第6色 異変
みんな!お待たせ!友夏里だよ!
いよいよ今回、大幅なボス戦!
炎の龍に対して、私たちはどう戦う?乞うご期待!
焔龍ヴォルケイノ。姿は、某モンスターをハントするゲームに出てくる石の鎧を纏う龍にそっくり。ただ、石の鎧が溶岩化していて、更に、背中に噴火口がついています。歩くだけで周りを溶岩化して、触れるものを皆溶かすほどの体温を持つ!
でも...
「こんなの効かないよ!」
パッシブアームスキル『熱変動攻撃無効』のお陰で、私には獄炎も絶対零度も効かない!
一気に差を詰めて、まだ鞘から取り出していなかった剣を掴んで刹那の抜き打ち。いわゆる、「居合い切り」である。...というか、今ごろだけど、何で私ってこんなにプレイヤースキル高いんだろう?
(因みに、剣道をやっていたわけではない。)
まあ、そんなことは置いといて、今はこの幸運に身を任せ、全力で溶岩(溶鎧?)を断ち斬る。そこだけ凍って本体にダメージが通る。
これがヴォルケイノの弱点。
何故か可視化されている敵の5段のHPゲージの一本目が大きく削れる。同時に、ヴォルケイノの絶叫。
そのまま一気に連続攻撃に持ち込みたかったけど、
「不味い、『噴火』だ!」
ヴォルケイノが背中を大きく震わせる動作をしました。『噴火』の予備動作です。
この世界は一人称視点なので、こういう多段範囲攻撃がかなり避け辛い。
だから...
「ていっ!」
跳んだ。
「やあ!」
噴火口を横一線に斬った。
「しゅた」
着地した。ん?今の擬音要らない?キニシナイキニシナイ。
ヴォルケイノの弱点その2。
噴火の予備動作時に噴火口を斬ると、
《ギャアアアアアァァァァァ!》
ドカン!と噴火口が暴発して、HPゲージが軽く一段の3分の1は減ります。そこに、追撃の「《粉雪の舞い》!」
この技は、氷属性の威力を倍加して更に、流れるような五連撃。左斜め上からの袈裟斬り、返す刀でさっきの斬撃と同じ場所に追撃、またさっきの斬撃の中心を突いて、抉るように上への斬撃。最後に、大上段からの斬り下ろし。
このスキルひとつで、HPゲージが二段吹っ飛んだ。残り半分弱。
その時、怒りに燃えたヴォルケイノの両目に、矢が刺さった。よく見ると、黒い色をしている。確か、これは、《暗闇矢》だったはず。後ろを振り替えると、弓を発射し終えたらしい動作をしているコノッチの姿が。こちらの視線に気づくと、柄にもなくピースをして来た。
取り敢えず私もピースを返して、ヴォルケイノの方を見ると...
「えげつな!?」
思わず声に出して、乙女らしからぬ声を出してしまった。だって、
「どうやったらレジスト属性の攻撃でHPゲージが半分以上持ってけるの?!そして、どうやったら龍の最強種シリーズにブラインドなんて掛けれるの?!」
レジスト属性とは、弱点属性の反対で、簡単に言えばポケ〇ンで、炎タイプの攻撃で水タイプのモンスターに攻撃すると、「こうかはいまひとつのようだ」って出るあれのこと。分かりやすい。
因みに、効果はこんな感じ。
炎➡風➡土➡雷➡氷➡炎
闇↔光
それぞれ、矢印の向きに強く、向かれている属性は弱い。でも、うまいこと三竦みならぬ五竦みになっている。あ、光と闇はまた別。
で、龍の最強種シリーズっていうのは、こいつ含めて7体のドラゴンのことなんだけど、とにかく阻害効果が効きにくくて...コノッチ、マジ何者?バカなの?死ぬの?...そういや、バカなの?死ぬの?って元ネタなんなんだろうね?誰か教えて。
で、結局残り二段。何がって?HPゲージ。
取り敢えず、ブラインドがかかったからもう適当にやってもフツーに倒せる。
3分後。
呆気なく倒した。ブラインドつえー。
うん。ちゃんと討伐証明部位もドロップしたし、帰りますか...
