11月23日
予想通りメタルリヤ大統領は西部経済連合への編入準備条約への調印への説得には応じなかったか。辺境地方国にとっては今回の調印の条件は厳しすぎる。経済援助もろくにできないのにも関わらずルーシ連邦との手を切れと言っているようなものなのだから。
これもヤルズルスキーとイルベスのせいだ。彼らは西部経済連合の財政状況などお構いなしに、ただ、辺境地方国を引き入れ、ルーシ連邦の力を削り、緩衝国を作ろうとしている。
このまま強硬姿勢を貫けば、今回のサミットでメタルリヤが調印することはないだろう。
~連合王国首相チル11月22日の回想~
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バルチク三国のひとつエスト公国
辺境地方国西部サミット会場にて
メタルリヤ大統領が西部経済連合編入準備条約への調印を延期したことから、サミットには西部経済連合構成国の首脳とメタルリヤ大統領が集まり、論争が続いていた。
「辺境地方国が西部経済連合に編入するためにはルーシ連邦と手を切らねばならん。
ルーシ連邦との同盟を結んでいながら西部経済連合に編入することなどできませんぞ。」
ポーレ大統領ヤルズルスキーが大声で主張する。なかなか折れないメタルリヤにヤルズルスキーは苛立ちを隠せないでいた。そして元軍人のヤルズルスキーの怒声には迫力があった。
「私もルーシ連邦とは常々縁を絶ちたいと思っています。しかし、ルーシ連邦なしでは我が国はたちいかないのです。あなたも、議会連邦時代の計画経済は体験したいたでしょう?ルーシ連邦に頼らずに棲むように援助額は増やせませんか?」
辺境地方国大統領メタルリヤがこれまた何度目になるのかお決まりの回答をする。
「増額は不可能です。すでにヘラスの財政支援で西部経済連合に余裕はありません。」
サミットに集まった中で唯一の女性である第三ライヒ首相キルヒェが冷静に回答する。これも何度繰り返したのかもはやわからない。キルヒェは感情的になってメタルリヤに突っかかるヤルズルスキーを排除しなければサミットは一向に進まないだろうと半ば諦めていた。
「第三ライヒやパリスは特別にでも援助額を増額すべきではないですかな?財布が重いことは知っていますぞ。両国には今こそ一段の努力をしていただきたい。
今、まさにルーシ連邦に苦しめられている者がいるのです。それを救いたいとはお思いにならないのか?」
ヤルズルスキーが鋭い目付きでキルヒェとパリス大統領ルパンを睨み付ける。
「救いたいと思わないわけがありません。我が国は最も凄惨な支配を議会連邦からうけていたのですよ。しかし、いまはヘラスの財政支援で手一杯なのです。『火薬庫』であるシウス半島最大の国家ヘラスを放置することこそ最悪の選択です。」
キルヒェは内心では態度ばかりが大きく、そのくせ自国からは雀の涙程の金しか出さないポーレの大統領には飽き飽きしていた。
「その通りです。まずはヘラスを安定させることが先決でしょう。」
パリス大統領ルパンもキルヒェとほとんど同じ内心である。
「いつまでも火薬庫、火薬庫と。もうとっくに火薬は湿気っているでしょう。爆発することはありませんぞ。
それより、爆発することのないヘラスへの財政支援の半額を辺境地方国の支援にあてることはどうですかな?」
ヤルズルスキーとしてもどんな手段を用いても辺境地方国を援助したいために必死である。
「何をいうのですか!?これ以上援助額を減らされると我が国の国民生活は成り立たなくなります!
そうれば、暴動は必至です!
