第8話
半年以上前に参加した第三ゲーム、結月は一人の少女と出会った。初参加だった彼女と結月は共にゲームをクリアしたが、あのゲームは結月が参加した中で最も険悪な雰囲気だったように思う。あのゲームに、眼前の少女もいたのだ。地雷に下半身を吹き飛ばされ、散ったプレイヤーの片割れ。ようやく思い出した。親友を失った後も、この少女はゲームを続けていたのか。
「……響、だったっけ」
「そーだよ、あのチビはどうした」
「死んだよ」
結月の心中とは裏腹に、その言葉はあっさりと口から零れ落ちる。内心の動揺を悟られないよう、結月は努めて冷酷になろうとした。
「あの子は二、三か月前に死んだ。それがどうかした?」
「……人は変わらねぇな。それで次はそこのガキかよ」
「朱莉は関係ない」
「どうだか」
そして響が動く。手に持った木刀サイズの木の棒を剣道の要領で構え、結月目掛けて容赦なく振り下ろされる。結月はスライディングで響の脇を抜け、砂利を掴むと振り返った響の顔を狙って投げつけた。相手は長物。結月は無手。距離を取った戦闘は圧倒的に不利だ。一瞬だけ響が怯んだ隙を見逃さず間合いを詰める。響はいまだに棒を離さない。その時、彼女の敗北は決まった。
結月は懐に滑り込むと響の右手の親指を捻じ曲げる。あらぬ方向に折り曲げられた響の手から木の棒が滑り落ちた。
「あぐっ……」
突然の激痛に響の動きが止まる。結月は響の襟首をつかむと鳩尾に膝蹴りを叩き込み、力が抜けた響を無理やり引き倒した。
「悪いね、響がいると邪魔なんだ。殺しはしないよ、多分。でも、少し眠っててね」
結月は響が落とした木の棒を拾い上げると、身体を起こそうともがく響の頭部にフルスイングする。鈍い音と共に、再び響は地面に倒れ込んだ。飛び散った血が結月の頬を汚す。それを親指で拭い、結月は意識を失った響を一瞥した。振り返ると、朱莉が怯えるでもなく感心した様子で手を叩いている。結月は思わず苦笑した。
「怖くないの?」
「まぁ、前職がかなりグレーだったものですから……」
「へぇ」
この業界では珍しくもない話だ。結月の知り合いにもここに来る前から一人二人殺しているのでは、と噂されている人物がいるし、ベテランプレイヤーともなれば競合を殺さなければならない場面に出くわすこともよくある。結月ですら初参加のゲームで一人殺しているのだ。朱莉がどんな人生を歩んでいようと関係ない。
「あの人、死んだんです?」
「いや、多分生きてる。打ち所が悪ければ死んでるかもだけど」
推理ドラマでは突き飛ばした拍子に机の角などで頭を打って死んだり、階段から転がり落ちて死んだりするが実際にはそう簡単に人は死なないものだ。もちろん死ぬ人間もいるし絶対死なないとは言い切れないが、少なくとも結月は階段から落ちても家の中で転んで頭を強打しても死んでいない。意外と人間は頑丈にできている。
「朱莉はもうクリアした方がいい。鍵は手に入ったんだし、いつまでも居座ると危険だ」
「それはそうなんですけど……もう少し一緒にやってもいいですか? 迷惑はかけませんし、いざとなれば全然見捨ててもらって構わないんで」
「自己責任ってことなら、私はいいよ」
「ありがとうございます。結月さんのプレイスタイル、参考になるので」
朱莉は鍵を内ポケットに隠すと、そう言って笑った。




