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36.かわいいあたし、ウツボと対決する3

2回目



「なんだァ!? 何が起こってやがるんだおぉん!?」


 突然のベニヒメの来訪にウツボは混乱しきりになる。

 眼を紅く光らせたまま憤怒の形相でのた打ち回った。

 奴の腹にはイソギンチャクの毒針が三本突き刺さっている。


 あたしはハサミを再生して脚の底を踏みつけてもう一度立ち上がった。


 一瞬の隙をついてロケットジャンプをしてウツボの鼻先で【火花】を炸裂させる。

 焼け付くような閃光が迸って海が光で埋め尽くされた。


「ぐうう! 目があ! 目がああ!」


 腕で目蓋を押さえるウツボがその場で暴れ回る。

 奴の紅き眼は焼け死んだ。


 あたしの全身が膨大な冷気を感じ取って思わず天井を振り仰ぐと、開けられた大穴から鋭く巨大な氷の槍が二本、ウツボの背中に照準を合わせて発射されていた。


 キュピ之介とチワワの仕業に違いない。

 ウツボはなおも眼を押さえて我を忘れている。


 溜めに溜めた氷の槍が高速で水中を斬り裂き、

 ウツボの背中を貫通して床へと深く深く突き刺さる。


 串刺しになったウツボは腹の底を床に密着させて固く縫いつけられた。


「クソがあああああああ!」


 筋肉を隆起させて抜け出そうと暴れ回るが氷の槍の拘束は解けない。


「残念だったなウツボ野郎」


 形勢逆転だ。

 床に押さえつけられるのはあたしじゃなくてあんただ。


「それはどうかなァ! 俺様の牙には毒が仕込んであるんだぜい!? てめえは今ごろ、俺様の毒で全身が麻痺してるところだァ! 安心して食われな女ァ!」

「あたしには効かねえ!」

「なにィ!?」


 この瞬間のために毒耐性を上げてきたんだ。


「行きなさいマーキュリー」


 ベニヒメに背中を押される。


 あたしは首を振りまくって全身を揺らして喉が焼け死ぬほど雄叫びをあげる。


「エルシャラああああああああああああああああああああああああああああ!」


 床を蹴って駆け出す。


「腹に力を入れて目に焼きつけろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 腕を後方に引きウツボの眼前へ。


「てめえの姉貴はウツボにすら勝つってことをなああああああああああああ!」


 助走をつけて、脚を踏みしめ、腰の捻りを利かし、今――


「エルシャラてめえは弱くねえええええええええええええええええええええ!」


 ウツボの焦りまくる顔面へとスマッシュパンチを叩き込んだ。


 ズパァァン!


 拳が衝突して全身に電気のような衝撃が走る。


 脚の底から頭の天辺までびりびりと痺れて、脳髄にがんがんと金槌で横殴りされるような感覚が生まれた。


 見るとあたしの甲殻はところどころが弾け飛んでおり、さらにその下のウツボは白目を剥いて完全に沈黙の状態に陥っていた。


「敵将、討ち取ったりいッ!」


 エルシャラはただただ頭を垂れて額を床に擦りつける。


「ありがとう……ありがとう姐御……ありがとう……」


「忘れるな……お前は最高の弟だ…………」


 力が抜けてその場に倒れ込むあたしをベニヒメがやさしく受け止めてくれる。

 ふかふかのベッドに倒れ込んだような感覚がした。


「まったく。無茶して」


 無茶くらいするさ。

 身内を馬鹿にされたんだぜ。

 ここで暴れなきゃ女が廃る。


 だけど今は、少しだけ寝かせてくれ。

 すごく、眠たいんだ。




     ◇




 エルシャラは重傷を負ったが自己再生を使い切って復活した。

 だがもう再生はできない。

 あと一回でも致命傷を負えばエルシャラは死ぬ。

 あたしは二回の再生を使い、キュピ之介とチワワはまだ一回も使っていない。

 合計で言えば予定以上に自己再生を浪費している。

 この戦はまだ始まったばかりだってのに。

 どこかで休息を取る必要がありそうだ。

 カニを倒したあとなら、一日くらい時間が空くだろう。




 ウツボの肉に食らいつきながらあたしはベニヒメに尋ねる。


「よう。どうしてこんなところに来てるんだ?」

「いや、あのね」

「うん」

「信じてもらえないと思うんだけどね」

「うん」

「わたしがいつもどおり岩にへばりついて、優雅に詩吟を奏でていたのよ。わたしは日々が充実しているから、あなたたちと違って暇がないほどの趣味があるの。でね、そんなとき、東方の彼方から信じ難いほどの光が侵食してきたのよ。凄まじい光が」

「はあ? その光を辿ったらここに来たっていうのか?」

「本当なんだから! わたし、嘘は言わないもの!」


 あたしはニヤけてベニヒメを見つめる。


「あんた、めちゃくちゃ嘘が下手だな。どこにそんな光が生まれるんだよ?」

「本当だもの!」

「ここは海だぜ? 遠方から届くほど、強烈な光があるとは思えないがね」

「本当だってば!」

「もういいよベニヒメ。正直になれよ。本当は最初からあたしたちの後をつけてきてたんだろう? 本当は淋しくて淋しくて仕方がなかったんだろう?」

「ばっ!? ふざけるのも大概にしなさいよ!?」

「じゃないとここに来ていることに説明がつかないぜ。あたしはあんたに行き先を教えてなかったし、ここに来たこと自体が偶然の産物だったんだ。それがお前、ベニヒメも偶然この城を通りかかるって、それは上手すぎる話だとは思わんかね?」


 ウツボを食らいながら兄弟たちも追随する。


「ワシもそう思うきゅぴー」

「ベニヒメ淋しがり屋きゅぴー」

「嘘が下手きゅぴー」


 触手を一際長く伸ばしてベニヒメが狼狽える。


「だ、だから光が……!」

「認めろよ」


 あたしは言う。


「何をよ!?」

「淋しくてストーキングしてきましたってな」

「だから違うってば! 本当に本当にわたしは光に包まれたの! それで気になったから光の方向に辿ってみたの! そしたら何故かそこにマーキュリーがいたの!」


 必死すぎて説得力の欠片もない。

 笑える。


「まあなんにせよありがとうなベニヒメ」

「なにが!?」

「あんたがストーカーじゃなかったら、今ごろあたしは死んでた。助かったよ」

「なにがッ!?」


 ベニヒメは淋しがり屋で嘘が下手で勝気な娘だけど最高の相棒だ。

 それだけわかっていれば問題ない。


 でも淋しがり屋さんだから、これからはもう少しだけ優しくしてやらないとね。

 へそが曲がったりでもしたら拗ねちまうかもしれない。

 めんどくさい女のことはあたしが一番よく知っている。


 なぜならばあたしがめんどくさい女だからだ!


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