ルーシ連邦との緩衝国がほしいからといって勝手なことを言わないでほしい!」
現在危機的状況に陥っているヘラス大統領はヤルズルスキー以上に必死である。
「何を言うか、この若造め!私は辺境地方国のためを思っていっているのだ!ヘラスで暴動が起きても被害にあうのは政治家や公僕だが、辺境地方国では罪のない国民が被害にあうにだぞ!」
ヤルズルスキーの言うことにも一理あることがたちが悪い。
「その通りですぞ!辺境地方国を救うには今しかありません。ヘラスには辛抱してもらいたい。」
バルチク三国代表イルベスがヤルズルスキーに続く。バルチク3国も先の大戦のあとポーレとともに議会連邦の衛星国とされた経緯があり、議会連邦を継承したルーシ連邦の力を弱められるのならば何ものをも犠牲にするつもりであった。
「今こそ辺境地方国を西部経済連合に加盟させるために我々は協力すべきだ!」
とヤルズルスキーが述べれば、
「私もヤルズルスキー大統領に賛成です。まさに、今、行動しなくてはなりませんぞ!」
イルベスと続いた。
「何度も言いますが、西部経済連合にそのような余裕はありません。辺境地方国を救いたいのならば、ポーレ、バルチク三国がもっと西部経済連合に財政面で貢献してください。
西部経済連合へ支払っている金額は私たち第三ライヒとパリスがツートップです。貢献額が最低規模なあなたたちにとやかく言われたくはありません。」
とキルヒェが冷ややかに反論する。
「…辺境地方国はどのように考えているのですかな?」
ポーレの援助額が最低規模であると痛いところを突かれヤルズルスキーはメタルリヤに話をそらした。
「私としては、援助を頂けるのならばすぐにでもルーシ連邦と手を切りたいと考えています。」
「もちろんですが、ルーシ流の二枚舌外交は許されませんぞ。西部経済連合に加盟するのならばルーシ連邦とは縁を切ってもらいます。辺境地方国に援助をするだけしてルーシ連邦と組み直されたら丸損ですからな。」
ヤルズルスキーの発言はまさに一部を除く西部経済連合の総意といってもほぼ間違いなかった。経済支援をすれば本当に辺境地方国は西部経済連合に編入あるいは西部経済連合の味方になるのか。西部経済連合の加盟国はそれを知りたいのであるが、いかんせんメタルリヤ大統領は西部経済連合の加盟国から信用されていなかったため、どうにも西部経済連合から援助を引き出すだけ引き出してルーシ連邦側につくのではないかと疑われてしまうのである。
「まだ、援助額を増やすとはきまっていませんがね。」
そこにキルヒェがツッコミヤルズルスキーを牽制する。
「本当に十分な額がもらえるなら、金輪際ルーシ連邦とは関係を持たないと誓いましょう。そのためには2400億G程必要になります。」
メタルリヤはキルヒェを無視して西部経済連合への編入に必要な金額を提示する。
「不可能です!」
キルヒェとルパンが同時に否定する。20年、30年前ならこの金額は払えたかもしれないが、ヘラスの負債を抱えている今となってはどうがんばっても西部経済から捻出することのできない金額である。
「ですので今回はルーシ連邦と西部経済連合の両方から支援を受け、時期が来たら西部経済連合編入準備条約へ調印しようと考えています。」
メタルリヤとしては必要最低限どの金額を正直に述べただけであった。実際ポーレが西部経済に加盟する際には、これとほぼ同額の金額を必要としたのである。しかしながら今回の辺境地方国には西部経済連合からは1000億円しか準備することができないと言われている。かといって残りの15兆9000億円もの金額を辺境地方国に払えるはずもなかった。このことからメタルリヤの調印延期は妥当であるのであるが自国の利益のために行動するポーレやバルチク三国は聞く耳を持たない。
ヤルズルスキー:それでは、いつまでたってもルーシ連邦の支配から逃れられませんぞ。石油価格が下落しルーシ連邦がオイルマネーを失ない、弱体化しつつある今こそがチャンスなのだ!
メタルリヤ:しかし、現実問題として金が足りないのです。
…
結局、この日のサミットではポーレとバルチク三国は辺境地方国の加盟と援助がくの増加を叫び、第三ライヒとパリスはこれを否定するといったことを延々と繰り返し、なんの成果もなく終了した。