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15.かわいいあたし、スマッシュパンチを覚える

 3回目



 シャコの殻を剥いてぷりぷりの身を食べた。

 ほの甘くて美味しい。

 すると当然あたしたちの中に例の電波が送られて新たな能力が芽生える。


 さあて、シャコの特質を試してみよう。


 そう思ったときだった。


 あたしの真横からドゴォン!という凄まじい音が轟いてあたしはぎょっとする。

 敵か?

 即座に顔を向けて状況を確認する。


 そこには顔を青くして変な笑みを浮かべているキュピ之介と粉々に砕け散ったベース基地の姿がある。大きな岩だったものが粉砕されて砂地にゴロゴロと降り積もっている。


「なにがあった!?」


 あたしは聞く。

 キュピ之介がもじもじしてハサミ同士を擦り合わせる。


「い、いや、あのね……。ワシがシャコの特質を試してみようと思ってね、それでこの岩を軽く殴ってみるつもりだったきゅぴよ……。ほんときゅぴよ? それがなんか、こうなったきゅぴ……」

「――は?」

「いや、だから、ワシが殴ったら岩蔵がぶっ壊れたきゅぴ……」

「――え?」

「ご、ごめんきゅぴ……」


 ちょっと待ってくれ。

 あたしにシンキングタイムをくれ。


 確かにあたしはシャコのスマッシュパンチを身に浴びてその威力の絶大さは身に沁みている。だけど岩を砕くほどのものだったとは思いもしなかった。

 マジかよ。

 やべー。

 スマッシュパンチやべー。


 そう言えばあたしがパンチを食らったとき、体が吹き飛ぶということはなくて、殴られた部位が跡形もなく消滅していた。パンチを食らうというよりパンチで抉れるという感じだった。そう考えればキュピ之介が岩を砕いたとしても不思議じゃない。……のか?


 いやいやいや。

 おかしいだろ。

 どんだけだよ。


 あたしたちは【銀槍】の特質ですら舞い上がっていたのに、【スマッシュパンチ】の特質を手に入れてしまったらこの先一体どうなってしまうんだ。手に入れてしまったらというか、もはや手に入れてしまっているのだけど、なんという強烈な一撃なのだ。わお。


 舞い上がるというよりもあまりの強大さに物怖じするというのが正直なところだ。


 というか【スマッシュパンチ】は特質名としてはふさわしくないしあたしの感性にそぐわないし無駄に文字数が多いので【速拳】とでも名付けよう。【速拳】。

 特質名が【速拳】で、必殺技名が【スマッシュパンチ】だ。

 うん。

 これならあたしの感性にばっちり合う。モーマンタイ。


「キュピ之介、どうするきゅぴ。姐御が怒ってるきゅぴよ」

「ご、ごめんきゅぴ……」

「ワシ、怖い……」


 あたしは微笑んでやる。


「べつに怒ってねえよ。考え事をしてただけだ」

「でも基地が……!」

「お引越ししような」

「姐御……!」

「姐御……!」

「姐御……!」

「じゃあ、次の岩蔵を探しに行こうか」


 これからのあたしたちの目標は次の岩場だ。

 少し大きくなったあたしたちでも手狭じゃない家。

 しかし入口が大きすぎて敵の侵入を許してしまうことがネックだった。

 今回もシャコの侵入を許してしまったわけだし青魚に見つかってしまえば大変だ。

 普段は入口に岩を置いて塞いでいるが、タコに襲われたときや慌てて逃げ帰ったときなどは岩で入口を塞ぐ暇がない。そうなれば居場所がバレないように祈るかシャコのときのように迎え撃つかの選択に迫られるが、できることなら岩蔵の中くらいは平穏に暮らしたい。


 そしてさらに成長して脱皮して成体になったあと、イソギンチャクのベニヒメをお迎えに上がるというのがあたしのプランだ。あたしの海底統一への道は筋立っている。




 道中はヒトデを優先的に探し出して槍を引っこ抜いてもにゅもにゅ食べた。

 おかげで【自己再生】と【銀槍】のLvがひとつずつ上昇してあたしは「うひゃあ!」と声を荒げる。何もかもが順調に事を運んでいて笑いが止まらなくなりそうになる。


 タコの特質で伸ばした手足で太極拳を披露する。

 チワワが控えめに拍手をしてくれる。


 不格好だった左のハサミを再生しておいた。

 うん。これで普通のヤドカリだ。カッコイイ。


【銀槍】のレベルが上がって変わったことは銀色の槍が長くなったことだ。

 長くなったというか長さを二段階くらいに変形できてより使い勝手が増したという感じで、その他にも槍の鋭さがましてより研ぎ澄まされたような印象を受ける。Lvを上げれば特質の能力がとにかく全般的に向上するみたいだ。まーべらす。


 Lvは上げておいて損はない。

 あたしと一緒だ。

 あたしを煽てて持ち上げて損がないのと一緒。


 あたしは煽てられたらそれはもう可愛らしい乙女になってちょこんと座席に座って猫かぶりをする。おめめをぱちぱちして唇はアヒル口にして大抵は上目遣い。この外面モードになったあたしには何人もの男が街灯に群がる夏虫のように近寄ってくるし、外面モードの自撮り写メを何度見返してもあたしはすげー可愛い。ただ男たちの会話には適当に「あっちょんぶりけ」などと答えるのでまったくモテはしない。「星空さんって好きな本とかあるの?」「あっちょんぶりけ」「星空さんの好きな歌手って誰?」「おかん」「コーヒーはブラック派?ミルク派?」「ポカリスエット」「星空さんって可愛いよね」「整形だよっ♪」



 ワカメの特質で緑色に変色しつつワカメの森を突き進んでいくと不思議な空間に出る。



 目の前には大量のヤドカリがいた。

 うえっ。

 巻貝を背負った2メートル級のヤドカリやまだ巻貝を背負えないような稚ヤドカリもたくさんいて各々が各々の生活を営んでいる。

 あたりには家がたくさん建っている。

 岩と岩を組み合わせたような原始的なものではなくてどこかカルシウム質な白くて骨ばった巨大な家。まるで貝殻の成分を集めて再構成したような見た目で、表面がつるつるしていて水面から届く陽光に真珠のような輝きを照り返していた。

 形状は巻貝に似ている。

 底の部分が末広がりで上部に行くにつれてドリルみたいに捻じり巻かれて尖っている。


 あたしの一番近くにいた親ヤドカリが言った。


「旅の者か。ここはヤドカリの村、ポポポン村だ。よくぞ参ったな」

「ふえ?」


 あたしは呆けた声を出す。




【変色・緑Lv4】

【自己再生Lv2】←UP!

【銀槍Lv2】←UP!

【伸縮Lv1】

【吐墨Lv1】

【速拳Lv1】←NEW!



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