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必勝の聖眼の神殺しと戦女神  作者: 暁 白花
2章 聖なる乙女
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幕間 待ち人来たり ーセレナー

 世界、物事について人が理解出来る範囲はとても狭く、自分たちの知り得る範囲にしか存在しない。


 だが、それを知る者にとって世界、物事は一つでは無く、とても広い。


 それでも、知識として知ってはいても実感としては理解できていない。


 そして、狭い範囲だけで生きていると考え方もまた、狭くなっていく。


 そして、自分もまた、その一人だと病床に伏せる父の代わりに監理者代行としての仕事を片付けながら考える。


 自分の様な地方の田舎貴族が王都の中央学園に通う事が許されたのは、父が相当な無理をして通わせてくれたからだ。

 本来ならば、中央学園に通えるのは一握りの特権階級の子弟のみだろう。


 貴族とはいえ、末席に名を連ねる田舎貴族。決して豊では無い。


 レーゼンベルト家は伯爵と言っても、王宮がナトゥーラの豪族であったレーゼンベルト家に便宜的に与えた肩書きにしか過ぎない。

 平民、せれも地方の平民となれば尚更、見識は狭まる。


 私は窓から雨が降り続く暗い外を見る。


「………………」


 溜め息を一つ。


 彼等は、祖先が繰り返してきた祭事を当然と受け止める。


 「当たり前だ」「常識だ」と、その一言で人は思考を停止させて、外の世界を見る事も止めてしまう。


 そうしなければ、この無慈悲で弱ければ死が大きく口を開けて待ち受け、強ければ生き残ると言う無慈悲で厳しい世界では、生きていく事すら辛い。


 それは私にも良く分かっている。


「アースィナリア様の御手を煩わせてしまいましたが、祭事を続けさせる訳にはいきません」

 

 私は雷雨降り止まない空を見て呟いてしまう。


「こんな欺瞞に満ちた儀式も終わらせなければ……」


 神に仕える【聖乙女】

 その実――


 堕ちた精霊への生け贄。


 それも、百年、千年と続けば、それも立派な【伝統】に成る。

 今年の【聖乙女】フリーデルトは私も知っていて、歳も同じだ。


 そして定期的に、または変則的に娘たちが捧げられ、零落しケダモノに成り果てた精霊に喰われていく。


 それが、最小限の犠牲で抑えると言う事は理解出来る。

 私は、それが怖かった。永く見続ければ、その『犠牲』と言う感覚すら薄れ、この感情すら抱かなくなってしまう。


 祭司、神官、信者たちは【聖乙女】候補の孤児たちに土地神に捧げられる事は名誉で尊い事なのだと、教えている。

 当然、親は居らず、だからこそ贄としても文句を言う者は、最早この町には居ない。


 だからこそ孤児院を建て、神殿や社、祭儀場を作って祭司は名誉を、神官、信者たちは信仰を説く。


【聖乙女】が居なければ、この北方の貧しく痩せた土地にあるナトゥーラでは、人々が生きていくのは難しい。


 土地神の【息吹(神威)】がもたらす【加護】が無ければ毎年、北方の厳しい冬は乗り越えられず、数十、いや、それ以上の死者が出るのは自明の理。


(あれはっ!!)


 私は執務室を飛び出す。


 アースィナリア様がこの豪雨の中、駆け付けて来てくれた姿だった。


 それはレーゼンベルト邸に番兵が顔面を蒼白にしながら、駆け込んで来たのと同時であった。


 番兵が、しどろもどろに為りながら息も絶え絶えに話す言葉を聞き、さしものレーゼンベルト家の執事も顔面を蒼白にさせ、大量の汗を流している。

 私は目眩を覚えるも、アースィナリア様に槍を突き付けた番兵を捕らえるため、人を選び、アースィナリア様の許に急いだ。


 その際に、自身付きの侍女クラリスが「これも、出来る侍女の嗜みですから当然です」と、にこやかに言った事が気になった。


(侍女にそんな嗜みが有ったかしら?)


 それは、土地神が弑されたと言う驚くべき報せが祭司によってもたらされる少し前。



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