とある者の征伐記録
わたしは電車に飛びこんで死んだはずだった。
だが、気付けば見知らぬ装いの古い―― 中世ヨーロッパの装いをした人々に囲まれ、勇者召喚術に成功したと歓喜に湧いていた。
皇帝と呼ばれる中年と私を召喚たという老人が言うには私の前に喚ばれた勇者が魔神を斃したあと反旗を翻して、精霊を使い世の人々を恐怖に陥れ、支配に従わぬ者を虐殺し、国を支配しているという。
魔王に堕ちた勇者を滅して欲しいと懇願してきた。
元の世界に、人々に未練など無かったわたしは、その願いを嬉々として受け入れた。
勇者であるわたしの補佐として皇女がついてくれるというのも、わたしの決断の後押しとなった。
元の世界――狭い世界ではあるが認められず、興味も持たれなかったわたしは、信頼に舞い上がっていた。
勧善懲悪。自己の肯定。存在理由を手にしたわたしは何も見えていなかった。
全ては瞞しだった。そうと気付いた時には最早後戻りも出来なくなり、わたしは反精霊、反精霊種族主義の旗頭となっていた。
わたしは勇者として罪のない者たちを殺し過ぎていた。
聖剣にはその者たちの血に濡れて、嘆き怨みによって呪われた魔剣と成り、それはわたしをも蝕んでいた。
反逆の勇者は精霊と精霊種族の庇護者となり、賛同者の人間も存在し、わたしたちは帝国も含め〈清浄なる青き世界〉という侵略者となっていた。
大地に多くの血が流れた。国は焼かれ、空は荒れた。
あれは幾つめの精霊種族の国を平らげようとした時であったか。私は運命の出逢いを果たした。