「友夏里!後ろ!」
「へ?!」
直感で右にジャンプする。すぐに、地面が揺れる衝撃が。
「こんなに速くリポップするなんて!」
「いや、違うから!さすがにそんなわけないよ!とにかく後ろ!」
言われて、後ろを見る。
そこにいたのは...
「嘘?」
IAOには、今だ実装されていないはずの超有名モンスター、九つの首を持ち、その再生能力で、どのゲームでも万人を苦しめる強敵
ヒュドラが出現していた。更に追い討ちをかけるように、ボス部屋がグランドクエストの大ボスのように、謎の結界によって脱出不可能になってしまったではありませんか!
「「..........」」
二人して呆然とするしかありませんでした。しかし、そんな私たちに対する慈悲はないとでも言うように、ヒュドラの大きな顎から、毒々しい紫の煙が...!
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
ここで死ぬの?!こんなところで?!
とたんに浮かぶ死への恐怖。意識を保てなくなる。走馬灯が見えてきた。ごめんなさい、お母さん。お父さん。誰にも言わず異世界に転移してきてしまって、挙げ句の果てに変な怪物に溶かされて死ぬなんて、溶かされて死ぬ、溶かされて死ぬなんて...
「そんなの御免よ!」
私の叫びと同時に毒液を連射するヒュドラ。
しかし、遅い。遅すぎる。今の私は何処まででも行ける。毒液を斬り、すべて凍らす。それは、さながらフェンリルが牙を剥くよう。
まさに、今私は生のために悪魔と化しているだろう。これが火事場のバカ力というやつなのだろうか?
確か、ヒュドラの退治方法は...
普通のやり方で首を斬っても、首から新たな首が二本も生えてきて、無限連鎖になるだけだ。確か、確か、ヒュドラを倒したのは...!
「友夏里!ヒュドラを倒したのは、十の試練を受けたヘラクレスだ!確か、従者のイオラーオスが、ヘラクレスが斬った首を焼いていたはず!それで、首が復活するのを防いだはずだ!」
「ッ!わかった!ありがとう!...でも、炎がない!」
「炎は僕が何とかする!だから、迷わず首を斬って!出来れば全部一緒に!」
そんなことを言われて信じない幼馴染みはいない。またしても、毒液を発射するヒュドラを掻い潜り、たまに命中しそうになる毒液を一刀に斬り伏せる。
そして、ヒュドラの首が近づく...ッ!
「決める!《居合・瑠璃氷花》!」
武器の名前を称した最上級のアームスキル。すべてを切り裂く瑠璃の花!
これでどうだ!
スパパパパパパパパン!
九つの首が全部一緒に切り裂かれる!
「コノッチッ!!!」
「任せろ!《煉獄矢》!」
放たれた地獄の業火を纏う矢は、一直線に敵の首を燃やし尽くす!
はずが...
「嘘...首がひとつ残っちゃってる!」
「あっ!...忘れてた...そういえば、ヒュドラの首のうちのひとつは、不死身だったんだ!」
「え!!!」
「さすがに、不死を殺すのは今は無理だ...」
「じゃ、じゃあ...」
最悪の結論を頭に思い浮かべたその時だった。
『ほう?中々やるではないか。まさか、ここまでやるとは。お前達は、ヘラクレス以来の英傑だな。』
「ひ、ヒュドラが喋った?!」
『別におかしくはなかろう。我は何千年もの時を過ごした蛇神。人間の言葉を習得するなどもう一度ヘラクレスと戦うより遥かに楽だ。』
「...で、お前は何が目的だ?」
コノッチ、勇気あるー。
『ふん。我に目的などない。ただ、今の主に従うだけだ』
「今の主?!おいッ!詳しく聞かせ──」
『戯け!そんなに簡単に教えられるか!教えたら我が抹殺されてしまうわ!...話は終わりだ。また会うだろう。さらばだ』
「おい、ま──」
すると、いきなり姿が消えてしまった。まるで、元々そこには誰もいなかったかのように。
「今の主...か。」
──────────────────────────
(作戦は失敗か)
(奴等は想像以上に力をつけています。どうしましょう、創造主)
(...今は泳がせておけ。今は、な)
(了解しました。これにて会議を終了する。無限龍の名の元に)
((((((無限龍の名の元に))))))
影は、霧散した。
──────────────────────────
浮遊国に帰ってきた。なんか、どっと疲れがたまった気がする。
コノッチも同じような感じだ。
今、向かっているのは王宮だ。
一刻も速く、すこしばかりの手掛かりを伝えないと。
と、思っていたが...
