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必勝の聖眼の神殺しと戦女神  作者: 暁 白花
第2部 軌跡 6章 復興
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79話 朝練と朝焼けの出立

 青の瞬間(ブルーモーメント)―― と呼ばれる時間帯が朝と夕にある。

 早朝のその瞬間の空を眺めるのが好きな総司は暫くの間、空を眺めてから朝の剣術の鍛練を始めた。


 千羽天剣流の型を一つ一つ繰り出しながら、動作の確認をしてから、技を繋げて連撃に変えていく。

 それはまるで剣舞の様で、美しくも切なくも、それが決して見映えの良い技等ではない事を鍛練を見ている詩音は知っている。


 詩音も総司から教わった体術の型を模擬銃を両手にして行っていく。

 時折、カチ、カチと音がするのは詩音がトリガーを引く音。詩音が行っているのは銃操術。拳を撃ち出す代りに銃を向けて弾丸で相手を射ち斃す近接戦闘術。


 総司は足下に転がる小石を詩音に向かい蹴る。


 小石を蹴り込まれた詩音は瞬時に精霊力で作り出した弾丸でそれを射ち落とすと同時に、総司との間合いを詰めると、右足を軸に左足での回し蹴りを、目を見張る総司にお見舞いするが彼は少し身体を逸らす事でかわしてみせる。

 詩音はダメか、と舌打ちをしたくなる心境になるが――


「まだよっ!」


 身体を回転させた遠心力を生かし、総司のこめかみを手にした銃のグリップの底で殴りつけようとするが、総司に受け止められ、詩音は軸足を総司に蹴り払われる。詩音の身体が宙に浮きグルンッと横回転する。


 詩音は地面に叩き付けられる事は無かった。アイリシュティンクが詩音の身体を精霊力で包み込み、衝撃をやわらげたからだ。


 詩音は立ち上がると構えを取り直し、総司と向き合う。


「もう一度よ……」

 

 そう言った瞬間詩音は総司の姿を見失う。


「あ……!? ぐっ……」


 彼女が総司の姿をその瞳に映したのは腹部に衝撃が奔り、魔法障壁が火花を散らした時だった。

 くぐもった声を漏らす詩音。


 無拍子での総司の胴斬りが詩音を襲ったのだと、彼女が気付いた時、総司の瞳が「止める?」と問うているのを視た。


 詩音の姿が消える。

 それは、総司にとっては本日二度目の驚きだった。


 縮地――。


 だが、縮地の弱点は――。


「縮地は良いんだけれどね……」


 総司は一歩身体を引くと足だけを、ちょこんと出すと――


「きゃっ!」


 ――と言う可愛らしい声が聞こえた。


 縮地の弱点は直線的だと言う事だ。


 そこには詩音が地に手と膝をつき、悔しそうに総司を睨んでいる。

 総司はそんな彼女に苦笑で応える。


「今のは申し分の無い縮地だったよ」


「嬉しくないわよっ!」


「……」


「う、嬉しかったわよ! 本当はっ!! 漸く褒められる様な縮地が出来たんだから……」


 そしてその姿勢のまま二度目の縮地。


 総司の目に映るのは自身に撓りながら迫る詩音の美脚だ。


 詩音のキュッと細い足首を捕らえ、無防備な鳩尾きゅうびを掌底で撃つ。


 魔法障壁を抜けて衝撃が詩音を襲い、その背に抜けていく。

 詩音の背後から空気が破裂する。


「か……はっ」


 詩音が肺の中の空気を漏らす。


 一瞬意識が飛び、崩れ落ちる詩音は足払いを行う。


「!!」


 総司が驚き、バックステップで間合いをあける。


「や、やっと見れたわね。総司が驚く顔が……っう……」


 詩音が腹部を押さえ痛みを堪えてニッと笑む。


「ああ、暫く意識を落としたと思ったんだけどな。まさか足払いをやってくるなんてな」


「か、彼女に向かって、容赦無さすぎじゃないかしら?」


 そこから模擬戦闘―― 武技の確認と応酬が始まる。


 時間を設定していたスマホが鳴動して、総司と詩音は互いに礼をして、模擬戦闘を終える。


 セレナ達を連れて総司と詩音の模擬戦闘を観ていたアースィナリアの感嘆の声が、汗を拭いて一休みする総司と詩音のもとに届く。


「スゴいわ! 二人とも!!」


 総司と詩音に歩みよるアースィナリアに総司と詩音は首を傾げる。


「そうか?」


「そうかしら?」


 アースィナリア達の目には無駄が全く無い、相手を確実に仕留めるのに特化した技に見えた。

 冒険者の様な喧嘩殺法でも、王宮騎士の武技の様な型の美しさを競い、華麗であることを重んじる様な甘さが全く無い。

 それなのに二人の模擬戦は舞踏の様に妖しく美しかった。


「ええ」


「シオンさんには一度、本気で手合わせ願いたいですね」


「私もお願いしたいな!」


 セレナとソフィアが詩音に挑むと、アースィナリアも、「それじゃあ、わたしも挑みたいわね。フフフ」と詩音を見据える。


「ええ、いいわよ。私も本当の実力者と経験を積めるのは、願ってもない提案だわ」


 詩音も不敵な笑みを口許だけに浮かべる。


「ソージとか言ったな。俺が学び修めた【七星煌覇剣】とソージお前の【千羽天剣流】が何故似ているのか、似ているのなら、どちらの技が上なのか試したい」


 グレンが燃える瞳でソージの持つ《青藍》に《桜吹雪》の剣先をぶつける。

 それは”剣合わせ”と云われる決闘の申し込みの作法。


「……構わないが、ここでの為すべき事を成してからだ」


「ああ、わりぃな」


 総司もグルンの《桜吹雪》に《青藍》の剣先をぶつける。


「あっちは、あっちでまとまったわね」


「本当に即決闘にならなくて良かったわ」


 アースィナリアの安堵の声に詩音も安心する。


「それでアースィナリアは?」


「わたしは一度、ヴァイスに戻るわ。永く城を空ける訳にはいかないから。直ぐに戻るわ。だって二人の料理が食べたいもの。視察よ、視察」


 アースィナリアの理屈に物は言いようね、と詩音は呆れるもアースィナリアはフフと笑みをこぼす。


「それじゃあ後の事は我が副官にまかせるわ」


「はい。その任承りました」


 そこにゼルフィスが姿をみせる。


「アースィナリア様、帰還の準備が終わったぜ」


「ありがとう。それじゃあソージ、シオンまた逢いましょう。二人のお菓子楽しみにしてるわ」


 と、アースィナリアは朝焼けの光の中、ヴァイスに向け出立すると、その姿を光に溶かした。


 フリーデルトとステラには孤児院の中で別れを告げられていたのか、二人はアースィナリアが総司と詩音との別れの挨拶が終わるまで待ってから姿をあらわしたのだろう。


「ソージ様、シオン様、母さんが夕べの答えを伝えたいそうです」


「早く!」


 フリーデルトは頭を下げ、ステラは二人の背中を押して急かす。


「ん……わかったわ」


「デアルカ」


 総司と詩音、そしてセレナ達も会議室となった食堂へ向かった。

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