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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
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11月24日

―紳士的なデモに参加するだけで一万円をプレゼント!拡散希望!―


―カツレツ市内行き公共機関がタダで乗り放題!皆あつまれ(^∧^)―


―ほんとに一万円もらえた!―


この日、解放広場のデモ隊は一万人に増加した。反政府側の財閥達が、金にものをいわせたばら蒔きをしたからである。


彼らの大半は日当が目当てであり、メタルリヤ大統領と貧困しい生活を強いる社会に不満と怒りを持ち合わせていたが、辺境地方国をより良くしたいという強い信念は持ち合わせていなかった。金がもらえて騒げればそれで彼らは満足なのである。


しかし、ユーリたち活動家にとってデモ参加者が何を考えていようが、そのようなことはどうでもよかった。活動家たちが日当を支払ってでも彼らを集めた目的は、デモの規模を大きくし、それをメディアにアピールすることであったからである。


辺境地方国でデモ発生の報道を受ければ、合衆帝国や反ルーシ感情の強い国家によるメタルリヤ大統領の説得、あるいは、ユーリたち活動家への金銭面などでのデモの援助が期待できたし、さらには国民がこんなにも不満を持っているという姿を見せれば中立的立場をとっているカツレツ市民を取り込むことも期待できた。


しかし、国外からの援助を受けるにせよ、カツレツ市民を取り込むにも、デモは努めて平和的なものにしなくてはならない。

合衆帝国は暴力的なデモには賛同しないであろうし、カツレツ市民も暴力的なデモはきらうであろうから。


「辺境地方国万歳!辺境地方国に未来を!」


「調印延期反対!メタルリヤ大統領反対!」


「反対!反対!反対!反対!…」


その結果デモは活動家の筋書き通りに行進や反政府討論が行われるといった極めて平和的なものとなった。


「いい流れだ。」


解放広場の一角でデモを見ていたユーリは呟く。

デモ隊の統制は活動家たちの働きによりとれており、また辺境地方国内の反政府派の新興財閥や政治家からの資金援助があり、潤沢な資金まである。


このまま国民のデモ運動と反政府勢力による圧力、さらに国際社会からメタルリヤが批難されれば調印までこじつけられなくとも、最悪メタルリヤを退陣に追い込めるかもしれない。


「だが、これだけでは足りない。」


そう、あとはメタルリヤ大統領による不正があるとなお良いのである。

アップル革命のときは、メタルリヤ大統領の選挙違反があったように、今回もメタルリヤ大統領による不法行為が必要なのだ。メタルリヤ大統領はどこまでも卑劣なやつだと国民に思わせなくてはならない。


「メタルリヤ大統領には汚れてもらわなくては。」


そして、ユーリたちの望むメタルリヤ大統領の不法行為とはデモ隊の弾圧であった。

無垢な市民を弾圧したとなれば国際的な批判を受けることはもちろんのこと、辺境地方国東部のメタルリヤを支持している国民も、メタルリヤの支持を取り止めるかもしれない。


メタルリヤがいなくなれば、ルーシ連邦に通じている政治家はいなくなる。いたとしても、資金も政治基盤もない弱小政治家だけである。そんなものは恐るるに足らず。

メタルリヤ大統領さえいなくなれば、辺境地方国は活動家たちにとって安泰なのである。


「…」


しかし、これはあらゆる面で不確定要素が多すぎる問題であった。故にユーリたちは頭を悩ませるのであった。


どのようにすればユーリたちが思い描くような筋書きにすることができるのか?


中途半端なシナリオでは三文芝居にもなりはしないだろう。

求めているのは皆が立ち上がり感動するような劇的な展開である。

このシナリオを書くことこそが活動家としての腕のみせどころである。


デモ隊というエキストラにテレビを通じての視聴者という観客、さらには軍資金まである。

あとはメタルリヤという役者を舞台に上げ、血祭りに上げるだけだ。


「待っていろよメタルリヤ。この暴君め。地獄の裁きを俺が悪魔どもに代わり下してやる。」


~~


大統領官邸にて


一方、同じころ大統領官邸ではデモ運動に対する対策が議論されていた。


メタルリヤ大統領はデモ活動への対応に悩まされていた。彼の脳裏には昨年サカルティフィロで発生したワイン革命があり、ここで対応を誤れば辺境地方国でも革命が起きるのではないかとおそれていたのである。


