第5話
見覚えのない天井。自分のものではないベッド。そして左腕に走る鈍い痛み。朱莉はゆっくりと上体を起こした。
「第一ゲームクリア、おめでとうございます」
声の主に視線を向けた朱莉はそこでようやく痛みの正体を知る。肩の辺りで黒髪を切り揃えた少女が、点滴の針を引き抜いたのだ。
「お久しぶりです。いや、私がそう感じるだけですかね」
「はい。朱莉様をご招待してから、実際には三日程度しか経過しておりませんので」
全身を黒いワンピースで包んだこの少女に、朱莉は見覚えがあった。
『トッププレイヤーのあなたをご招待に参りました。命を懸けてゲームをする覚悟はありますか?』
三日前に朱莉の住むマンションを訪ねてきた少女。あの時の台詞を、朱莉は一語一句違わず思い出せる。
「いかがでしたか? 初めての命がけのゲームは」
「驚きですよ、マジでこんな世界があるとは……あの二人、ホントに死んだんですか?」
「えぇ、亡くなりました」
「ですよねー。これ、帰る方法とかってあるんです?」
「百回クリアで自宅に戻る権利が贈呈されます。それまではこちらで生活されて下さい」
案内役の少女は機械的に答えると、スマートフォンを朱莉に手渡した。
「こちらは島内でのみ使用できる携帯端末です。島内の地図やゲームの開催スケジュールなどを確認できます」
「結月さんもそんなこと言ってましたね……フィリピン海でしたっけ?」
「はい。簡単な説明は受けられたようですね」
「まぁ、わからないことだらけでしたから」
朱莉はこれが十一回目のゲーム参加だと言っていた黒髪の少女を思い出す。不思議なプレイヤーだった。初参加の朱莉たちを見下すことなく共にゲームクリアを目指し、瀕死の雪を救うためピラニアだらけの浴槽にためらいなく手を入れた少女。ゲームを続けていれば、いずれ結月とも再会できるだろうか。
「それと、今回の賞金をそちらの端末に振り込んでおきましたのでご確認ください。島内で物を購入する際には必須のポイントです」
朱莉が案内役の指示通りに端末を操作すると、入金の欄に二百五十万ポイントと記載されていた。これが今回の賞金らしい。
「一ポイント一円換算ですので、使用する際に迷うことはないかと」
「わかりました。これって一律なんですか?」
「いえ、ゲームの賞金はプレイヤーの活躍次第で大きく変動します。他に何かご質問は?」
案内役の少女は点滴の後片付けをしながら淡々とした口調で問う。朱莉は少し考え込んだもののすぐに口を開いた。
「少し出掛けてきても大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありません。これからも何かご不明の点は私にお申し付け下さいませ」
「じゃ、お言葉に甘えて」
朱莉はベッドから降りると部屋を出る。廊下は想像以上に長く続いており、一定間隔でドアが設置されていた。ナンバープレートの番号を確認し、朱莉は小さく呟く。
「三○四号室……」
そして街の散策へと繰り出していった。




