異世界転移で主人公に必要なアビリティ(スキル)
「しおんー」
一緒に夏休みの宿題をやっている総司に、どこか気の抜けた間延びしたような発音で名前を呼ばれて顔をあげる。
「何? 『呼んでみただけ』とかいう下らない理由ならしばくわよ?」
「いや、とても大事な事なんだけどさ」
「大事な事って何よ?」
夏休みの初日にスタートダッシュを決めて宿題を終わらせようと言っていたのに、早くも駄弁りモードだ。
早くもとは言っても、もうすぐ昼食時になる。
終業式が終わって、直ぐに宿題を始めたから、あらかた片付いてはいるけれど。
「もしさ、異世界転移とかしたらさ」
「……」
新刊のラノベがつまれている本を取り、パラパラとページを流している。
「“主人公”になったら、『無口』で『はい』か『いいえ』しか答えられなくなるバッドステータス―― 『コミュ障』や『陰キャ』が付いたりするのかな」
「確かにレトロゲームのRPGの主人公は無口だし、はい、いいえでしか答えられないけど、今時の主人公はよく喋るじゃない」
あと、コミュ障でも陰キャでもないと思―― いや、そういう主人公もいたけどさ。
「それがどうしたのよ」
気分転換に話に乗ってみる。
「主人公になったらコミュニケーションスキルを上げないといけないと思うんだけどさ」
「……そうね」
私と総司は主人公になれないわね。その役目は氷鏡たちがお似合いだ。
「だけどさぁ。俺は思うわけよ。一番大事なのは、ソレじゃないって」
「じゃあ、何が一番大事なのよ」
「踏破アビリティが一番大事だってさ」
「は?」
――いや、踏破アビリティって……。
「いや、だって主人公って奴は少しの段差や跨いだり、ちょっとジャンプすれば渡れそうな場所や降りれそうな場所通れないんだからさ」
「確かに戦闘ではとんでもない身体能力を発揮するのに、少しの段差で行けないことあるものね」
「現実でそれなら、小石で躓いて転倒するかもよ? いや、小石があるから通れないとか?」
「それ、どんなドジっ子よ。だけど……確かに踏破アビリティは必要ね。パルクールとか、壁やドアを蹴破る、破壊するアビリティも、水中での活動能力とか泳ぐ能力も必要ね」
洋ゲーではそういうスキルを伸ばすゲームがある。
続きはお昼を食べながら、もしくは食後にのんびりと。