散り逝く者 ー裏切りー
ガンガンと警鐘を鳴らすように頭に響く痛み。
この痛みは、オレがパワーアップした事で、まだ頭が身体の感覚に馴染んでいないからだとザッシュさんが言っていたけど――
『千尋』
――千羽のクソ野郎を見ていると思い出される幼馴染みで、オレの彼女。
オレの愛しの少女だと言うのに、千羽のクソ野郎は千尋を自分の彼女だとぬかしやがる!!
「テメェだけはぜってー許さねーッ!!」
クソッ! なんだってんだ! 千尋を想う度に頭痛が酷くなるのは何でだッ!?
訳わかんねーけど――
「――オラオラオラ!!」
これが超戦士として目覚めたオレの本当の力!!
千羽のヤローはオレの怒涛のラッシュについていけなくなっている!!
「はは……真の力の味はどうだぁっ!! コレが正義の鉄槌だっ!!」
オレの憧れた超戦士は死の淵から復活する度に強くなっていったんだ。その力と同等の力を得たオレのラッシュのスピードに、たかが剣道が得意なだけの無能判定をくらった千羽が、オレに敵う筈がないのも当然だな!!
あとは、オレの最高のダチ―― 翔真が完全復活を待つだけだ。
翔真が千羽をぶちのめすべきだ。
千羽をぶちのめして、アイツが引き起こしたこの戦いに終止符を打って、そして勇者として翔真は詩音と紗奈、それにエルフの王女リーゼとセフィーリアと結ばれ、オレは千尋とクレア……できればリディアさんやアルシェさんのあの素晴らしいお身体も……。
楽しみだぜ!!
ぐあぁっ!! 頭がいてぇぜ!!
千尋を思いだすと同時に思い出された美少女と美女……その名前を、彼女達を思うと頭痛が酷くなるのは何でなんだ!?
やっぱ訳わかんねーけど――
「ぐぉおおらぁああっ!!」
痛みをパワーに変えて千羽のクソ野郎を殴ると、この頭痛が治まるんだから、悪をぶっ殺せば治まるってことだろっ!!
「くたばりやがれっ!! 千羽ーーッ!!」
円運動で魔力を練り、正義の魔力を両の掌中に集中させ鋭く突き出す。オレの憧れる超戦士の十八番の必殺技――
――っぽくやってみたオレの必殺技・炎烈轟破拳。
青白い魔力の奔流が千羽を呑み込んだ。
「ハァ……ハァ……どうだ!!」
ガッツポーズをするオレの目に映ったのは、ズタボロとなりながらも千羽の野郎は立っていた。
「しつけぇんだよ!!」
オレは魔力を爆発させた瞬間加速―― 瞬烈術で千羽の背後を取ると羽交い締めをすると叫んだ。
「翔真ぁっ!! オレが千羽を抑えている今がチャンスだ!! このクソ野郎を討てーーッ!!」
ザッシュさんによって翔真もパワーアップを施されていた。それが今終わって、聖剣を構える翔真が魔力を纏い瞬烈術で駆けてくる。
え!?
ドシュッ―― と背中への衝撃と体内を何かが入り込み、その何かが体内を引きずり出される感覚。
「……ガハッ」
戸惑うオレは、その衝撃の元を確認する様に背中へと視線を向けると、紅い炎を宿した極太の牙がオレの背を貫き、千羽の腹へと抜けていた。
「一誠そのままでいろ!!」
「グッ……そのままで居ろって……無茶言ってくれるぜ……!! 千羽は抑えていてやる!! だから確実に仕留めろよ翔真!!」
「ああ、俺に任せろ! 千羽諸ともその魔獣神を討つ!! 我は正義 其は力 愚かなる者に断罪の輝きを!! 光を帯びし者ッ!!」
裂帛の気合いと共に一閃。
黄金の輝きが千羽と、こいつを羽交い締めする俺と、魔獣神と翔真が言った猪を斬り裂く。
「……悪は滅した」
翔真が言った通り、千尋や詩音、リーゼ達を洗脳していた千羽は死んだ。彼女達は漸くあのクソ野郎の悪夢から解放される。
だが、魔獣神は滅んでいない!? 翔真からの攻撃は魔獣神を滅する程じゃあなかったのか? いや、まあ、オレがまだ生きているからそうなんだろう。
しかし、その紅炎を宿した極太の牙を持つ容貌魁偉の猪が、オレの身体に牙をぶっ刺したまま暴れ狂う。
その度に身体が前後左右に揺さぶられる。
「ァ……あ゛ぁぁ――――――――――――ッッ!!!!」
『――――――――――――――ッッ!!!!』
尋常じゃない痛みに叫び声を上げちまうが、その叫びに被る様に猪の雄叫びで、オレの耳は正しく捉えられない。
いてぇ、いてぇ、いてぇ、いてぇ、いてぇ、いてぇ、いてぇ、いてぇッ!!
「がっ!!」
揺さぶられ続けてズルッと身体が抜けて地面に叩き付けられた。
鮮血が吹き出して、ドクドクと流れ出して血の池を作る。
「がはっ、こほっ!」
咳き込んで口の中に広がる鉄の味と臭いに噎せて更に咳き込む。
その度に血の霧が漂う。
「しょ、翔真……」
回復してくれと親友を見上げる。
「ふん……クズがまだ生きてたのか? ゴキブリみたいだな……」
「な、何言ってんだよ……ダチだろ? 早く回復してくれよ」
「俺とお前が?」
翔真はオレを見下すようにハッと嘲弄の笑い声を発すると――
「それこそ何を言ってるんだ? 足手まといのバカなんて要らないんだ。じゃあな一誠……千尋は俺が貰う。お前には勿体無いだろう? 彼女達と一緒になるのは正義の見方の俺だけで良いんだ。それなりに愉しかったぜ一誠」
だから俺の為に死んでくれ、と翔真は風穴の空いた腹に手を突っ込みオレの中から魔力の核となると結晶を抉り出した。
「ぁ……」
オレの存在から何かが急速に失われていった。
次回は翔真視点で、その次で詩音視点で今回の話を書いていきます。




