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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
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帝紀2673年11月21日

首都カツレツの中心部からやや外れた、お土産通りと呼ばれる通りに面した、外国人向けの土産物を販売する商店のテレビに映る辺境地方国大統領メタルリヤは、記者会見で、なぜ西部経済連合への編入を延期したのかという、記者の質問に答えていた。

土産屋の店主は客もいないので、手持ちぶさたにテレビを見ている。


「本日、私は西部経済連合編入準備条約への調印を延期しました。西部経済連合への編入は、私達辺境地方国国民の長年の夢です。しかしながら、私は調印を延期しなくてはならなかったのです。


正直に申し上げますと、我が国の財政は危機的な状況に陥っています。西部経済連合に編入するためには、我が国のあらゆるものを西部経済連合と同じ基準にしなくてはなりません。たとえるなら法律制度から電化製品の規格まですべてを変える必要があるのです。そのためには16兆円が必要であると我々政府は考えていますが、そのような金額を我々はとてもではありませんが用意することができないという結論に至りました。」


確かに、今の辺境地方国に余裕などありはしなかった。富の大部分はテレビの中でご高説賜る一部の財閥に牛耳られているからである。

しかし、店主には特に不満もなかった。確かに今の生活は貧しいかも知れないが、生きることはできているのである。店主はそれで満足だった。


「西部経済連合にも資金援助を求めたのですが、西部経済連合は現在財政難に陥っており1000億円の援助しか用意することができないということでした。


また今回、増税などを行い16兆円を捻出し西部経済連合に加盟することができたとしても、西部経済連合内で例えば「第三ライヒ」等との対等な経済競争に打ち勝つことは、我が国の発展途上の産業ではまだ難しく、経済の見通しがたちません。


さらに現在ルーシ連邦への、主にエネルギー分野における多額の債務を抱えていますが、西部経済連合に加わると、連合内での競争に打ち勝たない限りは、更なる債務を抱えることになると予測しています。


そのため、今回は調印を見送り、西部経済連合の経済が回復し、より深い協同体制を敷くことができるまで待ち、また我が国の経済の発展に集中しようと決定したのです。


しかしながら、今後二度と調印することはできないというわけではありません。調印の拒否ではなく、あくまでも延期なのです。必ず私の大統領任期中に調印することを約束します。


これで答えとなっていますか?」


テレビの映像はここで、放送局のスタジオに切り替わった。

今日のテレビはどの局でもこの場面ばかりが取り上げられている。


帝紀2673年11月21日の今日、辺境地方国は1か月近いサミットでの協議の末に、西部経済連合への編入条約の調印を延期することに決めたのである。


この放送を見た辺境地方国民の反応は3つに別れた。


辺境地方国西部の国民は怒った。


辺境地方国西部の国民は反ルーシ連邦感情が強い国民である。

この理由はやや複雑であり、先の大戦時にまでさかのぼらなくてはならない。


もともと辺境地方国は議会連邦の構成国のひとつであり、議会連邦の西端に位置しており、また辺境地方国の西はポーレと接していた。


先の大戦時が始まると議会連邦はポーレに侵攻した。そして議会連邦はポーレとの戦いに勝利し、これを支配下に置いた。

その際、議会連邦はポーレの領土の一部を戦利品として割譲、ポーレに隣接していた辺境地方国の領土として併合したのである。つまり辺境地方国西部はもともとはポーレの領土だったのである。


このことから辺境地方国西部の国民は、元ポーレ国民やポーレ系辺境地方国人の割合が他の地域に比べ高い。


そして彼らはポーレやポーレが属している西側諸国に帰りたいと願っていた。自分達はルーシ連邦や辺境地方国のような東側の人種ではなく、第三ライヒやパリスのような西側の人種なのだというアイデンティティーを持っていた。


そのため、彼らは西側への第1歩である西部経済連合への編入を期待していたのである。


しかしながら、帰還のための一歩はメタルリヤ大統領の西部経済連合への編入延期の選択により踏み出せなかった。


このために辺境地方国西部の国民は怒っているのである。



辺境地方国東部の国民は安堵した。


辺境地方国東部は重工業地帯である。そしてこの重工業はルーシ連邦から送られてくる安価な天然ガスによって成り立っていた。

天然ガスがないと工場が稼働しないばかりか、火力発電所が停止し発電することもできなくなり、また各家庭の暖房すら動かなくなってしまう。

ルーシ連邦からの天然ガスの提供は議会連邦時代から続いているものであり、もはやルーシ連邦産の天然ガスは辺境地方国の工業にはなくてはならないものなのである。


そして辺境地方国が西部経済連合に編入するとなると、ルーシ連邦は辺境地方国を敵と見なすか、そうでなくとも少なくとも機嫌を損ねることは確実である。


そしてこれはルーシ連邦からの天然ガス価格の吊り上げという恐るべき事態を招く恐れがあった。天然ガスの価格が上がれば、東部の工業は大打撃を受けることは必至であった。


しかし、編入条約への調印は延期された。このためルーシ連邦による天然ガス価格のつり上げはないだろうと考え、辺境地方国東部の国民は安堵したのである。



辺境地方国西部にも東部にも属さない、首都カツレツ付近の辺境地方国中部の国民やその他の地域の国民は何の反応も示さなかった。


これらの地域の国民は辺境地方国に変化が起こるはずかないと、何の反応も示さなかったのである。彼らは自分達の人生を達観し、あきらめているのである。考えることをすでにやめてしまっているのである。


これも仕方がないことであろう。

辺境地方国ではアップル革命が起こってなお、辺境地方国の暮らしは豊かになっていないのである。西側に近づいても西側陣営の諸国は辺境地方国を支援してはくれなかったのである。

むしろ西側陣営に接近したためにルーシ連邦は辺境地方国への厚待遇をやめ、そのため辺境地方国の財政は西側への接近以前より悪化してしまったのであった。


そして今回西部経済連合編入条約に調印しようが、しまいが結局国民の生活はどうせ変わらないだろうと、これらの地域の国民は思っていた。

というよりは、どちらかというとメタルリヤ大統領は正しい選択をしたと考えている東部よりの考えを持っている者が多かった。


こうして辺境地方国西部の国民はメタルリヤ政権に反発することとなった。

東部の国民はメタルリヤ大統領を支持しすることになった。

その他の地域の国民は中立という名の無気力にとらわれた。


そしてこの反応の違い、考え方の違いという溝は深まっていき、ついに国が割れようとしていた。


しかし、メタルリヤ大統領も辺境地方国民もこの時辺境地方国の未来が絶望的なものとなるとは夢にも思っていなかった。

東部と西部の対立は辺境地方国建国からの問題であり、いつもの様にどこかで妥協ができると思っていた。

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