第1話
ハンドルネーム、結月。本名、月島結香はぬいぐるみやら積み木のおもちゃやらが散乱している子供部屋で目を覚ました。上体を起こして周囲を見渡してみると四人の少女が壁際に身を寄せあっている。結月はとりあえず少女たちに向き合う形で床に腰をおろした。
「えっと、はじめまして。結月です。ゲームクリア回数は十回で、今回が十一回目のゲーム参加。みんなは?」
少女たちは戸惑った様子で顔を見合わせていたが、おずおずと一人の少女が手を挙げる。
「私は、雪、です。あの、私たち、その、ゲーム? とかよくわからなくて……」
他の三人も雪に倣って次々と頷いた。それを見た結月は絶句する。まさか自分以外全員初参加だったとは。
「よろしければ、少し説明してもらえませんか……?」
面倒だな、という本音は胸の内に押し留め、結月は口を開く。
「わかった。じゃあ簡単に今の状況を説明するよ。私たちは今、命がけのゲームをしています。ここは現実世界じゃなくてゲームの中。自分でログアウトできないVRMMOを想像してもらえればわかりやすいかな」
「ち、ちょっと待ってください! 命がけって……本気ですかッ?」
早速一人の少女が結月の言葉を遮った。しかしその質問は想定の範囲内。結月は冷静に首肯する。
「そうだよ。この世界で死ねば現実の世界でも死ぬ。だから死なないようにみんなでゲームクリアを目指す。他に質問は?」
すると今度は眼鏡をかけた青髪の少女が手を挙げた。
「現実世界での身体はどうなってるんですか?」
「ヘッドギアっていう機械を頭に取り付けられてベッドに寝かされてる。点滴で生かされてるけど、こっちの世界でも三日くらい食事をしないと餓死判定になって死ぬからそこも気をつけて」
「ゲームをクリアできれば生きて現実世界に帰れるんですか?」
「帰れる。ただし普通の生活には戻れない。私たちはフィリピン海の孤島で、ゲームをして稼いだポイントを使って生きていくことになる。その島にはプレイヤーがたくさんいてポイントさえあればある程度自由に暮らせるよ」
「つまり、ラチられた、と」
「そうなるね」
理解が早くて助かる。何はともあれゲームを進めなくてはならないのだ。時間制限があるゲームも多い以上、説明に時間を割くわけにはいかない。
「とりあえず、生きて戻れれば『案内役』が詳しい説明をしてくれるから。ゲーム、始めていいかな?」
「…………」
しかし困った。誰も動こうとしない。命がけのゲームと聞かされて完全に尻込みしてしまっている。結月は仕方なく一人で立ち上がった。今回はこの家から脱出すればゲームクリアである。まずはこの子供部屋から出る鍵を見つけるところからだ。
罠に注意しながら結月は家具を次々とひっくり返していく。だがタンスを開け、ぬいぐるみを一つ一つ調べ、額縁の裏まで見てみてもそれらしきものは出てこない。代わりに鍵がなければ開かない引き出しと簡単な工具セットを見つけた。
「これで開くかな……」
鍵穴の形状的にはマイナスドライバーでも開けられそうではある。結月がマイナスドライバーと鍵穴を見比べていると、先ほど結月に質問してきた青髪の少女が床に膝をついた。そして結月の手から工具セットを取り上げる。
「これってもともと十円玉で開けられる鍵なんで、マイナスドライバーでも開きますよ」
「へぇ、詳しいね。ハンドルネームは?」
「朱莉です。こんな髪色なのに、朱莉」
「いいじゃん。どうせみんな偽名なんだから」
「そうですね」
そんな短いやり取りの間に、朱莉はマイナスドライバーで器用に鍵を開けてくれた。
「ありがと。危ないから少し離れてて」
罠が仕掛けられている可能性も考慮して結月は朱莉を下がらせる。慎重に引き出しを開けてみると中には銀色に輝く鍵が入っていた。これで出られるなら結月が片っ端から部屋を調べていた一時間はなんだったのだろうか。とんだ徒労である。
「次、行こうか」
「はい」
どうやら朱莉は現状を飲み込んでくれたようだ。だが他の三人は部屋の片隅から一歩たりとも動こうとしない。結月は部屋を出る前に一度振り返り口を開いた。
「そこでいつまでも膝抱えてるのは自由だけど、いずれは動かないと死んじゃうよ。じゃ、私は先に行くね」
三人は不安げに顔を見合わせる。しかし覚悟を決めたのか、雪を筆頭にして全員が重い腰を上げた。




