130話 作戦1
この場に居る全員の視線が俺に集まる。
「総司、その作戦が此方の被害を最も少なく出来る方法だと私も思うわ」
詩音は俺の考えを知っている。
(師匠の家で精霊魔法を習っていた時に、二人で意見を出しあった精霊魔法の一つ)
「進軍する敵の大群のど真ん中に大穴を穿つ」
「進軍中で歩みを止められない敵の足下に大穴を穿つ役目は、土属性の魔法を扱える紗奈を中心とした魔法士や魔導士」
俺と詩音が有馬を見て暫しの時間が過ぎ――
「え!? あたしっ!」
――漸く自分が名指しされたこの状況を理解したのか、驚きの声を上げる有馬に俺と詩音はニッコリと優しい笑みを見せて頷いた。
そんな俺達にアースィナリアが慎重に聞いてくる。
「落とし穴ね……。だけど、そんなのは作戦とも言えないし、落ちるとしても穴を穿つ大地の上を往く相手と止まれない後続だけ、先を往く者や逸れる者には意味がない。精々一瞬だけ隊列を乱すくらいね」
アースィナリアの意見にセレナ、そして千尋と有馬、セフィーリア、ガーリッツにシュリカが頷き、怪訝な表情を見せる。
リーゼや師匠は真剣な面持ちで先を促してくる。
「ソージ、シオン、其だけであるまい?」
「その先―― 幾つもの工程が必要になるんでしょ?」
俺は肯定をして話を続ける。
「それで有馬、出来るか?」
これは彼女一人で考えて出さなければならない結論だ。奴等に引き摺られた答えなど出させてやらないし、出させるつもりもない。
「…………わかったけど……」
けど―― の先を言わせるつもりは無い。
「次にアーシェには水属性の精霊魔法で、その穴に水を張って貰う」
友好を示す為に改めて、アースィナリアを愛称で呼ぶ事にする。
「水攻め……ですか? やはりそれも一度きりの奇襲で、その後は――」
アースィナリア―― アーシェが妹のセフィーリアの言葉を手で制する。
「総司、私はその精霊魔法―― 魔法を知っているから良いけど、皆の疑問は解るけど、最後まで意見は無しにして欲しいわ。いいかしら?」
詩音が少しだけ表情を厳しくして声を冷たくして見せると、アーシェ達がコクコク、と頷く。
(……部屋の温度が下げたな)
「それじゃあ続けようか」
皆を見ると―― お願いします、と返事が返ってくる。
「では―― アーシェ達と並行して師匠には、土属性の精霊魔法で金属を生成してほしい」
師匠―― アルシェさんは有無、と頷いてくれる。
「有馬を含めた火属性を扱える者は、師匠が生成した金属を全力で熱して溶かして貰う。足りなければ、リュートにも加勢して貰うとしようか」
▽
(やっぱり……予感的中ね)
私は総司が採る作戦はこれしか無いと予想していた。
先ずは私達、冒険者と姫騎士であるアースィナリアが率いるフルーレ騎士隊が手を取り合って居る所を見せつけ、残る冒険者、魔法士と魔導士、そしてスティンカーリンの騎士と衛士達に最低限の活躍の場を用意するってところかしらね。
結局、総司は出来るだけ冒険者組合と騎士団との間に遺恨が残らないようにしようとしている。
(……そんなわけ無いわね)
そんな気持ちも少しは無くはないかも知れないけれど、きっと優先して考えているのはスティンカーリンに住む《月宮亭》のミリアとユウリカさん、シュリカの為で彼女達の後ろに居る彼女達の大切な家族や親友の為で、そこから広がるスティンカーリンの街だ。
(彼等が居るから必ず突っ掛かって来るわね)
総司の事を悪だ、と喚きながら剣を振りかざす氷鏡の姿が目に見える様で頭が痛くなる。
(いい加減、鬱陶しいわね。氷像にでもして魔石の輝きで照らして、スティンカーリンの新たな観光名所にしてあげようかしら?)
私はそんな事を考えながら総司の話を聞いていた。
▽
後でリュートに話を持って行こうと決めて、俺は話を続ける。
「溶かした金属を水の中に落とし入れ、水を急激に熱すると同時に穴を塞ぐ。これも土属性の魔法士達が頼りだ」
「そ、それだけ? それでどうなるの?」
アーシェが代表して問い掛けて来くる。
リーゼや師匠は研究者としての顔を覗かせ、セレナやセフィーリア、ガーリッツやシュリカは要領を得ない、といった顔をしているが――
(――さて、此方はどうだろうな?)
と、詩音と千尋、有馬の三人を窺って見れば――
「その作戦を選ぶと思ってたわ」
「総司君、それはっ!!」
「千羽、アンタは何を!!」
――三者三様の反応を見せた。
詩音は冷静に判断をしていて、千尋は驚き、有馬はその結果に対する反応を見せる。
「シオン、知っていたみたいだな。ソージの言った複合魔法―― 説明できるな?」
厳粛な声音で師匠が詩音に説明を求めた。
「わかりました……では、説明させていただきます。総司が立てた作戦―― 戦術は『水蒸気爆発』―― つまり、火山噴火を魔法学―― 私と総司は魔法と科学を合わせた魔法科学を用いて再現した、自然現象を敵の大群のど真ん中で引き起こして数を減らそう―― という作戦です」
俺の大雑把な説明を、詩音が解りやすく説明した。
「な……!? お前達の世界では、火山噴火の現象……原因が解明されているのか!?」
驚愕を顕にする師匠。
俺と詩音は顔を合わせ、説明し忘れていた事を思い出した。
何せ、少人数で使える様な魔法では無いし、俺と詩音、リーゼのパーティーでは不要だったし、師匠も初級から中級の精霊魔法で対処出来るだけの強さを持っているのだから、俺と詩音が忘れていたって仕方がないと思うんだが……。果たしてそれを素直に言って許されるだろうか?―― と、小声で詩音に聞いたところ彼女から返ってきたのは――
(許されないと思うわよ? お説教は嫌よ。ここは黙っておきましょう……)
いいわね?―― という結論を詩音はだした。
俺も流石に休憩無しの説教二時間コースは嫌だ。




