157話 決起集会1
「良く集まってくれた! 知っている者は知っておろうが、ワシがスティンカーリン冒険者組合、組合長ガーリッツ・ハウルマンだ」
ガーリッツが姿を顕し、重みのある声で挨拶をし、ざわめきを鎮める。
修練場――今は集会場になっている宣言台に威風堂々と立っていた。
「やっぱり似ているわよね、ガーリッツさんの声」
「ああ、似てるな……」
我が懐かしの故郷で流行ったアニメの大総統の声に似ている。
「此処に集まっている私達が持っているのは銀の懐中時計では無く、精霊銀の冒険者登録カードですけど……」
千尋が腰のポーチから取り出してクス、と小さく可愛らしく笑う。
「三人共、ちゃんと聞いてあげなさいよ」
「例の作戦を通す為に、それなりに苦労したみたいだからな。せめて話くらいは聞いてやれ。古馴染みとして奴が哀れでならんよ」
リーゼは俺達に呆れながら、アルシェさんはガーリッツに同情しながら注意をしてくる。
「こういった場での長話は嫌われるわ。話に山がない、意味が有るようで無い、そして落ちがない、つまらない、なんて聞いている者を疲れさせるわ」
「……やれやれ、こういった場での長話が子供に嫌われるのは何処の世界でも同じか」
お子様だからね、簡潔が大事です。
「え! ガーリッツ殿が大総統……?」
「アースィナリア様、今はガーリッツ殿の説明を聞くべきです」
「わたし達は知っているじゃない」
「お姉様、懐中時計ってなんでしょうか?」
「それはね、セフィー、時が正確にわかる細工よ」
「時がわかるのですか!? 凄いです!!」
「セフィーリア様貴女もですか……」
ガーリッツ校長の冒険者学園は一部崩壊。セレナ先生の学級は完全に崩壊だなー、なんて考えていると、視線を感じたので、崩壊させている原因の俺は詩音達と目だけで示し合わせ、顔をガーリッツに向ける。
するとガーリッツが心で泣いている―― 様に見えた。
「一応大切な話をしているをだがな……」
奴め年を経て、経験則頼りに落ちたか? とはアルシェさん。
「俺としてはガーリッツの話より、此処に集まった魔法士と魔導士の実力が気になりますね」
「安心しろ、補助魔法の準備は整っている。禍ツ神までの道は私達、魔導士、魔法士が切り開いてやる」
詩音は援護射撃、リーゼとアースィナリアの女神の契約者組は精霊力の回復次第、前衛に合流して戦う事になっている。
「スティンカーリンへの防壁が全て破られ、哨戒中の騎士・衛士達が壊滅したのは周知であろう。だがしかし、今朝早く、たった一人ではあるが、騎士が帰還した。ワシから伝えても構わんのだが、本人が自分の口で伝えたいという事だ。では頼むぞ」
「はっ!」
シュリカに付き添われて顕れたのは、俺達と年の変わらない少女騎士。
その少女は左腕と右脚を失っていた。
少女騎士は壇上に立ち、二百近くの―― その中には壊滅した騎士や衛士達に非難の目を向ける者がいて、その視線に気付かない訳が無い、というのに彼女は臆する事無く自身が経験した事を語り始めた。
その瞳には仇討ちに燃えている。
彼女の小隊は禍ツ神の供物として生かされた為、醜豚人や餓鬼等に犯され無かった事。
引っ立てられて連れて行かれた場は黒い渦の真下。それが割れて、遊戯でもする様に遊ばれ喰われた仲間の事。彼女が忘却の風を使えた事で、小隊長が自身の身体に施した連爆の魔法で逃げる切っ掛けを作り、逃がしてくれた事。
仲間は散々に逃げて、彼女自身も腕を無くし、脚に深い傷を負いながらも自分だけがこの街に生きて戻れた事。
「私……一人……生き、のびて……生き恥じを晒している。……もう……確かめられ無いけれど……他の仲間は、誰一人……ですか生きていないと思う……」
彼女はそう言いながら衣服を脱ぎ始める。
「情けないけど私には魔力がなく、皆さんの作戦では役に立たず、この身体では剣働きも出来ない……」
シュリカは唇を噛み、耐えている。
彼女は自分は負け犬だが、小隊長の名誉は守りたいと、言葉に力を込めて衣服を脱ぎ捨てた。
「私にはこの身体しか残っていない……。片腕、片脚になってしまったけど……皆さんの慰――」
「涙するくらいなら、馬鹿な真似は止めなさい」
詩音が結晶から召喚した外套を騎士の少女に被せる。
「遺族に何かを―― と考えてたのよね。自分を娼館組合に売ってまで……」
詩音は娼館組合のゴルベルーナを睨む。
「それしか……私には……」
「貴女が身体を売って遺族に何かをしても、その遺族の為にはならないでしょ?」
「では……」
「生活が出来る術を示す事くらいよ」
俺は結晶から【賢者の秘薬】を召喚して――
「詩音!」
詩音に秘薬の小瓶を投げると彼女は見事に片手で取ると、蓋を開けて少女に差し出す。
「【賢者の秘薬】よ飲んで」
「エリュックォッ!?」
詩音はそう言うと、戸惑う少女の口にズボッと差し込んだ。
「転生少女は天命を覆す」も宜しくお願いいたします。




