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水族館の日が近づくにつれて私は重大なことに気がついてしまった。
『‥‥あ、貴方が一人で行くのがかわいそうだからですわ。』
と言ってしまったけれど、そもそも一人で行くわけがないと…。
これに気づいたときの衝撃といったらもう…
お茶をひっくり返しそうになった。
そして思う。あんな偉そうなことを言ってどんな顔で会えばいいのかしら、と。
楽しみだけど行きたくない。
でも水族館デートなんてめったにないし、かといってあんなこと言った後だしどうしましょう…
いっそ水曜日なんて来なければいいのに。
とか思っていても、時間は進むわけで。
私は鏡の前でくるくると回転していた。
「うーん…。」
膝より上のワンピースに灰色のニットカーディガン。そして茶色のショルダーバック。
タイツを履くべきか、それともこのまま靴下にするべきか。どっちの方が合うのかしら。
結局悩んだ挙句、タイツを履くことにした。
「お嬢様、氣堂様がいらっしゃいました。」
「わかりました、今いきますわ。」
鞄の中チェックに入っていたので、ドアを開けられなくて良かったと思った。
***
玄関に行くとVネックにジーンズとラフな格好をした氣堂蓮が立っていた。
格好はラフだが、後ろの車が高級車なため王子様感がひしひしと伝わってくる。
「おはよう」
「おはようございます」
「今日はなんだか雰囲気違うね。」
いい方に?悪い方に?
即座に浮かんだ疑問を無視する。
「…貴方はいつもと変わらないですわね。」
「それはいい方なのかな、悪い方なのかな。」
…それ私が聞きたかったやつなんだけど。
というかいい方に決まってるでしょうが。
「そんなのいい……」
呆れながらいい方と言おうとしてはっとする。
え、いい方って言ったら私が氣堂蓮のことが好きってバレない?
待って。それはいいんだけど、周りには美好さんとか使用人さんとかいるし。
バレて破棄とか悲しすぎるんだけど。
「いい方ってことかな?」
やんわり微笑んでくれる。
や、いい方で合ってる。合ってるけど今は違くて。
でも悪い方とかはっきり言えないし。言える状況じゃないし。
あぁ、でもなにか言わなきゃ、なにか。
いい、いい…
「い、いい年して鏡も見たことありませんの!?」
…やっぱり、近日中に庭師に穴を頼んでおこうと思った。