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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
18/20

12月31日

モスカウ市内の一般家庭のお茶の間にて


新年を迎える10分前、テレビの前に家族が集まる。モスカウっ子はこの時間帯モウカウの城塞で

行われている年越しパレードなんかに行くことはない。モスカウっ子は家で家族仲良く食べきれないほどのごちそうを食べ、うまい酒を飲むものだ。


国営放送にチャンネルを合わせられた古いブラウン管テレビにはモスカウの城塞を背景にシーラ大統領が写し出された。新年を迎えるにあたっての今年最後の大統領演説である。これはシーラが大統領になってからは毎年恒例のこととなっている。

またシーラが一時的に首相となりタンデム政権の相方であるスレードが大統領となった時でさえ年末の演説はシーラが行った。これはシーラのための放送と言えるであろう。


「皆さん、ごきげんよう。」


テレビの中のシーラが演説を始める。


「今年も残すところあと数分となりました。私たちが年末をこのように平和に過ごせるのは、極寒の国境線で侵入者がいないか目を光らせている国境監視員、有事の際に即応できるよう銃を抱いて過ごしている軍人、寒さと荒波という過酷な環境においても決して弱音を吐かない屈強な沿岸警備隊、皆さんが安心して眠れるよう日夜治安の維持に取り組んでいる警官、私たちのライフラインを維持するため愚直に働く公務員。彼らのおかげで私たちの今があるのです。まずは彼らに感謝を。

さてそれでは今年を振り返ってみましょう。今年のルーシ連邦の国内総生産は1.25Gと昨年度と比較すると…」


シーラ大統領がたんたんとルーシ連邦の経済について語る。


「ねえ、お父さんこの人だれ?」


息子が父親に訪ねる。


「いいかい。もっとよく学校で勉強しなさい。そうすればわかるようになる。だまってテレビをみていなさい。」


父親が優しく息子をさとす。


経済について話終え、シーラ大統領は内政について話した。内容は例年どおりルーシ連邦は安定しており、テロリストについて警戒していくというようなことを話した。シーラ大統領は続けて外交について話し出した。


「ルーシ連邦は現在のところ周辺国とはおおむね良好な関係にあると言えます。

しかしながら現在隣国の辺境地方国の情勢が怪しくなっています。我々はこのかけがえのない隣国を見捨てることなく支援していくつもりです。隣国の安定はルーシ連邦の安定にもつながることでもありますから。」


ここで外交について辺境地方国の名前があがった。これは異例のことであった。わずか10分しかない演説でわざわざ辺境地方国のために時間を割いたのである。例年であれば外交は安定しているというようなことを言って手短に終わらせるところであり、時間を割くとしても合衆帝国であったり、シナであったり、西部経済連合であったりと大国もしくはそれに準ずる組織のために時間を割いてきた。


国民はこれはシーラ大統領が本格的に辺境地方国に介入するということの現れであるととらえた。このことは雑誌や新聞でも話題となるであろう。


「今年も終わりに近づいてきました。皆さん来年はより良い年になことを切に祈っています。しかしより良いことを望むのならば皆さんは努力しなければなりません。努力に努力を重ねてやっと良い結果を得ることができるのです。怠け者が良い結果を得ることはありません怠け者は淘汰されていくばかりです。

そうしてあなたたちが努力をして良い結果を得ると、それはルーシ連邦の発展にも繋がります。私はこのルーシ連邦を、経済で、軍事で、外交で、科学技術で、あらゆる分野で強くしたいと思っています。ですからルーシ連邦の国民は来年も是非とも勤勉であってください。

そうこうしている間にもうあと10秒で新年です。」


シーラ大統領がそう言うと画面の右上に数字が現れカウントダウンしていく。10、9、…1、0。


「…。皆さん明けましておめでとうございます。今年も良い年をお過ごしください。」


シーラ大統領の新年の挨拶と同時に家の外からは爆発音が聞こえてくる。モスカウの城塞で新年の花火が打ち上げられたのである。窓の外には金や赤、緑といったカラフルな花火が見えた。

優しく静かに降る雪と鮮やかな花火の組み合わせはとても美しかった。


「皆、新年おめでとう。乾杯をして祝おうか。」


父親が乾杯の音頭をとる。大人はワインだが子供はオレンジジュースである。


こうしてルーシ連邦では新たな1年が始まるのであった。

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