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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
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12月6日(閑話)

辺境地方国南部、マロン半島にて


連日の曇り空。天気が安定しているので釣りに行くことにする。狙いは辺境地方国で人気のある寒キュウリウオだ。


このキュウリウオという魚は本来は春に氷がなくなってから釣れる魚であるが、氷を張ることがないマロン半島では一年中釣ることができるのだ。


今日のポイントはキュウリウオがよく釣れるマロン半島の自宅から車で30分程の距離にある冬でも氷が張ることがない『征服者たちの湾』の港湾にある防波堤である。


車を港湾近くにとめ、お気に入りのポイントを目指す。


ポイントに着くとまずはテントの準備である。いくら氷が張ることのない海といっても海風が吹くために体感温度は低く感じられ、またいくら寒さに強い辺境地方国人といっても寒いものは寒いのである。


テントを立てることにより風を防ぐことができ快適に釣りを楽しむことができるのだ。


お次は釣竿の準備だ。

背負ってきたリュックサックの中から小振りな釣竿を取り出す。リールもすでにセットしてある。頼りない程に弱い釣竿とリールであるが、釣糸は強靭だ。か弱い釣竿で釣り上げられない程の魚がかかったら、釣糸を直接つかみ引き上げるつもりであるから。

リールの糸を釣竿に通し糸の先端に連結用の金具を取り付ける。そしてその先に昨晩暖炉の前で作った3つの釣り針がついた自家製の仕掛けと重りをセットする。


今度はリュックサックからタッパーに入った冷凍『オキアミ』を取り出す。このエビに似たプランクトンはすべての魚が欲するものである。もちろんキュウリウオとて例外ではない。

このオキアミを頭と胴体の2つにちぎりそれぞれの針につける。キュウリウオにオキアミを丸々一匹与えてやる必要などない。半分で十分だ。


そして、いよいよ釣りの開始である。重りがついた仕掛けを防波堤の真下に落としていく。リールからは順調に糸が出ていき、キュルキュルという音が心地よい。


コツンとした感覚が釣竿を通して手に伝わる。どうやら重りが海底についたようだ。少し糸を巻き、海中にある糸がピンと張るようにする。


30秒ほどしたが何の手応えもない。時折テントをたたく風の音だけが聞こえる。

少し釣竿を持ち上げ、重りで海底を軽く叩くように釣竿を上下させる。

さらに30秒ほどしたがやはり何の手応えもない。


糸を2メートル分程巻き取る。

やはり何の手応えもない。


さらに2メートル程のゆっくりと糸を巻き取っていたところ釣竿に振動を感じる。かかった。そしてこの引きはキュウリウオのもので間違いない。

さらに、釣竿の振動が大きくなる。他の釣り針にもキュウリウオがかかったのであろう。


ゆっくりと糸を巻き取っていく。魚がかかってから巻き取るまでのこの時が一番興奮する。魚から釣り針が外れぬようにゆっくりと糸を巻き取る。


釣れた。海中から姿を現したのはやはりキュウリウオであり、仕掛けには2匹のキュウリウオがかかっており、もうひとつの釣り針にはオキアミがなかった。キュウリウオのサイズは15センチほど平均的なサイズである。

テントの中にほのかにキュウリの香りが広がる。


キュウリウオをすばやく釣り針から外すと釣り針にオキアミ再度セットし、海中に投入する。


そして、先ほど釣れた深度付近に仕掛けがちょうど来るように、途中で糸を出すのを止める。


かかった。すぐに振動が伝わってくる。そしてやはり振動は大きくなる。

再びゆっくりと糸を巻き取る。

今度も2匹のキュウリウオを釣り上げた。


これを4回程の繰り返したところ、ピタリと釣れなくなった。キュウリウオの群れが移動したのであろう。

釣竿を海中に引き込まれないように固定するとリュックサックからウォッカと携帯用のカップを取りだし、カップにウォッカを注ぐと一気にあおる。

瞬時に胃が暑くなり。全身が暖まっていく。うまい。

釣りに酒。まさに至福のときである。


さらに1杯ウォッカをあおる。

やはりうまい。


ふと海に目をやると、ここは不凍港ということもあり多くの船が行き来している。見ていて飽きることはない。


この海の向こうには西側諸国の国々がある。彼らも釣りをするのだろうか?


大自然と酒を満喫していると固定していた釣竿が震える。どうやらまたキュウリウオの群れが回遊してきたようだ。


こうして昼過ぎまでに50匹ほどのキュウリウオを釣り上げ。撤収することにする。釣竿をリュックサックにしまい、キュウリウオはビニール袋につめこむ。

この時期にクーラーボックスは必要ない。常に気温は冷蔵庫並みであるからだ。

テントをワンタッチで収納する。


急がないとすぐに暗くなる。ルーシ連邦の冬季では明るい時間は非常に短いのである。荷物を車に積み込むと急いで車に乗り込み走らせ自宅を目指す。


なんとか暗くなる前に帰宅し、妻にキュウリウオを手渡す。

料理は女の仕事の領分である。さて今晩はどんな料理になるのであろうか。楽しみである。

こうして平和な1日が過ぎていった。


辺境地方国の首都カツレツから遠く離れたこの土地では、首都カツレツでのデモのニュースも、ルーシ連邦と辺境地方国の関係が悪化していることなど他人事であった。


そんなことよりも、釣りやスポーツ、娯楽のことに関心を向けることの方がよほど重要だったのである。


首都での出来事に自分達には関係ない。こう考えられていた時がマロン半島の住民が最も幸せだったときであるのだが、彼らはこの後待ち受けることをまだ知るよしもなかった。

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