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12.かわいいあたし、レベルアップする



 タコとの死闘を終えたあと三日ほどをワカメを食って過ごした。

 やはりワカメは美味い。

 しかしそんなときあたしの中で異変が起こった。

 あたしはもはやワカメの特性を習得しているはずだったし、腹ごしらえの目的以外でワカメを食べようとする意図はこれっぽっちもなかった。


 でも異変は起きた。


 あの電波だ。

 またあの電波があたしを襲ってきた。

 体がぶるぶると震えて己の中の可能性が新たに開拓される感覚が広がる。

 それは兄弟たちも同じことで、毎度のように「きゅぴぴ!?」と狼狽えた声を発しながらくるんとひっくり返ってお腹を見せている。飼い慣らされた犬のようで阿呆みたいだ。


 電波の効果は単純だった。

 能力の発展だ。

 結論から言うとあたしの緑色の変色域が広がっていた。


 今まではワカメと同じような緑色しかあたしたちは出せなかったが、今はどういうわけか青緑だけじゃなく色素の薄めな色も出せるようになったし、さらに言えばもっと濃い緑色も出せるようになった。擬態の腕前が上がっている。


 つまりあたしの特質コピー能力は成長するということらしい。

 同じ種類を食えば食うほど。

 大量に食えば食うほど。

 マジでヤバすぎる。


 だからあたしはその能力の段階を便宜的に「Lv」と呼ぶことにした。

 そういった意味ではあたしの変色能力は【変色・緑Lv2】とでも表現することができるだろう。


 この新事実を受けてあたしたちの今後の方針も変えていかねばならない。


 これまでの方針はできるだけ多くの種類を食べて未知の領域を開拓するというものだった。

 でも今はそれに加えて、同じ種類のものもたくさん食べて能力の強度を上昇させるということも頭に入れておかねばなるまい。

 緑色の幅を広げておくに越したことはないし何より魅惑の自己再生能力である。

 ぜひともヒトデを食って自己再生能力と銀槍能力のLvを上げておきたい所存。


 生存戦略のための要が今のところ自己再生と銀の槍だからだ。


 このレベルアップ論が本当に正しいかどうか確かめるために、あたしと兄弟は一日中ワカメを食べてみることにした。ヤドカリの胃袋は無限大なのか知らないが、結構な量を食うことができる。レベルアップには打ってつけだ。


 そこら中のワカメを千切っては食べ千切っては食べを繰り返していると、やはりあたしの中に例の不思議な電波が送られてきた。てれてれてってー。レベルアップだ。


「お前ら、わかるか?」

「きゅぴぴ」


 兄弟がうなずく。

 あたしの緑色の変色域がさらに広がっていた。

 グラデーションのように上から下へと変色することもできる。


「やべーな」


 できることがさらに増えてやがる。

 誰に教えられるでもなく、何ができて何ができないのか理解できるのが不思議だ。

 それがマネビガウナの本能なのだろうが不思議なことには変わらない。

 不思議だろうと何だろうと今のあたしにはそれを受け入れることしかできないし、どちらにせよ便利な能力であることに違いはないので文句もない。


「ワシもレベルアップしたきゅぴ」

「ワシもよ」

「ワシもワシも」


 兄弟たちも順調に成長できたようだ。

 ナイス兄弟。

 大阪城から舞い降りた天使豊臣。


「今までは岩陰から岩陰へと隠れながら歩いていたが、これからはワカメの森に紛れて移動するのもいいかもしれないな。これだけ自由に色が変えられるなら、そうそう敵にも見つからねえだろ。ステルス迷彩だ」

