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ブランドページやら雑誌やらを使い、服を考えるのにめちゃくちゃ時間がかかりました(後日談)
今から庭に穴を掘り始めて、身長百六十センチの私が入るには何時間掘ればいいのかしら…。
今日失敗してばっかだな。大人しく寝て置けばよかった。
そもそもあの日、蓮様とお昼を食べようと思って探しに行くんじゃなかった。
そうしたら私も思い出さないで、最後まで完璧な一華だったかもしれないのに。
クスっと笑われて遠くなりかけた意識が戻ってきた。
「ありがとう。そうしてくれると僕も助かるよ。」
いつもとはちょっと違った笑顔だったけれど、彼はまた笑ってくれた。
丁度琴の稽古がなくなった来週の水曜日に行くことになった。
病み上がりということもあり、曜日を決めてから彼はすぐ帰っていった。
そして現在に至るわけですが、私はクローゼットの前で格闘していた。
なんとういことでしょう。このお嬢さんは膝丈のスカートしかなかったのです。
「さすがに時代遅れでしょうよ…」
お嬢様藤宮が少し崩れたことを考慮しても、水族館に行けることになったのでまぁいいかと思ったが、クローゼットの服を確認して凍り付いたのである。
机の上のカレンダーに目を向ける。
今日は土曜日。明日は午前中に生け花の稽古に行けばもうなにもない。
服を買いに行こう。そう思った。
***
ありがたいことにお父様方は海外に旅行に行っているため、稽古の後にすんなりデパートに寄ってもらえた。
服を買うということもあり、ボディーガードは辰木さんから同性の美好さんに代わってもらった。
何度か来たことがあるとはいえ、都内最大級のデパートであるため何百とお店があるためどこに行けばいいのかわからない。
最近ちょっとずつ思い出している前世の日常用語には確か女性誌なるものがあったような気がするのだが、そのようなものは当然買わせてもらえないのである。
とりあえず一階の化粧品売り場から二階の女性服売り場にきたのはいいけれど、案内図を見たまま固まってしまう。
「…。」
そもそもいつもは使用人の皆さま方が選んで下さるわけで、でもそうなるとまた膝丈スカートになるわけで、でもそれだと時代遅れなわけで。けれど一人だとお店にすら入れない。
…なんでしょう、この負のスパイラル。
「お嬢様。」
十分ぐらい固まった私に痺れを切らした美好さんが心地よい低温ボイスで話しかけてくる。
「すみません、今決めます。」
「いえ、せっかくでしたら少し店内をご覧になったらいかがでしょう。」
思ってもみない提案にばっと振り返る。
黒髪のポニーテイルに切れ長の瞳をした彼女は普段通りの無表情ではあったが、いつもより優しい雰囲気に感じた。
流石に広すぎる店内を全部みようとすれば何時間もかかってしまうため、何件か見て気になったお店に入ることにした。
私は店頭のマネキンが着ていた白地に青い花柄ワンピースに一目ぼれし、店員さんに勧められるままにニットカーディガンと少しヒールのある靴と小さめのバックも買った。
買いすぎな気もしたが、水族館と天秤にかけた結果まあいいかと思うことにした。
車に戻ってから美好さんにお礼を言うと、彼女は微笑んでこちらを見てくれた。
笑ってくれるならもっと早くからお礼を言っておけば良かったかも、と思った。