27.かわいいあたし、ウツボキャッスルに侵入する
2回目
城の中は通路が多くてどこがどこだかわからない。
そして召使い的なカニたちも溢れるほどいた。
どこにもかしこにもいて気を抜いたらすぐにでも見つかってしまいそうだ。
城壁の色が白色だったからサンゴの特質を使ってなんとか身を隠しているという態である。ステルス。忍術。なんというクールビューティー。閃光のヤドカリという異名がついても不思議じゃないね。閃光のヤドカリマーキュリー。まあ実際に光るんだがね。
身に沁みるヒノキ風呂のような優しい光。
それがヤドカリハロウィン。
壁に擬態しているあたしたちの目の前をカニの召使いが通り過ぎていく。
談笑しながら歩いているのでまったくあたしたちに気づいていない。
体はぴくりとも動かさず目線だけで召使いの通り過ぎていく様を見届ける。
「問題ない。任務を続行する」
通路から通路へと八つの脚を蠢かせてかさかさかさと小走りする。
通路を渡りきると壁に背を預けて刑事のようになる。
刑事。
カッコイイね刑事。
好きなんだあたし。警察小説。新宿鮫。
刑事のようにちらりと顔を覗かせて周囲を確認。
誰もいない。
ハサミをぐるんぐるん回しながら小声でささやく。
「ゴーゴーゴーゴー」
兄弟たちがかさかさかさと先行し、誰もいないことを確認して「問題なし。カモン」の合図を送ってくる。
オーケイ。
あたしも兄弟の合図に追随して通路を駆け抜ける。
カニは見当たらない。
縦にも横にも大きい通路を選択して進んできたがどうやらここが当たりだったようだ。
目の前にはやたらとでかい扉があって、無駄に豪華な装飾が施してあって、あたしはピコンとここが王座の間だと判断する。
これだけ大きくて豪華で見栄を張っている扉は王座の間以外に考えられない。
あたしたちが王座の間に飛び込むかどうかで迷っていると、部屋の中からウツボたちの会話が聞こえてくる。
あたしはそっと扉に隙間を開けて様子を窺う。
例のウツボ野郎。
その目の前の壇上にいる奴は、ウツボ野郎よりも一際大きい竜みたいなウツボ野郎だった。おそらくあいつがウツボ野郎の父親で、この城の主、ポポポン村のお館様なんだろう。
側近には一匹だけカニがいた。
召使いのカニのように赤くはなく、漆黒の甲殻をその身に纏っている。
きっと召使いの上位種で、お館様の右腕に違いない。
「おい親父ィ、聞いてくれよぉ! ヒャハ! あの腐った村によお、今日もムカつく女がいてよお、親父が何とか懲らしめてくれよお、ヒャハヒャハ!」
「ならばここにつれてこい。俺が直々に成敗してくれる」
「ヒャハ……! さすが親父だぜ……俺様の粘液の漏出が止められねえ……!」
黒カニがハサミを口に当てて粘ついた笑い声を漏らした。
「ぬふふふ。それはあまり得策ではありませぬぞ、お館様。騒ぎを起こして村人から反感を買ってしまえば、〈海の結晶〉の生産量が落ちてしまわれます。せっかく我々で気触れの魔物を用意して、村を守る振りをしているのに、ここで騒ぎを起こしてしまえば水の泡にございまする。ぬふふふふ……」
気触れの魔物と海神がグルだと?
あたしは怒りで爆発しそうになる。
体の奥底から溶岩が噴き出しそうになる。
ふざけんじゃねえ腐れ野郎ども!
ポポポン村のヤドカリたちは本当に本当にお館様に感謝をして畑で〈海の結晶〉を栽培しているんだ。栽培するのが難しいとされる〈海の結晶〉を、睡眠時間を削ってまで気を遣って育てているんだ。大部分のヤドカリたちは心の底からお館様を尊敬している。尊敬しているからこそどんなに疲れても溌剌として労働に従事しているんだ。
笑顔が絶えねえ。
眩しい笑顔が絶えていねえんだ。
村から出たくないという理由じゃない。
お館様に報いたいという気持ちから働いているんだ。
あたしからしてみれば洗脳に近いことではあるが、それでもヤドカリたちは幸せそうだったし、やりがいに満ち溢れていたからあたしからは何も言わなかった。
でもお館様はそのヤドカリたちの純粋な気持ちを踏みにじった。
自作自演で民衆の穢れなき心を利用した。
それがあたしには許せない。
絶対に絶対に許せない。
「あ、姐御……」
キュピ之介が声をかけてくる。
「ポポポン村に帰るぞ」
「きゅぴ?」
「皆にこのことを知らせる。革命の準備だ」
あたしはあたしの意志に炎を灯す。
誰にもあたしの中の剣を折ることはできない。
未来の支配者を怒らせたことを後悔させてやる。
海の中で一番怖いのは海神じゃねえ。
ヤドカリだ!




