11月26日
この日解放広場には2万人の群衆が押し寄せ、デモ活動に参加していた。
未だにデモ参加者には日当が支払われており、またデモに危険はないことが多くの国民に広まったことにより、参加者は2日前の倍の人数となった。
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「メタルリヤ大統領反対!辺境地方国は西側諸国だ!」
解放広場での反政府デモ行進に参加している青年は他の参加者同様声を張り上げた。
青年はカツレツ市内の大学に通う大学生で、SNSによって反政府デモを知り参加したのである。
青年はメタルリヤ大統領をはじめ、辺境地方国の全ての政治家に対し怒っていた。辺境地方国の政治家は全員汚職や癒着で汚れきっている。このことは大人だったらほぼ全ての国民が知っている当たり前のことである。
そして、この現状を変えるには、西部経済連合へ入るしかないと青年は考えていた。
辺境地方国の政治家たちの汚職や癒着は、そのほとんどがルーシ連邦から輸入する天然ガスに由来していた。
現在の辺境地方国は天然ガスによって成り立っていると言っても過言ではない。それほど天然ガスは重要なのだ。
辺境地方国は天然ガスによって発電し、天然ガスによって工場の機械を稼働させる。冬場には天然ガスによって暖をとり、そしてルーシ連邦から西側諸国へのガスパイプラインを通じての天然ガス輸送を保証することにより、ルーシ連邦から莫大な通過料金を得ている。
しかし西部経済連合から天然ガスや石油や石油精製品、そして最新鋭の原子力発電による電気などを輸入し、エネルギー供給源の多様化を行えば、従来のルーシ連邦産の天然ガスによる政治家の癒着体制は崩壊し、癒着体制崩壊を機に健全な体制の構築を行うことができるはずである。
結局は辺境地方国が綺麗な国になるためには、最初に西部経済連合に加盟しなくてはならないのだ。
青年のこういった考えは、大学での講義やルーシ連邦外交の権威の論文、インターネットにより得た情報を分析することにより導き出されたものである。
活動家たちにも青年はこの考えを話したが、活動家たちは興味深く話を聞いてくれ、さらに政権交代後にはこの考えを取り入れると約束してくれた。
…この考えが正しいのか青年に確証はなかったが、活動家たちも肯定したものであり、少なくとも現状より悪くなることはないだろうと考え反政府デモに参加するのであった。
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ルーシ連邦ホワイトハウスではシーラ大統領が辺境地方国のメタルリヤ大統領に電話をかえていた。
「メタルリヤ君かね?
『はい、そうです。』
私だ。シーラだよ。西部経済連合の件なのだけれどよくやってくれているね。このまま調印を延期を押し通してくれ。私たち両国の変わりない発展のためにね。
『ありがとうございます。必ずや調印は延期してみせます。』
よろしい。
『…天然ガス価格についてなのですが…』
もちろん、わかっているよ。今後の辺境地方国への天然ガス価格は引き下げようと思っている。ただし西側諸国に横流しをしないという条件付きで。まあ、君の思うように使ってくれ。
『ありがとうございます。もちろん西側諸国には横流ししようとは考えていません。ルーシ連邦からの天然ガスがあってこそ辺境地方国民は生活ができるのですから。』
ああ、そこまでかしこまらなくてもいいんだ。君と私の仲じゃあないか。ただし、私を裏切ることは許されないよ。いつも見ているからね。下手な真似をすればすぐにわかるよ。
『承知しています。』
よろしい。まあ、君が私を裏切るとは思ってもいないからね。
それと、別件なのだがミスターブラック(合衆帝国大統領)が辺境地方国西部の過激派民族主義勢力に工作員を派遣して資金援助をしているという情報を得た。気を付けたほうがいい。決して民族主義運動を甘く見てはいけない。サカルティフィロで民族主義勢力によって革命が起こされたように、辺境地方国でも同じことが起こる可能性もある。
『何から何まで本当にありがとうございます。』
ではまた。」
シーラ大統領はメタルリヤ大統領との電話を終えると紅茶を飲みながら考えにふけった。
辺境地方国が西部経済連合加盟への第一歩を踏み出すことに釘を刺すことには成功しているが、シーラ大統領の心は休まることがなかった。
シーラ大統領は民族主義運動の拡大を警戒していたのである。ルーシ連邦は多民族国家であることから、辺境地方国で民族主義運動が活発化し、それがルーシ連邦に広がれば至るところで民族主義運動が起こることとなるだろう。そうすれば武力鎮圧は必至である。
確かに民族主義運動を武力鎮圧するのは現在のルーシ連邦の力からしたら簡単なことであろう。しかしながら武力鎮圧というのは諸外国からの受けが悪いのだ。特に西側諸国の受けが。
オリンポスピックを控えているルーシ連邦としては、今西側諸国の印象を悪くすることはできない。今こそ西側諸国の重鎮や選手団を招き強いルーシ連邦をアピールしなくてはならないのだ!
そのためにも辺境地方国には今まで通り、民族主義運動の防波堤となってもらわなくては。
例えどんな犠牲を払ってでも辺境地方国での民族主義運動の拡大は止めなくてはならない。
どんな犠牲を払ってでも、辺境地方国を西側諸国に渡すわけにはいかない。
我がルーシ連邦は二度と辺境地方国で革命を許さない。
シーラ大統領は強い思いを胸に秘め、少し考え込んだ後に紅茶を飲み干すと、政務を再開するのであった。
オリンポスピック
四年に一度開催される世界規模のスポーツの祭典
今年はルーシ連邦での開催が予定されている。