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必勝の聖眼の神殺しと戦女神  作者: 暁 白花
11章 たとえ鬼になろうとも、結び繋いだ小指の誓いは違えない
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134話 求婚?

(今、何時よ……)


 私が―― 正しくは私達が眠れたのは空が白み出した頃で……。


 私達を散々焦らし悶えさせ、啼かせた本人は―― 総司は私達より早く起きたのか、ベッドの中には居らず、ボヤけた頭を働かせて、総司が外して、枕元に放り出したまま置き去りにしている腕時計で時間を確認すると、11時を少し回っていた。


(……フェザータッチがあんなに凶悪だったなんて……)


 千尋とリーゼは裸でシーツにくるまり眠っている。


 甘い気怠さの残る寝起きでも、はっきりと思い出されて、顔が熱くなる。

 鏡を見なくても自分の顔が朱に染まっている事は、頬に宿る熱が触れた掌に伝わり教えてくれている。


(な、何であんな事を言ったのかしら……)


 リーゼの告白に総司が応えて、私もリーゼなら、と受け入れた迄は良かった……。

 それから、恋人同士になった二人のキスシーンを見て……。


(……いくら恋人として負けん気が出たからって……、なんて大胆な事を言ったのかしら……)


 ベッドに寝転び胸元をはだけさせて、ショートパンツのホックを外してファスナーを下ろし、軽く膝を立てて誘うように総司を見る。


 私の顔の横に手を着き、覆い被さる様な姿勢で耳元で『どうして欲しい?』と優しく囁かれ、『可愛がって……』なんて言ったのが事の始まりで――


 ……その後に千尋と、リーゼが加わって……。


(頭を冷やしてこよう……)


 私は床に散らばる服を来て下着を拾いバックに入れて、一階に下りると、ミリアに声を掛けて勘定台カウンターに大銀貨1枚(五百円)を置いて、湯浴び塲に入り鍵をかける。


 私は洗濯用洗剤とお風呂セットを結晶から取り出し、身体を流してから洗濯を済まし、改めて身体を洗い、残りの時間を湯船に浸かり、ミリアが声を掛けるまで、のんびりと過ごした。


 湯上がりのフルーツジュースを買って飲み、部屋に戻り、洗濯物を日の当たる場所に干し終えると、一階に戻りミルクとカステラを頼む。


 売りカウンターの席に座り、ミリアに頂きます、をして食べる。


 ミリアのお菓子作りが上達していて微笑ましくなる。


 ゆっくりと楽しんでいると、真っ赤な顔をした二人が私同様洗濯物を抱えて下りてきた。


「おはよう。千尋、リーゼ」


 私は余裕を見せて、二人にもう昼前だけど、おはようの挨拶をして見せる。


「お、おはようシオン……」

「お、おはようございます。詩音……」


 まあ、わからないでもない。色々と恥ずかしい処を見られたんだから……。


 それにしてもベリーナの特性ローションの出番が無くて良かった……。


(怖いし……)


 私のタイミング……でって事よね……。


 二人は各々、大銀貨を置いて湯浴び塲に消える。


「ご馳走さま、ミリア」

「はい、シオンさん。いかがでしたか?」

「ふふ。上手に出来ていたわよ」


 私がミリアの上達を褒め、頭を撫でると目を細めて嬉しそうにしている。

 そんなミリアの日常を1日でも早く取り戻してあげないと、と思いをつよくする。

 

「二人にも同じものを」


 暫くして二人が湯浴び塲から出て来て、私の左側にリーゼ、右側に千尋が座る。


「二人に話したい事があるからちょうど良いわ。アルシェさんが言っていたあの二人が私達に絡めない様になるすべだけど……」


 千尋とリーゼが真剣な面持ちで頷く。


「おそらく、遵守させるには此方にもそれなりのリスクが必要だと思うのよ」

「そうね」

「同じ重さの……ですよね」


 そう、千尋が言った通り賭けるモノが釣り合ってこそ。


「私達があの二人のモノになる事―― が条件でしょうね」


 正し、総司と私との決闘にあの二人が勝てれば―― が条件になる。


「構わないわ。私は私の全てをソージとシオンに賭けるわ」

「私もです」


 当然私は私の全てを総司に賭ける。


「それじゃあ、この後にでも冒険者組合に行きましょうか。遵守の書を作って貰いましょ」


 二人は戦に挑むかの様な表情で頷く。



 私達三人は、お昼を少し過ぎた頃に冒険者組合に出向き、シュリカに要件を告げると苦笑いで、アルシェさんと組合長ギルドマスターであるガーリッツさんに取り次いでくれた。


 シュリカの苦笑いが気になり、私達は互いの顔を見合せ首を傾げた。


「アルシェさんとガーリッツに会えば彼女の苦笑いの原因もわかるでしょ」

「そうですね」


 リーゼの意見に千尋も頷くけれど……。


(リーゼの言った事は最もではあるのだけれど……)


