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遠い国での革命  作者: 100万灰色の橋
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12月1日

解放広場からデモ隊が排除された翌日、「春の広場」に35万人ものデモ隊が押し寄せた。

春の広場は中央に美しい白い塔が建っている広場であり、広場を囲む建物も幸運にも先の大戦の戦火を逃れており、辺境地方国伝統の建物を美しいまま今に伝えている。

また、辺境地方国にとって「春」とは、自由と平和のための戦いといった意味も有している。その春の名前を冠した広場に、国家権力に対抗すべく闘志に満ちたデモ隊が再終結したのである。


そして解放広場のデモ隊を排除した直後に春の広場でデモが行われるという情報を入手していた内務大臣は、辺境地方国内警察にデモ隊再度強制排除するよう命じ、春の広場では35万人規模に膨れ上がったデモ隊と、昨日解放広場でデモ隊の強制排除を実行した1万人の警官隊がにらみあっているのであった。


「あなたたちもこっちに来なさいよ。辺境地方国民でしょう?」


「同じ辺境地方国民として、本当に国のためを思っているなら私たちと一緒に戦いましょう?」


デモ隊は女性や老人たちをデモ隊の外周に配置し肉の壁とし、さらには肉の壁に警官隊を誘惑する言葉をはかせた。

これにより警官隊が心情的に強引な突入をしづらくなり、また同時に警官隊の国家からの離反を狙ったのである。


その間にも春の広場の中央部にタイヤや車両、角材、有刺鉄線を用いて男たちが二重、三重とバリケードを構築し、即席の防御陣地としていった。


メタルリヤ大統領の強制排除を受けたユーリたち活動家は徹底抗戦を決意し、国家の決定に不満を持つ国民がこれに同調したのである。


「第一中隊、亀甲隊形をとれ!」


しかし黙ってこれを見過ごす混成任務部隊長と警官隊ではなかった。抵抗力の弱いデモ隊外周の女性や老人を極力怪我をさせないように注意を払いながら春の広場から排除すると、警官隊は中隊ごとに亀甲隊形を組んでバリケードを取り囲んだ。亀甲隊形は投石などに強い防御隊形であり、古来より攻城戦で城門に突撃する際などに敵の矢や投石を防ぐために用いられてきた。

混成任務部隊長は無駄だと分かりつつ形式的に拡声器でバリケード内のデモ隊のに警告をする。


「君たちは、カツレツ市の平和と安全を脅かしている。君たちがやっている行為は違法行為である。今すぐに春の広場から立ち去りなさい。立ち去らない場合逮捕する。繰り返す…」


しかし、デモ隊は口々に警官隊を罵倒し、挑発するのみであり、混成任務部隊長の警告には聞く耳をもたなかった。そしてデモ隊の対応を見た混成任務部隊長は早々に説得を諦めた。


「オウ!オウ!オウ!オウ!…」


説得が聞き入れられなかったため警官隊はジュラルミン製の大盾を警棒で叩き、脚を踏み鳴らし、怒声をあげた。デモ隊は恐怖し、警官隊は突撃前に闘志をみなぎらせていく。


そこに警官隊の行動に耐えられなくなったデモ隊の一人が投石をし、警官隊の大盾にあたった。

それが引き金となった。


「各中隊、前へ!」


混成任務部隊長が突撃命令を下す。


「第一中隊、突撃!」


「ウラァー!」


各中隊長の号令で警官隊は亀甲隊形を保ったまま突貫し、バリケードに取り付き、解体を始めた。


「警官隊に投石しろ!警官隊にバリケードを壊す暇を与えるな!何でもいい投げつけろ!」


「警官隊に冷水を浴びせてやれ!」


しかしデモ隊も負けてはいなかった。活動家達の号令により、バリケード内のデモ隊は投石や消化用水を用いての放水、バリケードの隙間から角材を突き出す等思い思いの方法で警官隊を攻撃した。

統制のとれていないバラバラの攻撃であったが、これは警官隊を遥かに上回る35万という数で補われた。数というのは多ければ多いほど、それだけで力となるのである。盾と盾の隙間にデモ隊の投石が散発的に飛び込み警官隊を傷つけていく。


「怯むな!一息にバリケードを破壊しろ!手当たり次第にぶっ壊せ!」


警官隊の中隊長たちは、隊員を鼓舞する。

隊員たちもこれに応えるように必死でバリケードを破壊していく。速やかにデモ隊を制圧し投石を止めなくては被害は拡大していくばかりである。


警官隊は必死でバリケードを破壊していくがそれももデモ隊の広場を取り囲む屋根からの投石により打ち砕かれた。

デモ隊は広場の敷石を剥がし、投石として利用したのである。重量のある敷石に重力が加わり、投石は必殺の威力をもった。

高所からの投石には盾は全くの無力であり、盾を上に掲げて防いだところで投石は警官の腕をへし折り、戦闘継続が不可能なダメージを与えた。


「警棒おさめ!盾を両手で保持しろ!」


混成任務部隊長が声を張り上げた直後、両手で盾を保持していた警官が投石により腕を砕かれ倒れた。混成任務部隊長は大盾ではとても防ぎきれないと即座に判断した。


「撤退する!下がれ!下がれ!」


亀甲隊形をとり、バリケードの破壊を行っていた警官隊であったが、何千、何万という投石や角材による攻撃といった数の暴力に加え、高所からの投石といった極めて威力の高い攻撃を受け、後退を余儀なくされた。


結局この日、3度中隊を入れ換えつつ警官隊による突撃が行われたが、バリケードを破ることはできなかった。デモ隊はバリケードを守りきったのである。

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