「そう言えば、これ、どうやって王様に会うの?コノッチ?」
「うーん、わからない」
暫く佇んでいると、何か見覚えのある人影がこちらに向かってきていた。というか、王様だった。
「ほう?いきなりランク45のクエストを受けたバカがいると聞いたが?どうだった?」
「何で知っているのですか?!そして、何で来たのがわかったのですか?!」
「一つ目の回答だが、俺は王様だ。二つ目の回答だが、気配がした。これじゃ不満か?」
...もういいや。
「いえ、特に不満はありません。それより、ゆっくり話ができるところはありますか?少し、お話ししたいことが...」
「...了解した。付いてこい。」
・・・・・・
・・・・
・・
来たのは、前にも来た応接間。
「さて、お前らが経験したことを洗いざらい話せ」
「「わかりました」」
私たちは詳細を話し始めました。
・・・・・・
・・・・
・・
「成る程。その、主とやらの情報がないか気になっているのだな?」
「はい。恐らく、それらが我々の敵かと思われます」
「...詳細はわからないが、心当たりはある」
「「本当ですか!?」」
「ああ。少し長くなるがいいか?」
私たちは声無く頷きます。
「では、できるだけ簡潔に話すが...」
要約するとこうだ。
曰く、彼らは、この世界から異なる世界から来たらしい。
曰く、それらは何度撃退しても、何度でも甦ったらしい。
曰く、その事から、彼らは便査上《ウロボロス》と呼ばれているらしい。
曰く、ただ一つ確かなのは、彼らには時空を越える力があるらしい。
「...とまあ、そんな感じだ」
「ありがとうございます。参考になりました。」
「ならよかった。ところで、お前達は神話のことを覚えているか?」
「いいえ...」
「読んだ場所は全部記憶していますが、それ以外は...」
「なら、この本、持っていけ」
「...え、いいんですか?」
「いい。どうせ俺には必要ないしな。うまく使え」
「ありがとうございます」
・・・・・・
・・・・
・・
拠点に変える道で、何故か沈黙が訪れていました。
恐らく、未知の敵のことを考えていたのでしょう。
重苦しい空気を抜こうとして、思いきって話しかけました。
「ねえ、なんか暗いけど...大丈夫?」
「ああ。心配してくれてありがとう。ちょっと日本のこと考えてて...」
「日本?」
「...ただのバカな想像だけど、奴等は次元を越えるらしい。もしかしたら、すでに地球がターゲットになってるかも...ごめん、こんな重い話して...」
「いや、いいよ」
地球がターゲット...もし、救えるとしたら、私たちを含む七彩武装だけかもしれない...いいえ、私たちだけです。
いつのまにか、拠点に着いていて、夜も遅くなってきました。
それぞれの部屋の前につくと、
「じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
それぞれの部屋に、疲れながら入って、服を脱ぐのももどかしく、ベッドに直接入っていました。
((地球に、帰りたいな...))
二人とも、同じことを思っているなんておもいもしませんでした。
それが、奇跡を生むなんて、想いもしませんでした。
うん。なんだかシリアスに終わってしまったけど、次回はとんでもないことになるから。
木葉です。
うん。まさか、5000文字越えるとは思わなかったかな?行って3000くらいかなって思ってたけど...
あ、ここから後書き先読み派の人たちは要注意。
ネタバレだから。
いい?えっと、今回出てきたヒュドラは、Wikipediaさんを参照して、出来るだけ同じような設定にしようとしました。ただ、設定が間違っていたらごめんなさい。あと、最初の石の鎧を纏う龍っていうのは、「グラビモス」で検索かけたら出てくると思います。はい。
次回から少し新展開となる七彩武装ですが、今後も御愛読よろしくお願いします。
9月4日追記:投稿時のミスで、木葉と友夏里と王様の会話部分でルビの部分にミスがありました。
誤 彼らは、便査上と呼ばれていた
正 彼らは、便査上《ウロボロス》と呼ばれていた
大変失礼いたしました。