためになるはずです。」



~~


解放広場にて


解放広場ではデモが続いている。参加人数は変わらず2万人ほどであった。


変わったことといえば、デモを規制する警官隊の人数が増え、警戒体制が厳しくなったことである。シーラの警告を受けたメタルリヤが解放広場の警官隊をさらに増員したのである。これと同時にメタルリヤは大統領府、カツレツ市庁舎といった行政機能を司る施設への警官隊の増員を行い危機対処能力を向上させていた。


「あぁ~、面倒くさい。なんだって解放広場でデモ規制なんかしなくっちゃならないんだよ。別になんもおこらねぇーだろって。」


増員の命令を受け、休日返上で解放広場の治安維持任務に就いているジオレフは嘆く。これでも警官である。


「この、バカちんが!シャキッとしろ!」


ジオレフの隊の隊長であるベローチェが活を入れる。ベローチェはもう定年間際の老齢であるが、議会連邦時代から欠かさず続けてきた議会連邦式体操のおかげで強堅な肉体をしていた。また、議会連邦時代という激動の時代を通して警官人生を送っており、ジオレフ達隊員からは『共産主義ポリス』として親しまれている。もちろん本人はこの愛称をしらないのであるが。


「わーしらは国民の見本とならねばならぬのだぞ、お前も警察学校で誓ったはずだ!義務を果たせぃ!」


そしてベローチェは熱い、とにかく熱い。良くこのテンションでいつも勤務できるな、と感心する。


「給料分の仕事はしますよ。でも、これタダ働きじゃないんですかー?」


常にクールに。仕事にはオンとオフを。これがジオレフのモットーだ。タダ働きなんて正直ごめんだ。ビバ傭兵!


「まぁ、追加給金は出ないだろうな。だ・が!お前の普段の仕事ぶりは給料に全く見合っていない!今!ここで!そのツケを清算しろ!このヒヨコちゃんがぁ!」


ベローチェが顔を赤くしながら檄を飛ばす。

これ以上は、ベローチェの健康によろしくなさそうだ。


「はっ!消えていた警官魂に再び火が灯りました!ただ今より誠心誠意勤務いたします!」


どうだ、ここまで声を張り上げ、いかにもやる気のある表情を作った。ベローチェも納得だろう。


「…うむ。そうか。」


なんだ、その微妙な表情は。やめろ、その目で俺をみるな!


「ま、頑張れよ。わーしは他の者も見回らなくてはならないのでな。」


待て、置いてくな。この完璧な仕草を見てその微妙な反応はなんだ!隊長!

ジオレフはやる気のある表情を張り付けたまま、ベローチェを見送った。

…ふぅ、なかなかいい気分転換にはなったな。さてもうひと頑張りするかなぁ。


「あー、これ以上外に広がらないように行進してくださーいぃ。はい、そこのチビッ子危ないからもっと下がりなさい。はい、奥さんも目を離さないぃ。」


増員された傭兵気質なジオレフはマイペースながらも忠実に職務を遂行するのであった。


~~


時は深夜、近隣住民や参加者の生活を考慮し、今日のところはデモ隊は解散となり静まりかえった解放広場の街灯の下でユーリはカーニアと話し合っていた。


「予想していたことではあるが、明日のサミット閉幕までに西部経済連合編入準備条約に調印されることはないだろう。

首都を中心とした地域の国民の応援もほとんど得られなかった。

国民は感情より理性を優先させてしまっている。」


ユーリは結局デモを過激化させ、メタルリヤにこれを弾圧させるなどといったことは行わなかった。国民に対し非情になりきれなかったのである。


「ではどうすると言うのだ?」


カーニアはユーリに問いかける。


「今回は諦めるよう。そして次のチャンスに賭けるんだ。」


「次のチャンスとはいつか?」


「来年の今ごろに行われる大統領選だ。そのときこそメタルリヤの信頼を地に落とし、真に辺境地方国を思う政治家に未来をたくすんだ。」


ユーリには次期大統領選において今回の調印延期で支持率が下がったメタルリヤを大統領の座から引きずり落とすことは簡単だとかんがえていた。


「そうか、分かった。だがそんなにも先になるのか…。

一つ頼みがある、せめて明日のサミット閉幕まではデモを続けさせてほしい。調印の可能性が少しでもある限りは抵抗したいんだ。」


カーニアはギラギラと光る眼差しでユーリを見た。


「分かった。調印の可能性がわずかでもあるかぎり決して諦めずにデモは行おう。」


ユーリもカーニアの目付きに臆することなく真剣な眼差しに応える。


こうしてデモは明日の閉幕までは続けられることが約束された。

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