プロローグ ナトゥーラ
魔導大国アークディーネ・王都アルフィードより北の山間部にある小さな領地ナトゥーラ。
良くも悪くも変わりやすい山の気候の影響を受ける、豊かな自然の恩恵を受け易い土地柄でもあるが、獣や魔獣に襲われ易い土地柄でもある。
耕作に適した土地は限られていて、他に特産品も無いとあっては、村とも町とも言えない中途半端な領地ナトゥーラの財政は安定していない。
だが、そう言う場所でも生きていくしか無いのが人間だ。
ナトゥーラの住人に限らず、生まれた土地から離れる事が出来るのはごく一部の者に限られる。
国土の治安を維持するべき国政の権力は辺境には及びにくい。
旅は商人であれ一般人であれ勿論、その護衛の冒険者さえ常に命懸けであり、町や村を離れれば凶暴な賊や魔獣、魔物と言った脅威には事欠かない。
そして――
そんなナトゥーラ中央広場。
「おい、見ろよ」
領地の外、森へと繋がるその道を……。
激しく降りしきる雨の中、何十人もの人々が見ている。
その中を数十人の行列と、一台の神輿の山車を引く者達。
山車には少女が一人、頭を垂れて座っている。
行列の人々はいずれも白色の長衣を着込んでおり、その手には儀式用の鈴を持ち彼等は何かを唱えながら、一歩一歩毎に、シャンシャンと涼やかな、しかし単調な音を響かせる。
二年に一度行われるそれは、領民にとって見慣れたものだ。
神輿の上に座る少女の姿もまた、領民にとっても馴染み深いものだった。
薄衣の白い衣の様な儀式用の衣装で、元々、薄く透けている衣装が雨で濡れて完全に透けて肌に張り付き、その身体を浮かび上がらせている。
「今度の神の【聖乙女】もやけに若い」
祭祀行列を眺める人々が、密やかな囁きを交わし合う。
彼等の口調や声音には熱も高揚も無い。そこにあるのは諦観と沈鬱な響きだけ、それすらも雨の音に消されていく。
「あの娘も孤児とは言え器良も良かったのに」
「この為だけに、育てられてきた戦災孤児だ」
彼等はこの少女がどうなるのかを理解している。
理解していながら見送る。
神輿の上に座る少女に注がれる彼等の眼差しは…………。
葬列を見送るものとよく似ていた。
祭祀行列が過ぎると、彼等は広場を後にする。
後には何も残らない。
激しい雨音と遠雷が響くだけだった。




