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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少年の独り言

そんなに深く考えずに、どうぞ

――――――やっぱあいつが担任の時点で俺の高校生活終わってるわー。


――――――あの娘さー、最近彼氏出来たからって調子乗ってない?


――――――あいつこの前めちゃくちゃキモかったんだけどさぁ……




嗚呼、まただ。


この教室に静寂なんてものは存在しない。常に僕の耳元には同級生のざらついた雑音がまとわりついている。口を開けば誰々はただの根暗だ、あいつを省いてやろう、今度あいつから金を騙し取ろう、とこんな声ばかり。


僕の心の平穏を保ってくれるのは一つだけ。


『今日もクズばっかの学校。早く帰りて―』


スマートフォンを机の下に隠し、SNSに呟く。するとマナーモードのスマートフォンには一気に通知がなだれ込んだ。


『分かる~~~~律儀に行ってるから偉い』


『それな』


『私今日サボるwwwクズwww』



こういった返信以外にも大量のお気に入り、リツイートの通知がやってくる。いずれも数万を超える数の僕のフォロワーからのものだ。しかも、誰も僕とは現実での繋がりはない。所謂ネット友達というやつだ。


別段フォロワーを増やすことなんてのは難しいことではない。ところせましと繋がって、○○団だとか、ネット上での家族だとか、妙な連帯感さえ付ければ数万程度の関係は築ける。後は適当にお互いを誉めそやす。簡単なことだ。


彼らには僕の愚痴を聞いてもらえる。父さんや母さんには聞いてもらえない悩みが。この学校の上位に立つあの妬ましい連中への攻撃が。


こいつらの浅ましい写真―――例えばカツアゲとか、イジメとか、飲酒喫煙―――を匿名でネット上に晒すこともあった。こいつらのあずかり知らぬところで、全国の見知らぬ誰かがお前らの悪行を更に広い世界に晒す。何人かはそれが原因で退学にもなった。いい気味だ。


僕のことがバレやしないかって?有り得ない。発信源が常に僕とは限らないからだ。僕は一つしかアカウントを持ってるわけじゃない。四つのアカウントからランダムに送り出しているんだ。別人として。



この学校で僕のアカウントを知る者は誰もいない。この学校の影の支配者はきっと僕だ。いつもふんぞりかえって偉そうな顔してる教師達も、お前らの弱みさえ掴めばきっと僕に適うような奴はいなくなる。




そう、僕は今ヒエラルキーの頂点に達している………そんな気持ちで満たされる毎日であった。



ある日のこと。





――――――――知ってる?隣のクラスの奴さぁ、ブログでクラスの奴の悪口書いてたのバレて詰んでるらしいよww


――――――――こりゃいじめ確定ですわ……同情する。




詳しいことは知らないが、誰かさんがヘマをこいて絶望的な状態になったらしい。


担任の話によれば、クラスの奴の本名を晒した上に、ハンドルネームも名前をもじったタイプの特定されやすいものだったとか。そこまですれば顔が割れるに決まってる。頭の悪い犯行だ。


僕はそんな風にはならない。絶対に。僕には数万のフォロワーがいる。皆味方なのだから。





家に帰った瞬間、急に恐怖感がやってきた。



クラスの誰かが僕の動向を見てて、僕のアカウントを知っているのではないか。決定的な証拠を掴んでくるのではないか。


実は僕を絶頂から突き落とそうと、その機会を今か今かと待ち望んでいるのではないか。


風呂の中でも夕飯時でもそんなことばかりが頭に浮かび、落ち着こうとしても全く頭からそのことは離れてはくれなかった。




両親が寝静まった深夜。パソコンの前に座る。


僕は導火線として一番使用していたアカウントを削除することに決めた。


学校の愚痴や馬鹿どもの非行写真の投稿を主に行ってきたこのアカウントさえ消してしまえば、ある程度身にかかる火の粉を払うことは出来るだろう。


何も怯える必要は無い。僕にはまだ三つもアカウントがあるのだ。一つ位どうなろうと関係ない。証拠もきれいに消してやろう。ほとぼりが冷めた時に他のアカウントで同じことをやればいいだけだ。



『アカウント削除』の項目にクリックしようとマウスを動かした。





その瞬間、メッセージ欄に見慣れないフォロワーからメッセージが届いた。広告か何かと思って無視しようとも思えたが、気まぐれで開いてみることにした。


『どうして』




たった四文字だけの、見知らぬ誰かのメッセージ。どうしても僕にはそれが奇妙で身の毛のよだつものに感じた。直ぐに消した。


するとまた同じフォロワーからメッセージが届いた。



『僕のことを嫌いになったの』



手が震えていた。


誰だ。


どこから見ている。


僕の何なんだ、あんたは。


その後も次々とメッセージは届いた。


『どうして消そうとするの』


『あんなに君の愚痴を代弁してあげたのに』


『君の言いたいこと、やりたいことを遂行していったのは僕なのに』


『君の心を救ってあげられるのは僕だけ』


『他のフォロワーなんて見ないで』


『僕だけを見ていて』



僕は叫んだ。叫ぼうとした。声が出なかった。


勢いに任せてパソコンの電源を落とそうと、主電源ボタンを何度も押した。


けれどもパソコンは消えない。消えてくれない。


そうしているうちに幾度もメッセージが流れてくる。一秒ずつのペースで、滞ることなく。



『今君は怯えているね』


『怯えることはないんだよ』


『僕は君の味方だから』



動くことさえできない恐怖。金縛りを受けている感覚に近かった。


首を絞められているような苦しさの中で、必死に指をキーボードに向ける。せめて何者なのか。それだけでも知りたい。知ったところでどうしようもないのは分かっていても。



『おまえは だれだ』


最後の一文字を打ち終わるとほぼ同時に、返信のメッセージが流れた。




『僕かい』


『僕は 君の アカウント』


『ずっと君を見てきた』


『だから これからも ずっと』


『君を逃がさないから』




その瞬間、画面から誰かの影が僕の首を掴んで――――――――――――――――――
















――――――――よおイサミ。何見てんだ?


――――――――いや、大したもんじゃねえんだがな。最近ネットで噂のツイッターアカウントがあるのよ。


――――――――へえーそれまたどんな。


――――――――ほぼ毎日更新され続けてツイパクなり晒しなりやってたアカウントが急に定期ポストみたいにひとつのことしか呟かなくなったとさ。毎日一回ずつ、同じ時間に、な。


――――――――飽きたけどただ放置すんのはつまんねえからちょっと細工したろーとかそんなもんじゃねえのかね。


――――――――飽きたからってそんな手間かかることするもんかね……それよりお前、田宮知らねえか?


――――――――あーあの毎日スマホいじってたパズドラマン?もう一週間学校来てないらしいべ。てか家出したとかなんとかって聞いたけど。


――――――――お前田宮のことどんな風に見てたんだ……てかそれじゃあ俺明日のペア英語の授業どうすりゃいいんだ……オクトパスの祭りってどういう意味だよ……


――――――――お前そりゃOCTOPUS(タコ)じゃなくてOctober(八月)だろ。


――――――――……え、マジで?













『助けて』



『助けて』



『助けて』





『ココカラ ダシテ』




田宮君がどうなったかは分かりません。

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