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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
12/20

12月2日

午前4時

記章のない緑色の軍服に目出し帽を着用し、拳銃や狩猟用ライフルで武装した集団がカツレツ市庁舎に隣接している警備詰め所を襲撃した。


この時間帯は、警備員の多くがパトロールに出払っていて、詰所の警備が最も手薄になる時であった。警備員の中にもメタルリヤ大統領の調印延期に不満を持つ者がいて、彼らがカツレツ市庁舎の警備情報をデモ隊にリークしていたのである。



武装集団は、警備詰所のドアを開け放つと、一気に詰所内に流れ込んだ。


「動くな!」


武装集団が詰所内の警備員に銃を向ける。警備員たちは一瞬動きを止めるが、状況を理解した次の瞬間には自らの職務を全うするべく反撃しようとした。

しかし、武装集団の練度は警備員たちより遥かに高く、拳銃を抜こうとしたり、抵抗をしようとした警備員を即座に彼らは射殺していく。仮眠室から半ば混乱した状態で飛び出してきた警備員にも彼らは容赦せず胸と頭に一発ずつ弾丸を撃ち込み射殺した。

そして無抵抗の警備員のみを後ろ手に手錠を掛け拘束した。


「オールクリア!」


全ての警備員を無力化し、詰所内に脅威が存在しないことを確認し終えると、武装集団の中の一人が声をあげた。


「了解。オールスタンバイ。」


リーダー格らしき男の号令で武装集団は緊張を解いていく。リーダー格らしき男はポケットから携帯電話を取り出すと通話をする。


「別動隊、別動隊。こちら詰所襲撃隊。詰所を制圧した。事後の行動にかかれ。」


通話先は武装集団の別動隊であり、内容はカツレツ市庁舎襲撃の命令であった。


リーダーは通話を終えると、隊員に車を用意させた。もちろん盗難車であり、武装集団の足がつくこともない。


「遺体を車に詰め込め。」


リーダーの指示により、隊員が声もなく黙々と遺体を車に詰め込んでいく。さすがに遺体をここに置いておくわけにはいかない。ここは反政府勢力の拠点にするのだから。


「ただし丁重に運べよ。同じ辺境地方国人だ。車は予定通り明日、市内の『赤い奴隷歴史博物館』の駐車場に運んでおけ。これで明日の博物館の閉館時間には遺体は見つけてもらえるだろう。…やはり同じ辺境地方国人を殺すことは気分のいいことではないな…。せめて彼らにはどうか安らかに眠ってほしいものだ。」


リーダーは非情になれなかった。



~~



「了解。事後の行動にかかる。」


一方、カツレツ市庁舎前では警備詰所の制圧の報告を受け、詰所襲撃隊と同じく記章のない緑色の軍服に目出し帽を着用した武装集団別動隊が庁舎への潜入を開始する。


別動隊の隊長が、『庁舎へ侵入』を意味するハンドシグナルを隊員に送ると、別動隊の隊員の一人が事前に用意していた梯子を窓に立て掛け、梯子を登っていった。見える範囲に警備員がいないことを確認すると、ドライバーを使って音もなく窓ガラスを割り、そこから手を差し入れ鍵を解除して窓を開け放ち、中に侵入した。他の隊員もこれに習い次々侵入していく。

別動隊は庁舎内に侵入すると、庁舎内を巡回中の警備員にしのびより、あるいは待ち伏せによって奇襲を仕掛け、警備員を殺害もしくは拘束することにより無力化していった。

そして事前に把握していた数の警備員を無力化すると、別動隊の隊長は詰所襲撃隊のリーダーに電話を掛けた。


「リーダーか?こちら別動隊だ。警備員は全員無力化した。そっちの死体を積み終わりしだい、市庁舎前にも車を送ってくれ。あと活動家にも連絡をよろしく。では。」


別動隊の隊長は電話をかけ終わると、隊員に市庁舎の表玄関の鍵を開け、外部から警備員や警官が侵入しないよう警備を命じた。

さらに残りの隊員には市庁舎の窓を全てを封鎖するように命じた。やらなくてはならないことはまだまだある。今夜は忙しくなりそうである。



~~



警備詰所とカツレツ市庁舎の警備員を無力化した武装集団は市庁舎内に活動家たちを招き入れた。


「必要だと思う書類は全て持ち出せ。」


活動家たちが声を掛け合いながら必要書類などを段ボールに積めていく。カツレツ市長や国家の不正を探しているのだ。

武装集団が警備詰所と市庁舎の警備を行っている。我々の役割は国家の弱点を探し出し、そこに付け入ることである。

弱点となる国家の不正が記された資料が見つかれば、デモは不正を行う国家と不正を追求するデモ隊という構図となり、国家を責める一応の大義名分はつく。そして大義名分さえあれば、国民はデモに参加しやすくなる。

