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漫画の中での藤宮一華はプライドが高く、表情はまったく変化せず、家が第一の少女だった。
藤宮家の名が傷つくのを恐れて氣堂との婚約破棄を恐れていた。
けれど第三者の目から、おそらく前世の価値観からするとそうなっても仕方ない家に住んでいた。
そして氣堂蓮のことが好きで市花晴香に嫉妬していた。いや、今も嫉妬してる。
漫画で二人が結ばれるのは卒業式。
今は春休み。今年から三年生。
あと一年で二人の仲を覆せるか?
私だって何もせずに手放したいわけではない。
けれど、彼も彼女も思いあってる。それに彼等は十一歳の初恋の相手同士。
片やこちらは形だけの婚約者。彼が想っている人でなければ、初恋の人でもないし、用事がない限り会う事もない。
三年で二人は同じクラスになるけれど、私は別だ。
果たしてこんな状態で、彼を振り向かされるのか。
「できない‥‥」
呟いてまた涙が一筋零れた。
少しして「お嬢様、到着致しました。」と声がしたので車の窓でさっと涙の痕がないかを確認し、車から降りた。
***
私は倒れて三日間眠っていたらしい。
後に聞いてそんなに倒れていたのかと驚いた。
その間に終業式は終わっていた。
成績表やら荷持つやらは家の人達が持ち帰ってくれていたが、本を返していないと理由をこじつけ気分転換に学校に行くことにした。
図書室に本を返し、この間と同じ窓から中庭を見る。
春休みということもあり、誰一人いなかった。
笑いあっている二人を思い出し、胸が痛くなる。思わず手を胸の前で握り、消そうとぎゅっと目をつぶった。
「大丈夫ですか」
不意に声をかけられて目を開けた。
前方にはセミロングの暗い茶色の髪に同じような目をした女生徒が心配そうな面持ちで立っていた。
「保健室空いてると思いますけど、行きますか?」
私は即座に首を横に振る。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。ですがそこまでではないので。」
「けど‥‥。あまり顔色よくないですし‥‥」
「い、いえ。ほんとうに大丈夫ですの。お気遣いありがとうございます、天野様。」
そう言うと彼女は目を見開いた。
「ご、ごめんなさい、天野唯様だと思って。違ったかしら‥‥」
「いえ、合ってます。けれど、まさかあの藤宮さまが私なんかの名前をご存じでいらっしゃるとは思わなかったもので‥‥」
そう言われて、はっとした。
私がすぐ名前を出せたのは彼女が市花晴香の親友となる子だったからだ。
クラスも違い、私達は顔見知りでもなんでもない。ここは貴族が多く通う学校だが、彼女は少し富裕な家の生まれでパーティーなどで会ったことはない。
なのに私が名前を知っているのは不自然だ。
「え、えっと‥‥綺麗でいらっしゃったので、つい。」
恋したての小学生か、と心の中でツッコんだ。
変人ともとれうる言葉をどう思ったかと、恐る恐る彼女を見る。
「藤宮さまって面白い方でしたのね‥‥」
そういって天野さんは笑った。