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自分がどんなところで生活し、どうして死んだのかはわからないが、この世界はある少女漫画と同じだとはわかった。
「緑の思い出」というとある大企業の息子ととある少女が結婚するまでの少女漫画だ。
大企業の息子が氣堂蓮。
母が英国出身で金髪と緑の瞳、話し方も穏やかで家柄を気にかけないため良家の子女が通う私立連奏高等学校では王子様と評されている。
十一歳の頃に恋した女の子のことが忘れられないでいる中、思い出の中の女の子とよく似た少女と入学式で再開を果たす。
最初は婚約者という負い目があり、あまり少女に近づかないではいたが、天真爛漫な彼女にゆっくり心を開いていく。
少女が市花晴香。
肩まである明るい茶色の髪に、二重の黒い瞳に少し厚めの唇。確かにかわいらしい顔立ちではあるが、言ってしまえばどこにでもある可愛さである。
だが、彼女の持つ温かで優しい雰囲気と愛嬌が可愛さを引き立たせているのだ。
庶民ということで最初は嫌がらせを受けるが、彼女の屈託のない笑みや誰にでも平等に接する態度が周りを変え、徐々に受け入れられていく。
そして彼女が十一歳のとき、氣堂蓮が恋した相手でもあった。
二人の生涯となるのが私、こと藤宮一華だ。
十歳の頃に成長の著しい氣堂財閥と更なる発展を願い政略婚、政略の婚約をした。
許嫁という立場から市花晴香に苦言をしたり話の後半では嫌がらせもしていた。
しかしそれが仇となり、二人の仲はよりいっそう深まる。そして三年の卒業式に婚約を破棄されてしまう。
目を覚ますと自分の部屋だった。
白い天井白い床、薄い青色の壁。ベットに机にクローゼット、そしてキャビネットと本棚。
見慣れた部屋がひどく殺風景に見えた。
そっとベットから降りて机から鏡を取り出す。
肩より長い黒髪に灰色に近いぱっちりした目。くすみなど知らないという真っ白な肌。薄い唇。
綺麗だが感情が読めず、どこか人形めいた雰囲気をしている少女が映っていた。
自分のことなのに第三者っぽく思えて自嘲気味に笑った。
噛ませ犬。そんな言葉が浮かんできて、私は久しぶりに泣いた。