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44.かわいいあたし、最終決戦に挑む5



「無駄だ小娘ェ! 貴様は俺には届かんよ!」


 地を蹴って跳躍したあたしがお館様と交錯する。

 お館様の表皮に鋭くい棘が突き出てきて迎え撃とうとするが、あたしは構わずそのまま直進をつづけた。


「なに?」


 驚愕に目を見開けるお館様を尻目に、鋭い棘があたしの胸を易々と貫いた。

 突き刺さった棘に手を添える。


「捕まえた」

「小娘ェ!」


 棘が強化外骨格を貫通したが、それはあたしがウツボに近づいたことと同義。

 どうせ死ぬなら道ずれだ。

 あたしは二本の金属ハサミをウツボの胴体に突き立てた。

 ぬるっとした表皮を引き裂いて深々と切先が沈んでいく。


「小娘がァァァ!」

「届いたぜ、あたしのハサミ」


 あたしを振り落そうとウツボがのたうち回るが残念だ。

 あたしの胸には棘が刺さっている。

 そう簡単には振り落されない。

 視界の端に血の色を捉えながら、何度も何度も金属ハサミを振り落す。


 ザシュ、ザシュ、ザシュ。


 そしてあたしの体にも何本もの棘が突き刺さってくる。


 ザシュ、ザシュ、ザシュ。


 明らかにあたしのほうが分が悪い。


「ただでは死なさんぞ小娘。苦しんで苦しんで苦しみ抜け」

「あんたもね、ウツボ野郎」

「なに?」


 あたしとウツボの頭上に強大な氷の槍が出現した。

 それでもあたしは力を休めない。

 氷の槍にありったけの力を注ぎこんでさらに巨大化させていく。

 それはもう槍の形を成しておらず、隕石といったほうが正しい。


「アイスメテオだ」

「そんなことをしたら、お前まで潰れ死ぬぞ小娘」

「構わない。一緒に潰れてあの世へ行こう。仲良くね」


 数十トンものアイスメテオがゆっくりと降下し始めた。

 制御するのが大変だが、あたしに向かって加速度をつけた。

 このまま行けば氷塊の下敷きになって二匹とも圧死するだろう。


「チィ……!」


 ウツボの側部から四本の腕が生えてアイスメテオを受け止める。

 ずしん、とウツボの体が沈み込んだ。

 力負けしてだんだんと床に近づいていくのを奴の棘の上で傍観する。

 ウツボは氷塊に鋭い牙を突き立てて噛み砕こうとする。

 奴の剛顎はあたしの予想を越えて凄まじく、氷塊の至る所に亀裂を走らせた。

 顎に膨大な力を込めたまま、ニィと口の端を歪めて流し目を送ってくる。


 あたしは言った。


「お館様。王手だ」


 コイツは何を言っているんだ、という不可思議な表情になった。


「あんたは重大なことを三つ忘れている」


 ハサミをさらに突き立ててつづける。


「一つは、あたしたちには参謀のベニヒメがいるってこと。

 もう一つは、さっきから床のドリル穴から気泡が立ち昇ってるってこと。

 さらにもう一つは、おめめのでかい兄弟がずっと見当たらないってこと」


 とうとう顎が閉じられて、巨大な氷塊が粉々に砕け散らされた。

 水中にきらきらと輝く破片が漂っていく。


 あたしは顎を突き上げて笑った。

 ウツボの表情が苦々しく変わる。


「すべてはこの瞬間のための布石だ。時間稼ぎに付き合ってくれてどうもありがとう」

「小娘なにを……」

「彼は速いぜ。名前を覚えておきな。奴の名前はチワワ・ザ・デストロイだ!」

「きゅぴいいいいい!」


 床を突き破ってチワワが上昇してくる。


 骨鎧を装着。

 金属化完了。

 切味、発動。


 サザ衛門の置き土産。


 乱破雅天流の奥義が一。

 秘伝。

 滝昇り。


「小僧がああああああああああああ!」

「きゅぴいいいいいいいいいいいい!」


 光弾となったチワワが彗星のように駆け上がり、閃光にも似た一閃を放った。

 直後、ウツボの胴体に朱線が走って真っ二つに斬り裂かれる。


「ぐうううううぅぅぅうううううう!」


 紅い眼をぎょろつかせながらウツボが猛る。

 すぐさまあたしは胸の棘を引き抜いてその場から避難した。

 遅れてドリル穴から暗黒の水塊が打ち上がってきて、ウツボの巨大な体躯にぶち当たって纏わりついた。暗黒の水塊の中にはいくつもの気泡が漂っている。


「何だァこれはァァァァ!」

「水深2000メートルだ」


 あたしはハサミでチョキンと数字の2を表す。


「水深2000メートルから石油を引っ張ってきた。【水流】操作でね。そしてあんたに粘ついている石油の中には、これでもかってくらいの【空気】が含まれている」

「小娘てめえ、おいまさか――」



「その技の名前はボム・ザ・チワワ。てめえは死ぬ」



 そう言ってあたしは、ハサミで首を掻っ切る真似をする。

 チワワのハサミの先から【火花】が迸った。


「小娘風情がァァァアアア!」

「あんたに勝利の女神は微笑まないよ。あんたの目の前にいるのが勝利の女神だからね」

「クソがァァァァァアアア!」


 ウツボがじたばたと暴れ回るが、尻尾を斬られているので、暗黒の水塊から抜け出せない。

 何度も抜け出そうと試みるが、水流操作で絡みついて意味がなかった。


「あたしと同じ時代に生まれたことを後悔するんだな、ウツボ野郎」

「小娘ェ! あの世でてめえのことを呪ってやるッ! 地獄に堕ちろマネビガウナッ!」

「あたしの激情は爆発する。大海の憤怒に焼かれて消えな」


 チワワのハサミが分離して、ロケットのように発射された。

 真っ赤な火花を撒き散らしながら。


「この海はあたしのもんだ」


 それからあたしは踵を返して、喉を引き絞って叫んだ。


「退却だ! ゴーゴーゴーゴー!」


 胸にベニヒメを抱いたあたしは五名のヤドカリたちに引っ張られる。


「もっと速くもっと速く! 行け行け! ゴーゴーゴーゴー!」


 兄弟たちもあたしを引っ張る手に加わった。


 あたしたちが玉座の間を出るや否や、海底が膨大な閃光に埋め尽くされた。


 海を砕かんばかりの轟音が響き渡って、途轍もない衝撃波に、あたしたちは全員が彼方まで吹き飛ばされる。とんでもない水圧が襲いかかってくる。黒い岩盤にぶち当たってあたしたちは急停止し、後方を振り仰げば彼方にウツボの城の姿がはっきりと見えた。


 城が、崩壊していた。


 城の周囲には海水が一滴もなかった。

 超質量の水塊が、水蒸気爆発で跡形もなく消し飛んだのだ。

 天から降り注ぐ太陽の光が真っ直ぐ差し込んで、ひどく美しい光景に見えた。

 やがて両サイドから海水の壁が押し寄せてきて、城とも言えない城が津波に呑み込まれていく。


「勝ったんだ……」


 誰かがぽつりと呟いた。


「勝ったんだ!」


 今度は確信を帯びた声になっていた。

 やがてそこら中に吹き飛ばされたヤドカリたちが、天に向かって拳を突き上げ、声高々に勝鬨を上げ始めた。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 そのとき、あたしの頭部にこてんと何かが落下してきた。

 ウツボの香ばしい肉片だった。

 あたしはそれを掴んで口の中に放り込む。


「うん。脂の乗ったいいウツボだ」


 てれてれてってー。

 あたしはレベルアップする。





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