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11.かわいいあたし、デビルフィッシュと再び相まみえる



 あたしたちが海底を歩いているとまた例のクソタコに出逢った。


「ま た お ま え か」


 あたしもいい加減呆れる。

 あっちに魚の切り身があっただろうが。

 なんでこっちばっかり徘徊しやがるんだ。

 要介護2かよ。

 ぺけれ。

 あたしは舌打ちする。


「まあなんにせよお前ら。警戒を怠るな。奴の眼がこっちに向いてる」

「きゅぴね」


 タコは悪魔の瞳をぎらぎらと輝かせて睨みつけてくる。

 完全に狙いを定められている。

 幼生体だからって舐められているが今の段階ではそれでいい。

 正解だ。

 十分舐めていてくれ。

 舐め切って油断してくれ。


 じりっと嫌な緊張感にあたりが包まれる。


 先に動いたのはタコのほうだった。

 七本の脚で水を弾くように泳いでくる。

 あたしたちは抵抗しない。


「ぎゅびい!」

「チワワ・ザ・デストロイ!」


 チワワ・ザ・デストロイがタコの脚に絡め取られた。

 あのタコ、チワワのこと好きすぎだろ。

 なんだってチワワばっかり狙われるんだ。

 いや可愛いけどよチワワ。


 あたしは目を光らせて叫ぶ。


「今だチワワ!」


 シャキン!


 チワワの表皮から銀色の槍が放たれた。

 無数の槍が体に突き刺さってタコが真っ黒な墨を撒き散らす。


「マンマミーア!」

「やったきゅぴ!」


 完全にタコがキョドってる。

 なにが起きたの!?という様子になって墨を吐きつづける。

 なにかが起きたの!とあたしは胸の内で答える。

 この隙を見逃すわけにはいかない。


「行け! 追い打ちだ! ゴーゴーゴーゴー!」


 あたしたち兄弟は海底を駆け抜ける。


「ってお前ら速え!」


 あたしは驚く。

 あたしなんか屁でもないほどのスピードで兄弟たちが水中を切り裂いていく。


「たぶん、青魚きゅぴ。青魚の特質きゅぴ」


 なるほど。

 速すぎだろ。


「あたしに構うな。まずはお前たちで特攻するんだ。ゴーゴーゴーゴー!」

「了解きゅぴ!」

「ぶち殺すきゅぴ!」


 全身に槍を武装したキュピ之介とエルシャラがタコの土手っ腹に体当たりする。

 あたしの目から見てもグサリといったのがわかる。

 深々と刺さって筋肉繊維が脆くなっている。

 このまま攻撃をつづけていればいずれ奴の体は崩壊して息の根が止まるだろう。

 ひとつの特質を受け継いだだけで、あれほど強敵だと思えたタコにも立ち向かえるのだ。

 特質の有無があたしたちの生存の鍵になると改めて再確認する。


「逃がすなエルシャラ、キュピ之介!」


 タコは猛烈なスピードで海中を逃げ惑う。

 だが青魚の特質を受け継いだ兄弟たちは尻尾と手足を力強く動かした。

 呆気なくタコに追いついて一撃二撃三撃四撃。

 そしてあとから追いついたチワワが渾身の彗星アタックをぶちかましてタコを岩に縫い付ける。三人の槍と体重が伸しかかってタコは身動きが取れない。


 ならば次はあたしの番だ。


 兄弟たちにここまでお膳立てされたのなら仕方がない。

 三匹で押さえつけたタコに対して攻撃を外すようなヘマもしないだろう。あれくらい完璧に押さえ込まれていたら、夢心地のカピバラでさえも攻撃を外すことはない。

 もし外すことがあるとすればそれはアホ面の幼女だけだ。


「これで詰みだぜ、デビルフィッシュ。お悔やみ申し上げる」


 シャキン!


