26.かわいいあたし、忍者になる
村中の〈海の結晶〉を回収し終わったのかウツボは大勢のカニを引き連れてポポポン村を後にした。「ブンブンブブブン!」という唸り声が前方から聞こえてくる。バイクかな?
「ようし兄弟。奴の後をつけるぜ。あたしたちは忍者になる」
村を出てワカメの森に隠れて尾行する。
隠密・擬態・尾行。
あたしの視線は先ほどからウツボと無数のカニに向けられている。カニは大量の〈海の結晶〉を藻袋に入れてウツボに付き従っている形で、ウツボが何か阿呆なことを言うたびに大仰な相づちを打って「さすがですウツボ様」と褒めそやす。
何が「さすがです」だ。
あいつは「俺様の表皮には粘膜があるんだぜい? 岩場に上がってヘッドスライディングをするとシューティングスターだぜい? 俺様は天下無敵のローションスライダーかよ!ってな? ヒャハ、ヒャハハ! ウツボだけに!」とか訳のわからないことを言って胸を張る。「ウツボだけに!」の意味がわからねえ。どこにオチがついてるんだよ。
はん。取り巻きに持ち上げさせるとはいいご身分だ。
兄弟たちに持ち上げさせるあたしとなんら変わりない。
「!」
あたしがぶつくさ言いながら尾行していると突然ウツボ野郎がくるっと顔を向けてくる。
「チワワ馬鹿! それサンゴ!」
「きゅぴぴ!?」
チワワが焦りまくってワカメの特質ではなくサンゴの特質を発動させて白くなってやがった。エルシャラにしばかれてすぐに緑色に変わったがかなり致命的だ。
ヤバイ、バレる。
あたしの身体に緊張が走る。
ピキン!
だがウツボ野郎は片眉に皺を寄せて周囲にぎょろりと視線を彷徨わせてしゃくれた顎をカポカポ鳴らすとまた前を向いて泳ぎ始めた。
「気のせいだったぜい。あのヤドカリ女のにおいがしたと思ったんだがな」
……においを覚えられてやがる。
少し時間を置いて再度尾行を開始すると何やらウツボの口から歌が聞こえてきた。
「ヒミ、ヒミ、ヒミ、ヒミ、ヒミツのプロポーション~♪ ヤドカリプロモーション~♪」
横ではカニが「ふわっ、ふわっ♪」と合の手を入れる。
あたしは自分の顔を覆った。
どうしてあたしはこんな奴の後をつけているのだろう。
チワワも真似して「ひみ、ひみ、ひみ、ひみ」と歌い出したがすぐにエルシャラが黙らせる。おうちで好きなだけ歌わせてやるから黙ってなチワワ・ザ・デストロイ。
ウツボたちが今度はサンゴの樹海を泳ぐ。
サンゴに擬態したあたしたちはせっかくなのでサンゴの枝をコリコリと食べながら追跡する。
するとまたウツボがくるっと振り向くから気が休まらない。
片眉の筋肉を岩のように盛り上がらせるウツボは眼球をぎょろぎょろと動かして鼻を鳴らす。くんくんくんくん。靴下を前にしたイベリコ豚のようにくんくんくんくん。
「やはりあの女のにおいがする」
「発言権を」
赤ガ二が前進して頭を垂れる。
「いいぜい、言ってみな」
「もしかしたら、それは恋かと」
ボン!とウツボの顔が赤くなる。
「ば、ば、馬鹿言ってんじゃねえぜい? 俺様がヤドカリに恋をするわけねいだろう?」
うるせえよ。
さっさと帰宅しろ。
そのときあたしたちの頭上に大きな影が降りかかってきた。
「ふえ?」
なんとなしに見上げてあたしは戦慄する。
影の正体は間違いなく気触れのクリオネで、あたしたちの頭上を物凄い速度で通り過ぎていく。あたしは心のどこかで「あーあ、あいつもう終わったな。安らかに眠れウツボ」と思う。ご愁傷様。
だがあたしの予想とは裏腹に気触れのクリオネはウツボの真横に到達すると甘えるように身をよじった。ウツボもウツボでクリオネを見上げたあと労うような声をかける。
「おぉうお前かー。あまり無理すんじゃねいぜい?」
その一言であたしは頭がパンクしそうになる。
サザ衛門の話によれば村の外には気触れの魔物がうじゃうじゃといて、海神に送られた統治者が村を守ってくださっているから無事なのだと聞いた。聞き間違いはない。たしかにそういう話だった。ではこれは一体どういうことなんだ?
どうして統治者側と気触れの魔物が飼い主とペットみたいな間柄になっているんだ?
あたしたちは得体の知れない恐怖を抱いた。
押し黙ったまま尾行をつづける。
海底に聞こえる音は、サンゴをへし折るポキポキという音と咀嚼するコリコリという音のみだった。
やがて目の前には西洋風の巨大なお城が現れる。
ウツボキャッスル。
ウツボたちが入城して数分後、あたしたちも城の中へ忍び込んだ。
ヤドカリクエストⅦ 海底の戦士たち。
【変色・緑Lv4】
【変色・白Lv10】←UP
【変色・桃Lv10】←UP
【自己再生Lv2】
【銀槍Lv2】
【伸縮Lv1】
【吐墨Lv1】
【速拳Lv1】
【骨鎧Lv10】←UP
【毒耐性Lv2】
【光源Lv2】




