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34.かわいいあたし、ウツボと対決する1

2回目



 エルシャラが二本のハサミをクロスさせる。


「乱破雅天流鋏術、奥義の三。〈清流〉」


 ぼそりと呟いたエルシャラがウツボのもとまで直進する。

 ウツボもまた、ヤドカリを迎え撃たんと獰猛に笑ってみせる。


「いいぜい? 来なァ?」


 両者が交錯するとき、エルシャラのクロスさせていたハサミが腕一杯に広げられた。

 直後、両者から血がしぶいた。


 エルシャラは肩口を噛み千切られていたし、ウツボの体躯には切り傷がついていた。


 だがエルシャラは止まらない。

 振り返り様に捻りを利かせた斬撃が飛ぶ。


「連。奥義の二。〈濁流〉」


 ウツボの目が限界まで開かれた。

 エルシャラの連撃に慌てて牙で受け止めるが、ハサミで押し切られて根元から砕けてしまう。


「なにィ!?」


 牙の破片が水中に揺られてゆっくりと落下する。

 そのとき、落下する破片に混じって妖刀の煌めきが滑り上がっていった。


「連。奥義の一。秘伝。〈滝昇り〉」

「ぐ、ぐああああああ!?」


 ウツボが狼狽えた叫びを発し、仰け反り、ニタリと笑う。


「――なーんてなァ?」

「きゅぴっ!?」


 砕けたはずの牙が新しく生え変わっている。

 いつの間に――とあたしが思ったときにはもう遅く、斬り上げたエルシャラのハサミはまたもやウツボの鋭い牙で受け止められ、お返しとばかりに砕け散らされた。


「ぎゅびいい!」


 エルシャラの両腕からハサミが消失した。

 出ているのは緑色の血液である。

 ウツボは何度か口の中をもごもごと動かしていたが、そのあとにぺっとハサミの残骸を吐き出した。城の床にパズルピースのようなハサミの欠片が降り積もる。


「惜しかったなァ、子分ヤドカリィ……! ヒャッハッハッハー!」


 高笑いをするウツボが生やした腕でエルシャラを握り締める。


「ぎゅ、び……っ」

「エルシャラっ! おいやめろウツボ野郎っ! 放しやがれっ!」


 ウツボの手の中でメキメキと甲殻の割れる音が聞こえる。

 エルシャラはぐてんと頭を寝かせる。


「エルシャラッ!」


 あたしの叫びも虚しく、ウツボに投げ捨てられたエルシャラは城壁に叩きつけられて地に伏せる。慌てて駆け寄って様子を見てみるがエルシャラの反応がない。


 キュピ之介もチワワも必死でエルシャラの頬を打つ。


「おいエルシャラ! 冗談はよせ! エルシャラ! エルシャラッ!」

「ぎゅ、ぎゅぅ……」

「エルシャラ!? 気がついたかエルシャラ!?」


 あたしの腕に抱かれるエルシャラは苦悶の吐息を漏らして顔をしかめた。


「あ、姐御……ごめん……きゅぴ……」


「なにを……」


「ワシ……姐御の役に……何も立てない……」


「いいや違うぜエルシャラ……。お前はいつもみんなの面倒を見てくれて、馬鹿なあたしには気がつかないことにも気がついてくれて、決して役に立ってないわけじゃねえんだ……。お前はお前で、すげえ奴なんだよエルシャラ……」


「ワシ……少しでいいから……役に立ちたかった……」


「立ってるぜ。立ってるに決まってるだろ」


「ワシ……弱いから……少しでも……強く……なりたかったんだ……」


「弱くねえよ。お前ぜんぜん弱くねえよ」


「だから……弟子入りして……強くなろうと……」


「うん。わかってるよ。言わなくてもちゃんとわかってる」


「姐御……ワシ……ちょっとは強く……なれたかな……?」


「ああ。お前は強くなった。決して弱くなんかねえ」



「――弱えさァ!」



 広間の中央からウツボの粘ついた声が聞こえる。


「なんだと?」


 あたしは瞳に怒りの炎を宿して振り返る。


「弱いと言ったんだ俺様はよお。ヤドカリなんざゴミクズな生き物じゃねえか。クソほどの価値もねえぜい? 俺様たちに利用されて、一生ご奉仕していればよかったんだ。どこのどいつが秘密に気づいたかは知らねえがよお、何も知らずに騙されて過ごしていればよかったんだ。俺様たちに尽くしてよお! ヒャッハッハッハー!」


 あたしは静かに言う。


「訂正しろ」

「アァン?」

「エルシャラが弱えってことを訂正しろ」

「嫌だねい」

「村のヤドカリたちがゴミクズだってことを訂正しろ」

「嫌だねい」

「訂正しろォォォ!」


 地面を蹴ってあたしは弾け飛んだ。


 ウツボの顔面にスマッシュパンチをぶち込もうと振り被るが、それよりも先にウツボの腕が飛んできた。ハエ叩きのように薙ぎ払われてあたしは城の壁に激突する。


 口から緑色の血が零れるのを飛びかけの意識で眺める。

 視界が暗く塗りつぶされる。


 エルシャラ……。

 お前は弱くねえ……。


 あたしが守ってやらねえとって、いつも気を張っていたが、気がつけば守られていたのはあたしのほうだった。あたしはいつもエルシャラの気配りに救われてたんだ。お前の優しい心遣いで何度も何度も助けられた。お前がいたからあたしは兄弟を任せられたし、お前がいたから後方は安心だった。だからあたしは無鉄砲に突っ込んでいけた。


 お前はすげえ奴だよエルシャラ。

 胸を張りな。

 卑屈になんな。

 誰かがきっとお前を見ているってことを知るべきなんだ。

 お前の頑張りを見ている奴が少なくともここにいるってな。


 お前は孤独じゃねえんだ。

 あたしたちがいる。

 負い目を感じる必要はねえ。

 上を向いて生きろエルシャラ。


 あたしは血を吐きつつ立ち上がる。


「見ろエルシャラ! その目であたしの姿を焼きつけろ! てめえの姉ちゃんは強えんだぜ? その姉ちゃんが認めるお前も強えんだ! わかったかァ――――――っ!」


 あたしは天を仰いで吠える。


「姐御……っ」


 エルシャラは顔をくしゃくしゃにさせて咽び泣いた。


 あたしは鼻頭に皺を寄せてウツボと相対する。


 骨ドリル、発現。

 特質【回転】、発動。


「てめえはあたしがぶっ倒す。覚悟しなウツボ野郎」

「ヒャハ! やはりいい女だぜてめえはよお……!」




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