 あの苦笑はどう考えても、私達の恋人が原因の様な気がしてならない。


 シュリカが戻り私達を組合長室に通すと、黒革張りのソファーに座るアルシェさんとガーリッツさんが問題児を見るような微妙な笑みを見せる。

 そしてガチムチな筋肉美を持つ”漢の娘”(この単語を本人はかなり気に入っている)ベリーナが「ハァイ♪」なんて言葉の語尾に音符を飛ばし、手を振り迎えいれてくれる。


「お久しぶりね、シオンちゃん♪ さ、座って座って♪」


「はぁ……」


 私達はそんな曖昧な返事で応えて、四方を囲む様に置かれたソファーの空いている場所―― つまりアルシェさんやガーリッツさん、ベリーナが座って居ない場所に腰をおろした。


「コイツがなお前達に渡したい物があると言っていてな……」


 頭を押さえて疲れた様子で半ば投げ遣りに話を切り出したガーリッツさん。

 そのガーリッツさんを同情している―― 風を装うアルシェさんは、半ばこの状況を楽しんでいる。


「ウフ♪ 今朝早くにソージが訪ねてきてね私に遵守の書の制作を頼んで来たのよ」


 真面目な声音に変わり、それに伴い表情も真剣に変わっている。


「……」


 どういう事だと目線で尋ねると、苦々しそうにガーリッツさんが答えた。


「あんの小僧、先に手を打ちやがったんだよ。決闘の遵守の書の制作と条件の前に――」

「シオンちゃん、リーゼちゃん、チヒロちゃんを自分のモノだという証明書を作ったのよ」


 これよ―― と差し出された二枚の羊皮紙は――


「私の商売は知っているでしょ?」


 私達の前に差し出されたのは、一枚は口減らし等で子供を娼館の主に売り、娼館の主が買い取る時の誓約書で、もう一枚は身請け人と娼館の主との誓約書だ。


「つまり、お前達は自分自身をベリーナの《荒流留漢》に売り、ベリーナがお前達を買い、ソージの奴がお前達を落籍させる」


 予想外の成り行きに衝撃が走る。

 私達を落籍―― つまり総司が私達三人を身請けするという事であり、私達が想定していた前提が崩されたのだから。

 負ける気なんてしないけれど、遵守の書は《月宮亭》で話した通りで、ベリーナとのやり取りは商売になる。


 誓約書を改めて見てみれば、身請けの書には私達三人の名前と身請け人の総司の名前が書かれていて血判迄捺されている。

 そして売買の誓約書は空白で――


「私達が考えて決めろ―― という事ね」


 私がベリーナ、アルシェさんガーリッツさんを順に見ていくと三人は頷きで答えを返してきた。


「ソージはな最低な手段だと言っていたよ。ただ、遵守の書は書かれた文言によっては、お前達の意思を塗り替える代物だ。お前達は何かを想定していたのだろう? これは……フム、シオン、チヒロ、お前達の世界の婚姻届けとやらとでもとらえれば良いだろう」


 婚姻届けととらえれば―― なんて軽く言ってくれるアルシェさん。その意味を知っているリーゼも真っ赤になって俯く。


「そうね~ソージもそんな事を言ってたわね。ソージが勝手に書けば良いんじゃない? と言った時に、彼言ったのよ――

『身請けって、つまりは求婚だろ? それが正妻か愛妾かは知らないが、出逢いが娼館の中でってだけで、互いに想い合ったからこそ、そう言った約束が交わされるんだろう? だったら詩音達の意思を無視は出来ないさ――』

 ――なんて言ってたわね」


「「「!!」」」


 求婚―― その言葉にドキリとなり、徐々に心臓の鼓動がはやくなり、今や早鐘を打つように脈打ち、音まで大きくなった様に感じる。


「いや、実に痛快だったぞ? これでお前達が了承すれば、あの馬鹿者共は何をどうしようがお前達に触れられんし、そもそも近付けん。そもそも、奴等はアイツに負けたんだぞ?」


 ん? 今、アルシェさんは何て言った?


「アルシェさんは氷鏡達が総司に負けたって……」


 千尋とリーゼも何故! と前のめりになっている。


「私達の商談と誓約が先だからよ。さっきも言った通りよ。先手を打ったソージが勝ったのよ。まぁ、無自覚だったんだけど」


 無自覚? どういう事よ。


「ウフ♪ あの坊や達が決闘を受ける条件として出した条件は、ソージ抜きで貴女達と話をさせる事だったのよね。でもぉ、私とソージとのコ・レ・が・さ・き♪ 身請け金も貰ってるもの♪」


 総司に出し抜かれた形となった二人は、決闘で総司を打ち負かして私達を手に入れる―― と、宣言したという。

 それでどうするのん♪ と聞かれて私達は――


「書くわ」

「私も書くわ」

「書きます」


 羽ペンと羊皮紙を回し、私達は自分の名前を書いていき、最後に血判を捺して、ベリーナが名前と血判を記し誓約は成された。


「コレで貴女達は今日から私の《荒流留漢》の娘達の仲間入りよ♪」


 そう、私達は自分自身を売り――


「そして、貴女達は今日、身請けされるわ♪ 貴女達の想い人にね♪」


 アルシェさんが嘆息して、私達にハートが横向きに連なり、中心―― ハート型のバックルの部分に私達と総司の名前が刻まれた首輪が手渡される。


「ソージはチョーカーだと言っていたがな」


 モノは言いようね―― と私が言ったら、アルシェさんも同じ事を総司に言ったらしい。


「まあ、見た目通りの首輪よりも良いだろう?」


 それはそうだけど、ね。

 私達は受け取り、盟約の首輪を装着する。

  

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