第7話
木々が鬱蒼と生い茂る森の中、結月は一人佇んでいた。第十二ゲームは、この広大な森に隠された鍵を見つけ出し、首に装着された爆薬仕込みのチョーカーを外すという内容になっている。時間制限はないが、ゲームの中でも食事を取らなければ餓死判定になってしまうため三日が実質的な制限時間になるだろう。もちろん、サバイバル術に長けている人間であれば水源を見つけ、野草を食べながら一ヶ月近く生き残れる可能性はあるが。
参加人数百名に対し、鍵の数は七十個。三十人は脱落が確定している。結月は小枝と雑草を使って簡易的な十字架を作り、それを一定間隔で落として森を進んでいた。こうすることで方向感覚を失わずに元いた場所へ戻ることもできる。
結月が巨大な岩に腰掛け追加の十字架を作成していると前を通りかかった少女が声をかけてきた。朱莉だ。
「あれ? 結月さん?」
「お、久しぶり。ゲームは順調?」
「まぁ、何とか。結月さんは何されてるんです?」
「目印作り」
結月は手製の十字架を朱莉に向かって放り投げる。朱莉はそれをまじまじと見つめ感嘆の声をあげた。
「なるほど。よくできてますね」
「簡単だよ。小枝二本と長めの雑草一本で作れる」
「実は私、鍵っぽいもの見つけたんですけど……」
「へぇ、早く取っちゃわないと横取りされるよ?」
「でも、罠とか怖いんで……」
朱莉は結月の隣に座ると小枝を手に取る。
「手伝いましょうか」
「代償は?」
即座に切り返すと朱莉は驚いたように瞳を見開いた。そしてすぐに悪戯っぽく笑う。
「さすが結月さん。わかってますね」
「ここじゃ人の善意を簡単に信用するわけにはいかないからね」
「私が見つけた鍵っぽいものを一緒に調べてほしいんです」
「……わかった、いいよ」
まだゲームが始まって数時間。余裕はある。たとえ朱莉が見つけたものが本当に鍵だったとしても、彼女を現実世界に送り返してから自分の分をゆっくり探せばいい。
「やった。じゃ、お願いします」
「うん、これでラストだからちょっと待ってて」
慣れた手付きで十字架を作り、朱莉にも少し持ってもらって結月は岩から飛び降りた。先導する朱莉のあとを追いかけながら目印に十字架を落としていき、たどり着いたのは少し開けた場所だった。朱莉が指し示す先にはRPGに登場しそうないかにもな宝箱が設置されている。
「あれなんですけど……」
「よし、調べてみようか」
結月は少し離れたところから大きめの石を手に取り宝箱に向けて投げつけた。コツン、と小気味のいい音を立てるだけで特に何も起こらない。続いて長めの枝で宝箱のあらゆる面を突っついたり叩いたりしてみるが、やはり何も起こらない。
「んー、当たりですかね?」
「わからないよ。開けたらドカンもあり得る」
「おー、怖」
全く怖がっていない様子で朱莉が笑う。肝の座った子だな、と結月は心中で呟いた。しかしいつまでもこうしているわけにはいかない。結月は恐る恐る宝箱を持ち上げてみた。非力な結月でも簡単に持ち上げられるほど軽い。優しく上下に振ってみるとカランカランと音がした。
「どうです? ヤバそうですか?」
「いや、多分当たりだ。でも万が一もある。私が開けてみるから離れてて」
「了解です」
朱莉が安全圏まで離れたことを確認し、結月はそっと宝箱を開ける。中にはこれまたありがちな、派手な装飾が施された鍵が入っていた。
「おめでとう、鍵だったよ」
「ありがとうございます。半分くらい横取りされるかなって思ってたんですけど」
「時間的にまだ余裕があるからね。追い込まれてたら取ってたけど」
「正直な人なんですね、結月さんって」
「まさか。必要な場面では躊躇なく騙すよ」
「そういうこと素直に言えちゃうところも、ですよ」
和やかな雰囲気で結月が朱莉に鍵を手渡そうとする。が。
「結月さんッ!」
結月の背後で、何かが空気を切り裂く音がした。とっさに前方へ飛び転がって回避し手に持っていた鍵を朱莉へ投げる。朱莉は器用に投げ渡された鍵を受け取った。
「チッ……ダメだったか……相変わらず勘のいい女」
「相変わらず? どこかで会ったかな」
結月が振り返るとそこには赤髪の少女が立っている。その手には木刀サイズの木の棒が握られていた。あれで頭を強打された暁には一撃で戦闘不能もあり得る。危なかった。朱莉が叫んでくれなかったらどうなっていたか。
「ホントに人の顔と名前覚えるの苦手だな、アンタ」
「悪いね。他人に興味がないんだ」
「は、よく言うぜ。あのチビは随分可愛がってたくせによ」
「……まさか」
その時、一人の少女の名が結月の脳内に浮かび上がった。