 あたしは銀色の槍を体中に生やして、拘束されているタコを目掛けて飛び込んだ。


「ヤマタノ……オロチ……!」


 ザシュッと槍が突き刺さってタコが完全に沈黙する。


 決まったぜとあたしは思う。

 今のあたしはめちゃくちゃイケてると思う。

 ヤマタノ……オロチ……!

 きゃー。

 かっこええ。

 ヤマタノ……オロチ……!

 やべー。

 マジで自分に痺れる。

 かつてこれほどまでに決め台詞をかっこよく言い放った美女がいただろうか。

 悪いけどあたし以外に思いつかねえ。

 幼女時代のキャメロン・ディアスよりもあたしのほうが辛うじて一歩先行している。


 あたしたちはぐったりとしたタコを見下ろす。


「マジでこいつ死んでんのか?」


 試しに何度か刺してみたが反応はなかった。

 死んだふりという可能性はないと見ていいだろう。


 あたしはゆっくりとキュピ之介を見て、次にエルシャラを見て、さらにチワワを見たあと、お互いに何度かうなずき合った。宣言をするまでもない。


 紛うことなきあたしたちの勝利だった。

 あたしたちはタコをぶっ倒した。

 ならば次にすることと言えばアレしかないだろう。


 タコの踊り食いだ!


 タコのお刺身超好き!

 お醤油か酢味噌で食べるの!


 でも今ここには調味料がないから我慢だ。しかも人間のころと違って味覚に大きな変化が生まれているので、大味なものでも大抵が美味しく感じられるようになっている。ワカメであんなに感動するとは思ってもみなかった。愛しのワカメちゃん。


 まあ人間時代も生キノコで感動するような女だったから大して説得力もないのだけどね。雑草も美味しかったし川の水もがぶがぶ飲んでた。山キツネがドン引きしている中で「うおーん!」と遠吠えしてみせたりもした。きゃぴっ。


 カワイイはつくれる。

 確信。


「よし、兄弟。そろそろお愉しみと行こうじゃないか」

「きゅぴー!」

「きゅぴー!」

「きゅぴー!」


 あたしたちはどうにかこうにかタコの脚を引き千切ってもにゅもにゅと食べる。


「もにゅもにゅ。歯ごたえがあってうめえな。うめえ!」

「淡白な味が堪らないきゅぴね」

「噛めば噛むほど甘味が出てくるきゅぴ」

「ワシ、堪能」


 あたしのみならず兄弟たちもご満足いただけたようだ。

 ほくほく顔でタコの切り身を齧っている。

 あたしもほくほく顔で切り身を齧る。

 齧っている内に体の変化に気づく。


 あたしの両腕が伸縮した。

 びよんびよんに伸びるのだ。

 マジかよ。

 すげえ伸びる。

 たぶんあたしの前脚の最大2倍くらいは伸ばせるし、なんだか柔軟性が増して打撃に耐性ができたような気がする。タコの特性はまさにあたしにとって革命的だった。あたしはもう探偵を名乗ることをやめる。これからはもうこう名乗るしかあるまい。


 麦わらのマーキュリー。

 探偵だ。


「探偵じゃねーか」

「きゅぴっ?」


 あたしのセルフツッコミに兄弟たちがびくっと跳ねた。

 うおーん!




【変色・緑Lv1】

【自己再生Lv1】

【銀槍Lv1】

【伸縮Lv1】←NEW!

【吐墨Lv1】←NEW!


 兄弟は上記に加えて

【速泳Lv1】



 タコ:

 タコってめちゃくちゃ頭のいい生き物で、寿命が五年と短いのですが、もし長生きすれば地球を支配できるんじゃないか、とか言われています。眉唾ですが。

 心臓が3つあるのも有名ですね。

 神経細胞の多くは頭ではなく腕にあって、オスの生殖器官も腕にあるそうです。

 ヘモシアニンというタンパク質が多く含まれているので、血は青いです。

 まさに悪魔!





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