プロローグ 幼馴染みの心の決着
私達が冒険者組合に足を踏み入れると、そこは上へ下への大騒ぎになっていた。
「何があった?」
アルシェさんが組合職員の足を止めさせて聞いた。
「あ、貴女様はっ!」
「今は私の事などどうでも良い。疾く言え」
「あ、皆さん良い処に。今から呼びにいくところだったんですよ。私が対応させていただきますね。あ、貴方はそれを早く運んで」
「は、はい」
アルシェさんに話掛けられて、アワアワしている組合職員を見かねたシュリカが、駆け寄って来て説明してくれる。
「では、説明を。明け方、一人の女騎士が駆け込んで来まして、紅牙猪が禍ツ神として覚醒。我々の予測よりも早く、未だに万全の準備が調わず、でこの有り様です」
「戦いなんて何時だって準備不足の連続だ。アレが、コレが、と言い出したら切りがない。それでも対応して見せるのが一流を越えたS.rank冒険者だろ?」
「あ……! はい、その通りです!」
弱気になってたーっ!とシュリカは両頬を叩いた。
「アルシェ様には例の作戦の事で組合長がおよびですので、申し訳御座いませんが一緒に来て頂きたく、お願いいたします」
「うむ、了解した」
「ソージさん達とアースィナリア様御一行も修練場に、とのことです」
「了承した」
「そ、それと……ですね」
「ん?」
「す、素敵ですッ!」
シュリカはそれだけ叫んでアルシェさんを置いてきぼりにして、全力ダッシュで応接室へ続く廊下に消えていった。
……別に彼氏が褒められるのは彼女として鼻が高い。ダケド、複雑な気持ちもあるんだけど……。
アルシェさんのハーレム論が冒険者の中では普通というのが侮りがたい。
何せシュリカこの冒険者組合で働いて屈強な冒険者に言い寄られる中、誰にも堕ちなかったのに、言い寄っていない総司に堕ちた。
ハーレム運営、本気で取り組むしか無いのかしら?
「やれやれ、あの娘は……」
くれぐれも問題を起こすなよ、とアルシェさんは言い残して、恥ずかしげに待っていたシュリカと連れだって組合長ガーリッツの下に向かった。
例の作戦に何人が信じて、何人が乗るかによるが、案外、楽に本丸を狙えそうな気がするんだけど……。
「こっちだ! おう、ボウズ、嬢ちゃん達戻ったんだな」
「久しぶり、心強いわ」
「お元気そうでなによりです」
ブランさんと総司は軽く拳を打ち、私はお久し振りですね、と笑顔を交わし旧交をあたためる。
《シルヴァラ》の三人と再開に互いの事を軽く話、やはり俺の戦衣装への質問になり、冒険者としてではなく戦人としての正装をしただけだと答えた。
「サナさん、良ければ私達、《シルヴァラ》に正式に入っていただけませんか?」
アランから紗奈に仲間入りの申請。
セフィーリアと向き合う。
「サナが活きやすい場所で戦うのが一番です」
「でも……」
「ソージ様、シオン様の仰る通り失敗前提の強行軍……。もう貴女が犠牲になる必要はありません。今更……ですが……」
「此れからは、アースィナリア様の下で帰還方法を探します」
紗奈が深々と頭を下げる。
そして、《シルヴァラ》の三人に向き直ると、宜しくお願いします! と頭を下げる。
「……アラン」
「……惚れたのね」
「サナも満更じゃなさそうじゃない?」
「そう、ですね。紗奈も解き放たれて良かったです」
紗奈、彼女はもう大丈夫そうね。
「随分前に誘ってたの。これで前衛が安定するわ」
「ブランが強いのは認めますが、なんと言っても力バカですからね」
「それに華は大歓迎よ」
「あ、ありがとうございます」
エリナが後ろから紗奈に抱きつき、アランはブランを見てあからさまな呆れた態度を見せる。
「攻撃は最大の防御っていうだろうが! 最後まで立ってるヤツが強者で正義なんだからかまわねーんだよ」
「そのバカの突撃の隙を補う此方の身にもなりなさいよ。いい加減にしないと、そのケツ穴に水流ぶち込むわよ」
「一度、このレッドスパイス液の付いた矢をぶち込んで、ヒィヒィ言わせないといけないのかも知れませんね」
……可哀想だからやめてあげなさい。
でもこうやって女性に虐められたい男冒険者や騎士が増えていくのね。
ブランさんがこの場で唯一の男子である総司に助けを求めるのだけど、その総司はアースィナリア達に○×ゲームや山崩しを教えて、遊びに興じてる!!
決戦前だというのにマイペースよねアナタ達!
総司とゲームに興じながら、アーシェ達は《シルヴァラ》を見ている。総司も彼等の強さを話てる。
(《シルヴァラ》をスカウトする気かしら?)
軍にも騎士隊にも入らないと思うわよ。
……”冒険者”としての彼等の矜持を守るなら、”巡検士”の称号を与えるというところが妥当かしらね。
(ま、全て終わってからよね。何もかも……)
私は青い空を見上げた。
『転生少女は天命を覆す』という小説を新連載してます。
よろしければ読んで見てください。
宜しくお願いいたします。