「内務大臣に解放広場とここの警官隊の増員を命じろ。カツレツ市長には、解放広場へ救急車の手配と救護所の設置を。市民の安全を考慮しているということをアピールしろ。あとくれぐれもデモの参加者には危害を加えないように警官隊に念をおせ。」


メタルリヤ大統領は秘書に支持を出す。


「わかりました。仰せの通りに。」


メタルリヤはデモの対応に苦慮しているが、今回の調印延期によって自身に批判がされることと、反政府デモが起きることは予想していたことであった。

なにしろ、最近は旧議会連邦国家で立て続けに革命が起こっているのだから。まるで誰かに仕組まれたように。


今回の反政府デモの取り敢えずの区切りはサミットが終わる11月29日とメタルリヤは予想している。調印のためのサミットさえ終わってしまえば今回の調印はとりあえず不可能となり国民も諦めて、デモは解散となるはずである。


何としても耐え抜かねば


メタルリヤ大統領の決意は固かった。

アップル革命により大統領選に破れてから、メタルリヤは辺境地方国東部の政治家としてあらゆる努力を惜しまなかった。


不本意ではあるがルーシ連邦のシーラ大統領とのコネクションを強化し、さらには自社天然ガス企業の株式の半分をルーシ連邦に売却した。

こうすることにより、ルーシ連邦の後ろ楯を獲得した。


またルーシ連邦に自らのガス企業の株式を売却することにより、ルーシ連邦から辺境地方国東部の企業全体に安価な天然ガス輸入することを可能とした。

これにより辺境地方国東部は活気付き東部の国民の心を射ることができた。


全ては辺境地方国の発展のためである。


そうまでして、やっと手に入れた大統領の座である。今回ばかりは、西部の民族主義勢力やデモを裏から支援している西側諸国に負けるわけにはいかない。

辺境地方国はルーシ連邦と協力して、東部の工業地帯から発展していかなくてはならないのだ。


何より、いまさらシーラ大統領を裏切ることはできない。シーラ大統領を裏切ると言うことは天然ガスの値上げ、もしくは供給事態の停止。すなわち東部工業地帯の機能停止を意味していたし、メタルリヤ自身の命の危険すらあった。


また、この選択はメタルリヤの一存だけで決定されたわけではない。メタルリヤ配下の政治家たちも調印を延期するようメタルリヤを突き上げたのである。


なぜなら、今回の西部経済連合調印のための条件には、西側諸国の言うところの不当に逮捕されたリテミア元首相の釈放が含まれていたからだ。


リテミアの政治基盤は辺境地方国東部にあり、メタルリヤとその配下の政治家の政治基盤と重なっているのである。


またリテミアは天然ガス輸入、卸売の企業を数多く保有している。これに対しメタルリヤとその配下の政治家たちの大半は重工業系の企業を保有しているのみであり、どうしてもエネルギー源としての天然ガス企業に頼らざるを得ない状況にあった。


リテミアが獄中の現在はなんとか彼女の企業を抑えてわいるものの、リテミアが釈放され再び政界に復帰すれば、リテミアの企業は息を吹き返し、抑えはきかなくなるだろう。

メタルリヤの勢力ですらリテミアの企業に勝てるかどうかは怪しい。


そして釈放されたリテミアは天然ガス企業を使いメタルリヤとその配下に天然ガス料金の値上げを要求し、メタルリヤたちの利益が減ることは目に見えていた。

そして何よりリテミアがガスを牛耳れば辺境地方国民は天然ガスを安く買うことができなくなってしまう。


そのため、メタルリヤ配下の政治家は調印延期をメタルリヤにせまったのである。リテミアを決して獄中から解き放ってはならないと。

このような事情も、調印延期の一因となっていた。


リテミアを釈放するわけにはいかない。全ての辺境地方国民のために。

メタルリヤにはもう選択する余地はなかった。


しかし、辺境地方国民はメタルリヤの覚悟を理解せずメタルリヤを反政府デモという形で苦しめた。

メタルリヤはこれが辛くてしかたがなかった。

それでも今のメタルリヤには耐えるしかなかった。


ワイン革命

シェルビアで起こった革命。長期独裁政権が非暴力のデモによって倒された。

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