「ワシも緑でうれしい!」


 キュピ之介がきゅぴきゅぴはしゃぐ。


「うれしくねえよ。でもまあ、利用できるものは利用しなくちゃな」


 生き抜くためには多くの武器が必要だ。

 その武器のひとつひとつも研ぎ澄ましておかなければならない。

 海の世界は過酷だ。

 想像以上に過酷。

 海の生き物は何かしらの防衛機能を備えている。

 何も研究せずにこちらから攻めたら痛い目を見るし、何もせずにのんびり生きていればあちらから攻めかかってくる。隙あらば食ってこようとする。餌に飢えてるのかね。

 まったく。

 困った食いしん坊だぜ。


 それからあたしたちはワカメをむしゃむしゃ食べて、【変色・緑】の特質をLv4にまで上げた。基準はよくわからないがこれだけ上げれば十分だろう。

 突然のことにも対応できるくらいにはなっているはずだ。

 なってなきゃ困る。


「もう当分ワカメはいらねえな。飽きた」

「きゅぴね」

「次の食材を探すか」


 あたしたちは足を揃えて歩き出す。

 そのときエルシャラがこてんと地面にうずくまって苦悶の表情を浮かべた。


「どうしたエルシャラ!?」


 あたしはエルシャラの体を揺する。

 そうしているうちにキュピ之介もチワワもこてんと丸くなって苦しみ始めた。


「おい、どうなってやがる!?」


 兄弟たちの突然の苦しみにあたしは為す術もない。

 一体なにが起こっているのか。


「ぎゅ、ぎゅびい……」


 エルシャラが苦しげな声を漏らした。

 あたしはどうしていいかわからなくなる。

 どうしたらエルシャラを楽にしてやることができるんだ?

 腹太鼓を叩いて励ませばいいのか?

 それともソプラノボイスで歌でも歌えばいいのか?

 しゃらーらーしゃらーらーらーってか?

 あたしは兄弟を楽にしてやれる方法を思いつけない。


 くそ。


 焦燥感に苛まれたあたしがその場を行ったり来たりしていると、あたしまで急に胸が苦しくなってこてんとうずくまってしまう。


「あ、ぐあ……」


 頬を砂地に擦りつけて胸を押さえる。

 くそ。何だって言うんだよ。


「あ、ぐ……」


 それから夜がきて朝がきて一日苦しみ抜いたあたしは、ぷりんっ!と己の皮から飛び抜けて脱皮した。脱皮。おはよう諸君。とうとう脱皮したよ。マドモアゼル。


 周囲を見渡してみると半透明な抜け殻と生まれ変わった兄弟たちの姿が見えた。


「きゅぴぴ!?」


 とチワワが驚く。


「きゅぴぴ!?」


 とあたしも驚く。


 脱皮した兄弟たちはキモグロエイリアンからすこしまともなエビになっていた。

 そもそもヤドカリというものは巻貝を背負ったエビであるから驚くほどのことじゃあない。順調に進化しているようで何より。あたしたちは一日でも早く成体へと成長して巻貝を背負わなくちゃならない。こんなところで立ち止まっている暇はないのだ。


「姐御ー、見て見てー! びゅーん!」

「ふぁ!?」


 あたしは驚愕する。

 脱皮して体を1メートルまで成長させたエルシャラが、地面を蹴り飛ばして天高くロケットジャンプをした。かつてのマザーのように。なんて脚力だよ。迸る万能感。


「すごいきゅぴ、すごいきゅぴ!」


 チワワが控えめに拍手する。

 いつの間にか前脚がハサミになっている。

 見下ろしてみるとあたしの手もハサミだ。


 完全にヤドカリだ。

 まだ本来のヤドカリとはほど遠いけど、それでもそれっぽくなっている。

 それっぽいエビ。


「ワシもやるきゅぴー」


 今度はキュピ之介もロケットジャンプをした。

 びゅおーんと跳んでかなり上まで吹っ飛んでいった。

 マジかよ。

 すげー。

 脱皮しただけでこれだ。

 筋力が半端ないほど増えている。

 見た目からして前とずいぶん違う。

 まず腕と脚が太い。

 図体もごつい。


 ベニヒメはマネビガウナのことをお世辞にも最強の種族ではないと言っていたが、あたしから見ればこの種族は卑怯にもほどがあると思う。


 敵を食えば敵の能力をコピーできるし、巻貝で体を防御できるし、とっておきはこの場違いな身体能力である。


 あたしはマザーが青魚をみじん切りにしていたのを思い出す。

 マザーの身体能力も凄まじかった。

 いずれあたしもああなるというわけだ。


 これで最強じゃないと言うのなら一体なにが最強なんだ?

 あたしはそいつを倒してこの海の女王になることができるのか?


 なんにせよ今は己を強化して生存戦争を生き抜くしかあるまい。

 なぜなら海の世界は過酷だからだ。

 


 進化

 ゾエア幼生体→グラウコトエ幼生体


【変色・緑Lv4】←UP!

【自己再生Lv1】

【銀槍Lv1】

【伸縮Lv1】

【吐墨Lv1】


 お盆だし、明日は連続更新するよ!


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