今回の活動家たちの働きにより今後のデモの行方が左右されるのは間違いないため、活動家たちはみな必死であった。

活動家は大量の書類、データから不正が記されたものを探し、その他のものは今後のために整理して段ボールに詰め込んでいくのであった。



午前7時


カツレツ市庁職員のウィーパはいつも通り市庁に出勤するために、薄明かりの曇天の中家を出てメトロに乗り、カツレツ市庁舎への最寄り駅で降りた。


カツレツ市庁舎に近づくほど彼の足取りは重くなっていく。辺境地方国の冬は日照時間が短く、7時になっても日は出ておらず周囲は薄暗かった。それでも遠目からでも見える。カツレツ市庁舎が群衆に取り囲まれているのである。メタルリヤ大統領が調印を延期すると発表してから毎日カツレツ市庁舎は群衆に取り囲まれている。群衆は職員たちに罵声を浴びせ、出勤を妨害してくるので警備員による先導が必要となっている。


市庁舎がこのような状況では出勤したくないが、これも妻や子供のため、と自分に言い聞かせウィーパは市庁舎に近づいていった。


おかしい。群衆を規制する警備員の姿が見えない。ウィーパは仕方なく群衆を掻き分けて進むことにしたが、今日は特に群衆による妨害もなく市庁舎の玄関までたどり着くことができた。そこにも玄関前にいるはずの警備員はいなかった。おかしいと思いつつも市庁舎に入ろうとすると、不意に後ろの群衆の中の男から声をかけられた。


「お前は市庁の職員か?」


「そうですが、何か?」


「もう市庁舎に来る必要はない、帰れ。」


「何ですって?どういうことですか?」


「…よし、少し待ってろ。」


群衆のなかから男は抜け出すと、そのまま市庁舎の中に入っていった。

しばらくして男は上等なスーツを着た男を連れてきて、スーツの男はウィーパに尋ねた。


「お疲れ様です。カツレツ市庁の職員ですか?」


「そうですが、あなたは?」


「私はカツレツ市で起こっているデモに参加している一辺境地方国民です。突然のことで驚かれると思いますがカツレツ市庁舎は我々が占拠しました。私たちはメタルリヤ大統領の選択に不満がありデモを起こしましたが無視されてしまいました。なので私たちは力による現状変更をすることにしたのです。あなたを捕らえたり、デモへの参加を強制するといったことも私たちはしません。あなたは帰りなさい。ここにいては危険です。他の職員も家に帰るよう追い返しています。全てが終わるまで、家で妻や子供たちと平和な時間を過ごしなさい。」


スーツの男は丁寧にウィーパに告げると、拡声器を取りだし群衆に向けて話した。


「みんな、道を開けてやれ。辺境地方国民がお帰りだ。」


スーツの男の命令を受けると群衆は二つに割れ人一人が通れる程の狭い道を作った。群衆はウィーパを見ている。そしてその顔の大半は無表情で何を考えているのかわからない。


「…」


ウィーパは絶句した。そしてひとつだけ明らかになったことがある。それはこの場所に留まっていては危険だということである。スーツの男の言う通り、家まで帰らずとも、この場所からはすぐに離れなくてはならない。危険だ。


「…私は家に帰ることにします。ご忠告ありがとう。」


「懸命な判断です。ではお元気で。」


ウィーパはスーツの男に礼を言うと、勇気をだして作られた道を進んでいく。周囲は無言であり、視線だけがウィーパを追いかけてくる。それがたまらなく怖かったが、何事もなくウィーパは道を通過することができた。そしてウィーパが通過し終わると道はなくなり、市庁舎付近は再び喧騒につつまれた。


市庁舎から離れ帰路についたウィーパであったが、道中人通りが多い道を選び、また何度も後ろを振り返り追っ手がいないことを確かめた。こんなことをすることは議会連邦時代以来だった。

しかし、ウィーパの心配をよそにウィーパは何事もなく家にたどり着くことができたのであった。





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